そして生まれる究極戦士。追い詰める・叩きのめす・オレ達は零の器。
第八惑星を攻略したメンバーを10番街に送り届けた矢先のことだった。
「2番さ〜ん!!」
黒髪の少女が手を振りながら空から落ちてくる。
恐らくエニグマだろうから受け止めることもしない。
少女は大地に着地するとペコリと頭を下げる。
「キミは?」
「はい! 私は16番の大地愛生です。
戦略担当として2番さんのサポートに参りました!」
着物を着た風変わりな少女。
頭にメカメカしいゴーグルのようなものを乗せている。
「そうか、よろしく頼むよ。
早速だが戦況を教えてくれないか」
「はい! まず14番の神風風雅ですが、担当の7番さんが新人類諸共、単騎撃破したそうです。現在14番を10番街に移送中、ケケ! とのメッセージが届きました」
愛生は頭に乗せていたゴーグルを顔に装着する。
するとゴーグルが光を放ち、戦闘中の映像や地図、7番からのメッセージが空気中に次々と投影される。
「そして11番と交戦中の4番と零終さん。意外と苦戦していますが力押しで乗り切れそうだとのことです。
3番と交戦中の刹那、クラリスペアも苦戦中。
やはり、死後覚醒を果たした3番の相手は人間には厳しいかと思われます。
そして大問題なのが10番と交戦している素零、アレスティラ、零奈チーム。健闘していますが、状況は芳しくありません」
愛生は早口のように言い切ると、ふぅと息を吐いた。
「とまあ、こんな状況ですけど、いかがなさいます?」
ゴーグルを額に乗せてニカッと微笑む。
「そうか、現場は十分に掻き乱せているな。
オレは今から敵の頭を直接叩く。
キミはどうする? 同行するか?」
「はい! 私は昔から2番さんの担当ですので、どこへでもついて行きますけど?」
「そうか、ならまずは鉄仮面に会いにいく。完膚なきまでに勝ちたいから力を借りに行く。さぁ、転移するから手を握ってくれ」
「了解しました〜。はい、ぎゅー!」
愛生は声に出しながら手を握ってくる。
中々に変わった子ではあるが面白い。
オレは鉄仮面に会うためにレオナルドの旧軍事拠点へと向かった。
◇ ◇ ◇ ◇
「久しぶりだな兄弟」
校庭のグラウンドに佇む鉄仮面。
相変わらず正体は不明だが、オレに対する好意は感じ取れる。
「美唯子が連れて行かれた。生まれて初めて本気で怒っている。
力を貸して欲しい。この世から消したい奴がいるんだ」
「見ていたよ。ここ最近の兄弟の動向には目を見張るものがあった。最初から本気を出していれば、簡単に宇宙を支配出来ただろうな。現にお前さんは数日で全てのエニグマを支配下においた」
ヤレヤレと肩を竦めながら嘆息する鉄仮面。
段々と距離が近づいた気もする。
踏み込んだ質問をしても問題ないだろうと判断する。
「なぁ、オレとお前は同じなんだよな?
今回、美唯子を連れ去った存在も同じなんだろ?」
鉄仮面は腕組みをして黙り込む。
数秒もすると仮面の隙間からシュコーと大きく息を出した。
「……そろそろ話してもいい頃か、世界は大きく動き出した。
オレ達は零の器だ。世界の可能性。
美唯子を連れ去った存在も同じ、零の器の一人。
オレ達は全員が潰し合い、美唯子を手に入れる必要がある。
美唯子の存在が何よりも大きい。運命の女神だからな」
「でも美唯子はオレの運命の人なんだよな?
それは間違いないんだよな? 教えてくれよ」
「……そうだな。お前が4月4日に出会うはずだったのは間違いなく美唯子だ。1番が決めたことだ、お前達は何もなければ人間として夫婦になるはずだった。だが全ては狂ってしまった」
やはり美唯子は嘘を言わされていた、もしくは操られていた。
あの時オレに言った言葉は本意ではないだろう。
零の器についても詳しく話を聞きたいが、今はまず何よりも美唯子を取り戻すことを優先したい。
「そうか、それだけ聞ければ十分だ。力を貸して欲しい。
オレも鉄仮面が困っていたら力を貸すつもりだ」
「随分とまぁ、頼もしいね。
いいぜ、やろうか兄弟。同調するんだろ?
