朝から修羅場。オレの部屋争奪戦。運命をなめないことね。
「……どこ行ってたのよ」
水の部屋から戻ってくると、美唯子がオレを待っていた。
黙って出て行ったので機嫌が悪いのか半目で睨みつけてくる。
「寂しかったか?」
「ばぁ〜か。
逆よ、ミィがいないとあんたが泣くから心配してやってんの」
小悪魔のような笑顔で平然とオレを罵る美唯子。
本物の美唯子なら……。いや、目の前にいるのが美唯子だ。
慣れたくないが慣れるしかない。
「とりあえず朝食いくぞ。支度しろ」
「や〜よ。騒がしいのは嫌いなの。部屋まで運んでくれる?」
「オレは召使いじゃないし、ここはオレの部屋なんだけどな?」
「今日からミィの部屋だから。ねぇ、一緒に住みたい?」
「ならオレは出ていくよ」
「違うでしょ? やり直し。ちゃんと出来たら、ご褒美をあげる」
ダメだ。完全にペースを握られてしまっている。
今の美唯子は女性として強すぎる。
屈服はしたくないが折れるしかない。
「一緒に住みた……」
「──いい加減にしなさい!」
オレの言葉を遮り、部屋の中にドタドタと人が入ってくる。
「随分と強気になったものですね、陽神美唯子……」
「お前のやり方はあまりに強引だ。見過ごすわけにはいかない」
まさに天の助け。
アレスティラと刹那が助けに来てくれた。
突然部屋の中に入ってきた二人を見ても美唯子は余裕だ。
オレのベッドに腰掛け、足を組み、鼻で笑う。
「朝から何よ。部外者は黙って部屋から出て行きなさい」
美唯子が強い口調で言うと、アレスティラは拳を握り、敵意を剥き出しにしながらベッドに歩み寄る。
「お断りします。今日からワタシもオレと同棲しますから」
「なっ、何を言っている? 美唯子を部屋から出せば済む話ではないのか」
味方のはずのアレスティラの発言に刹那が狼狽している。
正論だ。刹那だけが今この部屋で一番正しい事を言っている。
「黙りなさい刹那。貴女も一緒に住めばいいのですよ。
陽神美唯子だけを追い出して」
「そうか……それも悪くはないな」
簡単に丸め込まれてしまった。
オレの意思は関係ないのだろうか。
「ふ〜ん。あんた達、ミィとやり合うってわけね。
いいわ。まとめて相手してあげるから」
朝から血の雨が降るかもしれない。
幸いにも刹那は刀を持って来ていないので、悲惨な結末にはならないと思う。
「人間のくせにいい度胸ですね、陽神美唯子……」
「あまり調子に乗らない事だ。戦闘能力ではこちらが上なのだからな」
女性陣が怖くて介入できない。
見ているだけで肌が粟立ち、冷や汗が流れる。
「本気なのね。いいわ、格の違いを見せてあげるから」
美唯子は立ち上がり、机に向かう。
紙とペンを手に取り、何やら作業している。
しばらくすると、加工した紙を手にした美唯子が刹那とアレスティラの前に立つ。
「勝負の方法はクジ引きよ。
一つだけ先端が赤くなっているから、それを引いたものが勝者。わかりやすいわよね? やるの? それとも逃げる?」
アレスティラも刹那も美唯子をキッと睨みつける。
二人の殺意に当てられても、美唯子は涼しい顔を崩さない。
美唯子がくじの先端を隠すようにして持ち、二人に引くように促す。
アレスティラも刹那も逡巡することなく、引っ手繰るようにしてクジを引く。
「そ、そん……な……」
「クッ……バカな……」
二人の手には白紙のクジ。
美唯子の手には勝利の赤クジ。
勝敗は決した。
「フン! これで格の違いがわかったかしら?
悔しーい? もう一回やってみる?」
「余裕ですね……後悔しますよ?」
「確率は三分の一だ、自ら勝利を手放すとは愚かな」
結局その後20回クジ引きをした。
結果は美唯子の全勝一人勝ち。
確率的にはもう天文学的な数値だろう。
イカサマを疑ってしまうレベルだ。
考えてみれば、アレスティラは時間を操れるのだから能力を使えば楽に勝てそうなものだが、それをしないのは女の意地だろうか。
「絶対におかしい。調べさせてもらう」
刹那が美唯子の手からクジを強奪し、オレとアレスティラの三人で数回クジを引いてみるが、確率通りにうまくばらける。
検証の結果、クジに細工はされていない事が判明した。
アレスティラも刹那も苦虫を噛み潰したような顔になってしまう。
「何回やっても結果は同じ。これが運命の愛だから。
あんた達は一生やっても勝てないわよ?
運命をなめないことね? わかったのなら出て行きなさい」
美唯子は二人にシッシと手を振り、退室するよう促す。
「これで勝ったと思わないことです。
まだ終わってはいませんから、陽神美唯子……」
「運命だと? 笑わせるな。絶対に何かカラクリがある……」
アレスティラも刹那も恨み節を言い放つが、大人しく負けは認めたようで二人して部屋を出て行ってしまった。
「……何よ。なんとか言いなさいよね」
オレが沈黙していることが気に食わないのか美唯子は不服そうな顔をしている。
単純にあまりの出来事に言葉を失っていただけなのだが。
「いや、なんかカッコよかったなって思って。
すごかったな、美唯子」
「それはトーゼンよね? あんた、また惚れ直したんじゃない?」
悔しいが惹かれてしまった。
オレとの運命を信じて一歩も引かなかった美唯子の姿に感動すら覚えていた。
「ああ。そうだな……」
「今回は素直なのね? また甘えたい? 今は気分がいいから来てもいいけど?」
ベッドに腰掛け、両手を広げる美唯子。
オレは素直に従った。
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