宇宙最強ストリーマー唯ちゃん。美少女アイドルウーチューバーを守ったら帰らないでと言われた話。
「宇宙乃奇跡TV"をご覧の皆の衆ー!!
スピリウムハロハロー!! アナタの心に零の螺旋!!
キュンキュン輝く宇宙のアイドル! スピラだよぉ!!
今日も今日とて生配信の時間だぞー!!」
唯が「時間になった」といい、生配信とやらを始めた。
瞬間変異変装キットなる道具を使い、美少女アニメのキャラクターのような姿に変身してカメラの前に立って喋っている。
変装しなくても元から美少女だとは思うのだが、コチラの方がウケがいいらしい。
オレは部屋の隅に棒立ちになり、モニターに流れるコメントや投げ銭の類をただ眺めるだけ。
唯が生配信を始めた途端に視聴者は1000万人を超えて、それでもなお増え続けている。宇宙はすごいと感心する。
お布施というか投げ銭も50万や100万は当たり前、そりゃ超高級高層マンションをフロアごと買えるわけだよなと納得した。
「皆の衆、スクショの準備はできてるかぁ!?
はてさて今日の試みはぁ!?
新弾開封の儀だぁー! 大宇宙キター!!
皆の衆も買ったよねぇ? 買ったよなぁ!?
あー。いつもどおりギャラクシーレアが出なかったら一枚ずつ脱いでいくんでそこんとこよろしくー! 通報は勘弁だぞー!!」
コメント欄が爆発しそうなほどの熱気に包まれていく。
地球にいた頃は生配信なんてものには興味なかった。
ただ周りに熱中している人達がいたのは把握していた。
今ならその気持ちがなんとなくわかる。
唯の発言一つ一つに一喜一憂し、コメントや応援を通じて同士達が心を通わせる。姿形は見えないが不思議な一体感のようなものを作り上げているのだろう。
アイドルや歌手のコンサートに近い感覚だろうか。
生配信は順調に進み、1時間ほど経過した。
唯はテンション高くファンを喜ばせている。
内向的で友達がいない女の子がここまでのし上がるには相当な努力と覚悟が必要だっただろう。
唯が一生懸命に頑張る姿を見ていたら、いつしかオレも心から頑張れと応援していた。
不意にパリンとガラスが割れる音がする。
音のした方へと振り返るとベランダの窓ガラスをぶち破り、ボロボロの服を着た異形の男性が凶器を手に室内に侵入していた。
「あ! えっとぉ……本日のスペシャルサプライズタイムだー!」
唯はなんとかその場を乗り切ろうとしているが、尋常ならざる状況なのは間違いない。
本当に演出なのかも知れないしコメント欄を確認する。
【コレはガチなヤツ$1000000】
【誰か通報しろよ$5000】
【太陽監獄から逃走した囚人404に酷似】
【スピノンが暴行されたら財産投げてヲレもシム$999999】
これは多分ダメなヤツだ。
手近にあった紙袋を頭に被り、唯の救出に向かう。
「金と逃走用の車をよこせ……殺すぞ。──なんだ、テメェは」
「この番組のスタッフです。大人しくしなさい」
「ズタ袋被った異常者の間違いだろ? 死ねや!」
唯に向けていた刃物をコチラに向けて、男は口から黄緑色のガスを放射する。
恐らく毒ガスだろうが化け物には通用しない。
「唯のおかげでオレは変わった。心が晴れた、悩みが消えた。
オレはもう誰にも負けない。進化したオレの技を見せてやる。
終の螺旋【唯我】──」
心を束縛していた枷が消え、零の螺旋は進化した。
新たなる境地、終の螺旋。全てを終わらす破滅の光。
螺旋を描く閃光が男を貫き蒸発させる。
「あ〜。えっとぉ……。皆の衆! 余興は楽しんでいただけたかな? 新しいスタッフを紹介するぞよ!!
もうめっちゃくちゃにつんよい最強スタッフゥー!
えっと、えっと……月丘レオくんだー!! 拍手〜」
カメラの前に立ちっぱなしだったのを忘れていた。
急に恥ずかしくなってカメラに一礼してすぐにハケル。
コメント欄が大荒れしている。
【スピたそは今までスタッフ無しでやって来てたよな??】
【あーあ。彼氏発覚でこのチャンネルも終わりですね】
【スピたそ大好き!!!!!】
【次回も楽しみにしてるよ〜】
【完全に演出だろ? 同接過去最高だし、上手く演ったな!!】
「新しい演出も楽しんでくれたかなー??
たくさんの応援コメントアリガとー嬉しかったぞー!
宇宙中の皆の衆がコメくれたおかげでぇ、サーバーが天地創造レベルで悲鳴上げてるぞよ! 早速ネットでも取り上げられたおかげでぇ、オレっちのチャンネルの登録者数も劇バズり流星群だぁぁ! それではまた次回! バッハハイハ〜イ!!」
唯の合図を受けて生配信を終了させる。
何というべきか考えていると、唯が無言で近づいてくる。
悲しみ、疲れ、戸惑い、恐怖、様々な色が浮かんでいる。
「怖かった……。ひ、ひっ……く」
「大丈夫だから。唯が上手くやったし、悪人はオレが倒した」
唯はオレの服の袖をキュッと摘みながら涙を堪えている。
「とりあえず今日は帰るから。また明日、ゆっくり遊ぼうな」
唯の頭を撫でてやると、双眸から真珠のような涙が落ちる。
「帰らないで……。今日はずっとそばにいて……」
オレの胸に額を当て、身体を震わせ、我慢の限界に達したのか声をあげて泣き始める。
「わかった、帰らないから。もう怖い人も来ないよ。
唯、大丈夫だ。だから泣く必要ないだろ?」
「……うん。お兄さんがいてくれたら怖く、ない……」
「オレは月丘レオなんだろ? 気に入ったからレオでいいよ」
「うん……。レオ、ありがとう……」
鼻をすすり、服の袖で涙を拭い、空元気であろう笑顔をみせる。その笑顔はまるで宝石のように綺麗で眩しかった。
最後まで読んでいただきありがとうございました。