無敵の能力。完全同調。
完全同調は宇宙だ。
対処はほぼ不可能。対抗できるとしたら同じ完全同調を使う。
もしくは終の螺旋を当てる手段が存在するならば勝ちの目も出てくるのかもしれない。
能力はいたってシンプル。
宇宙の全て、並行宇宙、多次元領域にいたるまで全ての概念、事象を完全に支配できる。
常時発動型なので能力を発動する溜め時間も必要ない。
つまり、気に入らないものがあれば一瞬で消し去れる。
視認する必要も対象を認識する必要性もない。
その気になれば大気中の酸素も消せるし、宇宙を終わらせることも出来る。
厄介なのは術者本人がエニグマのため、この世に存在していないという特異な特性を持ち他者からの力の影響を受け付けない。
並の生命なら一瞬で終了。戦う以前の問題だ。
その強さゆえに本来は封印されており、格段とランクを下げた他者と繋がることのみ出来る同調能力を使う事が基本であった。
しかし死後覚醒が実現し、完全同調を使用できるようになった10番を止める事はほぼ不可能だろう。
オレは今、その完全同調を使える10番と終焉軍事拠点、第十惑星で対峙している。
先行した素零とアレスティラの働きにより基地そのものは完全に破壊されており、機能していない。
問題なのは素零とアレスティラが消えてしまっている事だ。
完全同調の力により存在を消されてしまったか、どこかに息を潜めて隠れているのか。
「アリシアさん。久しぶりだな」
「やぁ久しぶりだね。待っていたよ。その後10番街はどうかな」
暗黒の運河を抜けて直接本丸まで乗り込んできたオレを10番は眉を顰めるでもなく穏やかな表情で迎える。
綺麗な金髪、女性のようにも見える可愛らしい容姿、優しい笑顔。オレに力を与えて世界から消えた時と変わらない。
精神が強いのだろうか、敵の支配下となっても自我を失っていないように思える。
もしくは鉄仮面が主を抹殺したことにより解放されたのか。
そもそも完全同調を使えるのだから、最初から敵の支配下になかった可能性もあり得る。だとしたら交渉の余地はある。
「とりあえず、なんとかやってるよ。
素零達は? まさか消したりしてないよな?」
「うん。殺したくないから世界から排除している。
今返してあげるね」
アリシアが指を鳴らすと天から素零とアレスティラ、それに零奈が降ってくる。アレスティラは羽のように着地するが、素零と零奈はそのまま地面に衝突し涙目になっている。
「逃げてください! 完全同調は想像以上に危険です」
「歯が立たないどころか届かない。死後覚醒はやばいね……」
「パパ! コイツの能力は反則よ! 勝てっこないもの!」
開口一番、三人がオレに警告をする。
宇宙の刻を管理しているアレスティラが手玉に取られている。
恐らくはアレスティラの時を支配する力よりも、完全同調の方が世界的に効果優先度が高いのだろう。
死後覚醒は世界の規律・因果律を捻じ曲げるほどの効力があるのだ。だとしたら対峙した時点ですでに負けているようなものだから仕方ない。
だが今回は勝てる見込みがある。
勝てるというよりは和睦、和解。
自分にとって驚異的な存在は排除するのではなく取り込めばいい。
「アリシアさん、貴方は最初から戦う気はないんだよな?
もしその気ならオレはもう死んでいる。違うかな」
「そうだね。ボクはキミにお願いがあるんだ」
「なんだろうか。貴方の願いなら聞いてやりたい」
「実はボクを殺してほしいんだ。頼めるかな?」
10番の口から出たのは意外な言葉だった。
「え、いや。ヤだよ。殺したくない」
オレは即答した。
「心の優しいキミならそう言うよね。
でもね? ボクは本来もう死んでいるんだ。
これは不自然なことだし、1番が決めたルールは守らないといけないよね? それにボクは元々、戦いが嫌いだから」
芯の強い表情。意思の強い瞳。
この人はいつだって真剣だ。
間違ったことは言わない。間違いなく神の器。
だからこそ尊敬できる。
だからこそ世界にとって必要な存在。
「良かったよ、アンタが昔のままの優しい人で。
じゃあさ、もう戦わなくいいからオレの友達として、そばにいてくれないかな。10番街の住民も喜ぶと思う」
「友達……か。
キミの考え方は素敵だね。
このまま強く押されたら頷いてしまいそうになる」
憂いのある表情を浮かべたアリシアの少女のように細い腕を取り、引き寄せる。至近距離で顔を見つめると、宇宙に輝く星のように美しい青色の瞳が煌々と光を放っていた。
「アリシアの目は蒼くて綺麗だな。
正直に言うと、オレはアンタが好きなんだ。
消えて欲しくないし、拒否されたら多分ヘコむ」
オレの言葉にアリシアは目を見開く。
強張っていた表情が綻び、一転して笑顔の花が咲く。
「……ふふ。随分と可愛いことを言うんだね。
でもね、生きるためには生きがいが必要だよね?
ボクはなんのために生きるべきだろうか」
「生きがい?
じゃあ、とりあえずはオレのために生きてくれ」
「……うん。わかった。ボクもキミが好きだよ。
これからはキミのために生きることにするよ」
スッと10番が手を差し出してくる。
オレは躊躇することなくその手を握る。
「あーあ。男まで堕とすなんて2番は罪深いねー」
「素零、ワタシが許可します。零の螺旋を撃ちなさい……」
「そうよ、殺すべきだわ! あの二人、恋人同士みたいに見えるもの。パパを取られたみたいでとーっても、悔しいわ」
10番が手を放してくれないので、オレ達は手を繋いだまま、物騒なことを話している素零達のもとへ向かう。
「とりあえず10番が仲間になった。
オレを神に選んでくれた大切な人だから仲良くしてくれ」
10番を紹介すると素零は「んふふふふふ」と邪悪に微笑む。アレスティラと零奈の母娘は殺気を孕んだ顔で10番を睨みつけている。
「ねえ10番? キミは間違いなく男なんだよね?
とりあえず鬱陶しいから手を放しなよ、ムカつく」
「そうだけど? それがどうかしたのかな、6番。
キミに命令される筋合いはないから手は放さないけどね」
「ワタシの2番に馴れ馴れしい……。完全同調さえなければ今この場で消してやりたい……」
「同感よママ。でも落ち着いて、チャンスを待つの」
せっかく10番が仲間になったというのに、なぜか場の空気は殺伐としていた。
最後まで読んでいただきありがとうございました。