別れてください。さよならペル様。
オレの子供がまた増えた。
笑えるような状況だが全く笑えない。
「あのさ刹那、考えることを放棄してもいいかな」
「腐るな。私だって理解できんのだ。
……薄々勘付いてはいたが、お前は完全にヒロイン体質だな。
追い回され、振り回され、利用され、前世で何かしたのか」
刹那の言葉が胸に突き刺さる。
的を得ている。
「ああそうだよ! その通りだよ!
選ぶ答え全てが間違いで何やっても裏目に出てるよ!
オマケにワケのわからない状況すぎて精神が崩壊しそうだ」
「わかったから落ち着け。
まず11番、貴様は帰れ。死にたくはないだろう」
「丁重にお断りする。陽神美唯子を連れ帰れと言われている。援軍も到着したようだし、形勢逆転かな」
暗黒の運河が展開され、3番と零奈が現れる。
住民が消えたことを考えれば、零奈の能力が関与しているのは明白。彼女の場合、オレに多少の好意を持ってくれているから、話し合いのチャンスはあるだろう。
何よりも問題なのは3番だ。
下手をすれば10番街を一瞬で消されてしまう。
「パパ、陽神美唯子を出して。
サラからパパを奪った極悪人よ。殺してやりたいの」
母親への愛が強い。
だがまだ子供だ。交渉の余地はある。
オレにも責任があるのは間違いないし、丁寧に対応すれば戻ってきてくれる可能性もある。慎重に事を進めよう。
「おい待てよクソ女、今の言葉、訂正してもらおうか。
母さんが極悪人だと? 今この瞬間に殺してやろうかゴミ野朗」
零終が零奈を強い言葉で非難する。
一瞬で全てが台無しになった。この展開はまずい。
「アハ! アナタ、パパと見た目は似てるけど中身は三下のチンピラみたいね? とーっても下品で見るに耐えないわ。死んじゃうの?」
お互い子供だ。売り言葉に買い言葉。
ケンカになるのは必然。
「おい、お前達ケンカは……」
「やめておけ、今の私達では仲裁もできない」
刹那の言う通りではあるが、親として止める責任がある。
「パパ、黙っていて。白黒つけましょうか? クソ男」
「望むところだ。母さんを侮辱したことを土下座して謝れクソ女」
零終と零奈はケンカをするために暗黒の運河に飛び込んでいった。二人共無事でいてほしいと思うのが複雑な親心だ。
どうしたものかと考えていると、3番がオレ達の前に歩み出る。
「これだから子供は手に負えない。
さて、ここからは大人同士で話し合おうかね。
陽神美唯子を渡せ。でなければこの惑星を消す。
スマートでわかりやすいだろう?」
こうなることは予想できていた。
オレにエドを倒す力がない現状では交渉の余地がない。
ともなれば頼れるのは終の螺旋を使える零終になるのだが、零奈とケンカをするためにいなくなってしまった。
どうするべきかと思案していると、渦中の美唯子がやってくる。
能力で異変を察知したのか、最初から見ていたのか。
どちらにしても話し合う必要があった。
「3番、美唯子と話してもいいか」
「いいだろう。だが手短に頼むよ」
3番の了承を得て美唯子と向き合う。
いつもの明るい笑顔はなく、今は仮面でも被っているかのように冷たい表情をしていた。
「ミコ、オレに能力を使ったのか?」
「はい。私を好きになるように仕向けました」
端的に尋ねると美唯子は短く返した。
「そんなことする必要ないだろ。オレ達は運命で結ばれている」
「それも刷り込みです。あの日見せた出来事もでっちあげ、零終を手に入れるためにアナタを利用しました。ごめんなさいね?」
冷笑する美唯子。オレは信じない。
「零終は間違いなくオレ達の子供なんだな」
「はい。5番からやり方を聞いて、世界のルールを悪用して呼び出しました。アナタにはそのキッカケになってもらう必要があったので、今まで騙していました。
全ては世界を手に入れるため。個人的な感情はありません。
私、3番についていきます。そろそろ行動を起こしたいので」
美唯子になら利用されてもいいなんて考えている。
今までのことを全て否定されても怒る気にならない。
自分の本当の気持ちに気がついたから。
「それでもいいよ。行かないでくれ。
3番も11番もオレが倒すから、どこにも行くなよ」
「……お断りします。キモチワルイですよ」
美唯子は今にも泣き出しそうな顔をしている。
なんとかしてやりたいが、二人の距離は今までよりも遠い。
近づくことも、抱きしめてやることもできない。
「オレは馬鹿だからさ、鉄仮面の言う事を鵜呑みにして色々試して失敗したけど、美唯子だけが特別で大切だってようやく気づいたんだ。全てが終わったら地球に帰って、一緒に暮らそう。
本来手に入れるはずだった幸せを二人で形にしよう」
「それは無理です。もういい。私と別れてください。
さよなら、私のペル様。3番、早くしなさい。行きますよ」
「感動的だなぁ。涙がちょちょぎれるよ。
若さはいいね、愛とはいいね。それも破局の瞬間はねぇ?
さ、行くとしようか」
美唯子が3番と11番に連れていかれる。
オレはそれをただ黙って見ている事しか出来なかった。
「……気を落とすな。今のを見て私も確信した。
お前達は結ばれるべきなのだとな。
奪われたのなら取り返せばいい。協力しよう」
刹那がオレの肩に手を乗せながら言う。
今は優しくしないでほしい。
一人になりたい。美唯子に会いたい。
「刹那、ありがとう。オレは大丈夫だから」
「無理をするな。我慢する必要はない」
堪えていたものが一気に溢れ出した。
刹那の目の前で、男なのにオレは声を出して泣いた。
「……美唯子に会いたい。離れたくない」
「だろうな。仲間の前では弱音を吐くなよ。
今のうちに泣いておけ」
もっと早くから優しくしてやればよかった。
もっと早く気づけばよかった。
失って初めて気がつくなんて、オレは馬鹿だ。
最後まで読んでいただきありがとうございました。