鉄仮面達が組めば無敵だ、宇宙最強の戦士が誕生する」
鉄仮面と手の平を合わせる。
間違いなくこの世で最強の存在が誕生するだろう。
──同調合体。
◇ ◇ ◇ ◇
──終焉軍事拠点、第一惑星。
敵の本拠地であるだけに警備も防衛システムも並ではなかった。
しかしオレ達は一瞬で全てを消し飛ばした。
残ったのは草一本生えていない、荒涼とした大地。
サラの姿をした何者かが懸命に大地を駆けていく。
「バカな……あの甘ちゃんがここまで動くなんて、オレの計算違いか……おのれ運命の女神……全ての元凶め……」
サラは走り疲れたのか岩陰に隠れて独り言を喋っている。
オレ達は圧縮した空気を飛ばして岩石ごと吹き飛ばす。
「──わぇいいい??」
爆風に吹き飛ばされ、大地を転げ回り、全身泥まみれになってもなお逃げていく。
いい加減、追いかけっこにはウンザリしていた。
「反則だろ……器二人が手を組むなんて聞いてねぇ、反則だ。
逃げないと、逃げないと。──あっ? え?」
地面を這いつくばりながら逃げようとしていたゴミ野郎が突然現れたオレ達の膝にぶつかり唖然としている。
「「まずはサラの体から出ろ。話はそれからだ」」
「いやだね! へっ、へへ……この中にいれば何も出来ないだろ?? 死んでも出るかよ! 29番ごと殺すか?」
オレ達が攻撃できないと踏んでいるのか余裕の表情だ。
バカにつける薬はない。だからオレ達がわからせる。
「「──反作抑制」」
「テメェ鉄仮面! 裏切りやがって……絶対に──ありっ!?」
サラの肉体から宿主を強制的に分離させる。
飛び出して来たのは薄汚い中年の男だった。
「は、はは。いやあ、君たちはすごいなぁ?
オレの負けだよ。器の候補からは外れるからさ、さよなら!」
逃すわけがない。
オレ達は男の逃げる先に転移し、顔面に飛膝蹴りを叩き込む。
男の顔面は崩壊し、口の中から血と白い結晶が外界に向けて弾け飛ぶ。乾いた大地に男の歯だったものが転がっていく。
「はひ、ひゃべれはい……ひぉへははるはっは、ふるひへふれ」
土下座する男の首を掴み、何度も何度も地面に叩きつける。
息をさせずに頭部を踏み砕き、背骨に拳を打ち粉砕する。
鉄仮面が「やりすぎではないか」とオレを諭すが怒りはまるで収まらない。
「ひにはい……ほほひへ……」
謝るくらいなら最初から何もしなければいい。
こいつは人の痛みと悲しみを知らない。
人を傷つけて平然と笑っているようなクズだ、生かしておけない。
「「もういい。やめておけ2番。人に戻れなくなるぞ。
お前さんもバカだよな。愛する女を取られたら男がキレるのは当たり前だろう。今は鉄仮面が2番を抑えてやっている。命が惜しいなら美唯子を返してやれ」」
「はっ、はひ……申しはへはりまへんでひた」
男が指を鳴らすと暗黒の運河から美唯子がゆっくりと現れる。
意識がないのか目を閉じており、そのまま地面にバタリと倒れた。
オレは鉄仮面との同調を解除し、美唯子のもとへと走る。
「しめたっ! 分離したな! 器一人ならなんとでもなるぜ! ──終の螺旋【無式】」
肉体を再生させた男が終の螺旋を発射する。
油断していた。最後で詰めが甘かった。
せめて美唯子だけは守りたかった。
咄嗟に美唯子の体に覆い被さる。これでオレに悔いはない。
「──終の螺旋【零式】」
世界を覆い尽くすような閃光。
鉄仮面が放った終の螺旋【零式】が【無式】を掻き消し、サラに化けていた男の肉体を世界から完全に消滅させた。
「全く、救えないよな、どうも。だがこれで器が一人消えた。
結果オーライと行きますかね……」
腕に残った光の残滓を振り払いながら鉄仮面は呟いている。
「ミコ、起きてくれ。助けに来た。もう大丈夫だ、美唯子」
身体を抱いて頭を撫で、身体を揺さぶり、懸命に話しかけ続けるが美唯子の意識は戻らない。
「あー。目覚めのキスをしたらどうだ兄弟?
物語の締めくくりにはよくあるパターンだろ?」
「こんな時に冗談言うなよ鉄仮面……」
全く笑えない。
もうダメかもしれないと諦めかけたその時、美唯子の肩がピクンと動く。
「美唯子?」
美唯子の瞼がゆっくりと開き、虚な目でオレを見つめている。
しばらく考えるように沈黙した美唯子が口を開く。
「……だれよ。あんた」
美唯子の口から出た発言にオレは言葉を失った。
最後まで読んでいただきありがとうございました。