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神様家出する。サラはお前の母親だ。


 午前8時。

 

 オレの部屋の中から男女が口論する声が聞こえる。

 美唯子と食べるために運んできた料理が乗ったトレイを床に置き、ドアノブに手を掛ける。


「いい加減にしないか! ちゃんと事情を説明するんだ!」


「うっさい! ミィの勝手だし! 偉そうに指図すんな!」


 部屋の中で零終と美唯子が一触即発の空気を醸し出している。

  

「零終、何をしているんだ」


「父さん! 父さんには知る権利がある。

 包み隠さずに言いますッ! この女の恐ろしい正体を……」


 オレに気づいた零終が声を張り上げた。


「やめろ……言うな。やめろっつってんの……」


 ()()という単語が出た途端に美唯子はトーンダウンし、零終を睨みつけながら右手を突き出す。


「終の螺旋【蔘式】──」

 言ったら殺す。世界も殺す。よく考えることね」


 美唯子の右手に集まる閃光は見紛うことなく終の螺旋だった。

 あれを解き放てば世界が終わる。

 恐らくは脅しではない。力の加減も、エネルギーの収束もさせず、眩い光条が無限に広がっていく。


「美唯子、落ち着こう。零終はオレ達の宝だろ?」

「あんたは黙ってて、ミィはあんたさえいればいいんだから」

 

 零終に向けた右腕から怒濤のような力が流れ出す。

 美唯子のあまりの迫力と圧迫感に、零終の額からツウと一筋の汗が流れ落ちる。


「……わかったよ。()()()

 オレの負けだ。大人しく出ていくよ」


 零終は両手を上げながらオズオズと後退を始める。


「……不愉快だからこの男を城から追放して。

 ミィを愛していることを証明してみせて」

 

 美唯子は零終を見ながら吐き捨てるように言った。


 さすがに我慢の限界だった。

 オレに文句を言っているだけならまだいい、だが世界を危険に晒し、あまつさえ大切な零終を城から追い出せという。


「お前、いい加減にしろよ? 零終は何も悪い事してないよな?

 そんなに不愉快なら()()()が出ていくよ。

 自分の意見が全て通ると思ったら大間違いだ。行こう、零終」


「父さん、俺は大丈夫ですから。()()()のことを頼みます。

 大切な人でしょう? お姫様のように扱ってあげてください」


 零終はオレに頭を下げると部屋から出て行った。

 零終を守ってやることが出来なかった。

 申し訳ない気分でいっぱいになる。


「美唯子、なんで追い出す必要があるんだ。

 さすがにムカついた……オレは家出するからな」


「はぁ? 家出って、何子供みたいな事言ってるのよ」


「ドアの外に食事が置いてあるから、しっかり食べろよ。

 それとまだ肌寒いから厚着しろ。じゃあな」


 喧嘩別れの言葉としては適切ではなかったかもしれない。

 こんなことだから剣信にヒロインのようだとバカにされるのだろう。

 

 ◇ ◇ ◇ ◇


 会議までまだ時間はあるが部屋には戻れない。

 外に出て10番街の人を救うには時間が中途半端だ。


「あ! ヤッホー! もうご飯は食べたー??」


 あれこれ思案しながら廊下を歩いていると、朝から元気いっぱいな素零と遭遇した。

 

 そういえば、素零はオレとサラの子供かも知れないらしい。

 確かに世界から消してはいけないと感じていたし、素零がどれだけ悪い事をしても憎しみの感情を抱くことはなかった。

 それに抱きしめると心が幸せで満たされる。


「素零、オレの事をどう思う?」

「んー? 大好きかな。誰よりも信頼してるし、いつも素零(オレ)の味方をしてくれるよね? 急にどうしたの?」


 素零は即答した。

 これだけ真正面から好意をぶつけられると、さすがに口元が緩んでしまう。


「素零、こっちにこいよ。抱いてやりたいんだ」

「え? やだよ、もうそんな歳じゃないし、……うわ!?」


 素零を持ち上げて肩車してやる。

 そのまま廊下を歩いていると、すれ違う下位層のエニグマ達がクスクスと笑っているのがわかった。


「本気で、恥ずかしいから! 何してんだよ! それにどこ向かってんのさ」

「ああ、29番(サラ)の部屋に行くんだ」

29番(サラ)〜? そんな雑魚に会ってどうすんのさ」

「行けばわかるさ。多分な」


 羞恥心に駆られた素零に頭をぽこぽこ殴られながらも廊下を進む。

 サラの部屋の前まで辿りつくと、素零を下ろして扉を叩く。


「……はい?」

「オレだけど、入っていいかな?」

「あ、どうぞ、でも少し待ってくださいね」


 サラが出てくるのを待っていると、素零がオレの腕を引く。


「やっぱり素零(オレ)、帰る。29番になんて用はないし」

「素零、よく聞けよ。サラはお前の母親だ」

「………………えっ?」


 素零は石のように硬直してしまった。

 さすがに突然過ぎたかもしれない。


「いいですよー? いつでも入ってください」


 ドア越しにサラの優しい声音が響く。


「ほら、行くぞ」


「ちょちょ、ちょっと待ってよ、母親? 意味わかんないけど!

 じゃあ父親は一体誰なのさ!」


「ああ、オレらしい。嬉しいか?」


「………………うえぇっ!? 2番(オレ)が父…………え? あの、エェ?」


 素零はまた硬直してしまった。


最後まで読んでいただきありがとうございました。

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