朝食はバイキング。ドラゴンからの果し状。
──神の居城、食堂。
朝食は基本的にバイキング形式だ。
仲間の数も増え、エニグマ達も戦力として大勢引き入れたこともあり、とにかく何もかもが大掛かり。
シェフだけでも軽く50人はいるし、給仕は100人以上いる。
それでも入れ替わり立ち替わり、朝食を食べに来る者の世話は追いつかない。
食事内容は誰もが満足するように考えられており、和食、洋食、ありとあらゆるものが同時に提供されるようになっている。
食堂に足を一歩踏み入れた途端、パンが焼ける香ばしい匂いが鼻腔をくすぐる。食事をしたいという意識が掻き立てられた。
本当なら席に着いてゆっくりと食事を楽しみたいのだが、どうしても美唯子が部屋で食事をとりたいと言うので、二人分の食事を皿に盛りつけている。
バイキングの盛り付けはセンスが問われる。
和なら和、洋なら洋で統一するのは基本だとして、栄養のバランスや彩まで考えるとなると最後まで気を抜けない。
「あっ! 師匠! 一緒に朝メシくいましょーよ!」
大量の料理と睨めっこしていると、仁義が剣信とドラゴンを引き連れて、手を振りながらやってくる。
全員のプレートを覗いてみる。
仁義のは全体的に茶色い。揚げ物や肉ばかりで野菜や果物の類が一切ない。見ただけで胸焼けを起こしそうだ。
剣信は一転してまとも。
ご飯に味噌汁、納豆、焼き魚、ひじき、焼き海苔、生卵。
和食朝食の理想系のような完璧な組み合わせだ。
ドラゴンは茹でた鳥ささみ、ブロッコリー、オクラ、ニンジン、ゆで卵、無糖ヨーグルト。全体的に味がなさそうなものばかりだ。
「いや、オレは美唯子と食べるから」
「はぁ……。それで陽神はどこっすか?」
「オレの部屋で待ってるけど?」
「師匠をパシリにしてんすか!? 調子に乗り過ぎでしょう!」
確かに尻に敷かれてる感は否めないが、結局は自分の意思でやっているわけだから、反論するつもりはない。
「なんかさ、ペルさんてどちらかと言うと彼氏というよりは彼女だよね? 乱暴な彼氏に振り回されても反抗しない従順系のさ。
それで少し優しくされるとコロッと騙されるような感じ」
剣信が痛いところをついてくる。
だが思わず納得してしまうような説得力があった。
「師匠、不憫すぎますよ。ガツンと言ってやればいいのに!」
「もしくは逆に徹底的に服従してみるのも面白いかも?」
仁義と剣信が2人で盛り上がっている。
ドラゴンはすでにテーブルに付き食事をとっている。
浮ついた話には興味がないのだろう。
「他人事だと思って好き勝手言うなよ。
なぁ、お前達は同級生だったんだよな?
美唯子って昔はどんな感じだった?」
もしかすると今まで見せていた姿が幻想で、冷徹でツンツンな今の姿が本来の姿なのかも知れない。
何か情報がないかと探りを入れてみる。
「どうって、誰とでも話してムードメーカーな感じでしたよ。
少なくともいきなりグーパンしてくるとかは絶対にないです」
「男子に人気があったのは知ってるけど、普通って印象かな?
今の陽神さんは完全に偽物か別人にしか思えないよ」
やはり仁義も剣信も違和感を覚えているようだ。
「そうか。誰か正体を暴けるような能力者に心当たりないかな」
「恋凛のカウンセリングか、それか、これだけエニグマがいるんだから、一人くらいはいそうなもんすけどね?」
「あ! 待って、9番さんじゃないかな? 全員の健康診断をやっていた子だよ。確か属性とかスキルとか分析されたけど」
「……それだ! ナイス剣信!」
9番が目を覚ましていたことを完全に忘れていた。
9番の能力は個人の属性診断、特性診断、こと身体分析に関しては右に出る者はいない。
オレの正体を知っているようだし、今すぐにでも会いにいくべきだろう。
「あっ、でも美唯子の食事……」
勢いよく飛び出そうとしたところで、手に持ったプレートの存在を思い出す。せっかく綺麗に盛り付けた食事が冷めてしまう。
仁義と剣信は冷ややかな目でコチラを見ていた。
「師匠……どんだけ陽神が好きなんすか。泣けてきますよ」
「とりあえず二人で食事してから行けばいいですよ。
大変ですね、色々と。完全にヒロインムーブだなぁ……」
ヒロインと言われたことに関しては断固として否定したいが、あまり美唯子を待たせるわけにもいかず、急いで食堂を飛び出した。
「──神よ」
廊下の先でドラゴンと出くわす。
さっさと食事を済ませて先に出ていたらしい。
「どうした、ドラゴン」
「この惑星の神を決めるための大会を開くと聞いた」
ドラゴンは静かに端的に語る。
恐らくは10番が考えた神様の特別試練のことだろう。
色々と忙しかったこともあり、先延ばしになっていたが、ようやく実現できる段階にまで漕ぎ着けた。
「ああ、やるよ。詳しいことは後日、説明するつもりだけど」
「……神になる事に興味はない。
俺とお前、ただ、全力で戦い、あの時の決着をつけよう」
オレに対するドラゴンからの果し状だった。
あの時は邪魔が入ってしまい、不完全燃焼だったのだろう。
オレが強く頷くと、ドラゴンは踵を返して歩いて行った。
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