最重要選択肢・世界は終わった。新たなる零の一族。
刹那から緊急の呼び出しを受けて星の中枢を飛び出した。
「嘘だろ──」
目の前に広がる光景が理解できない。
目を凝らして観察するも、現実は変わらない。
人口数万人の小規模な町、その住民全てが消失している。
閑散とした世界。そこに紛れる異物が三つ。
「やっとまともに挨拶できるね。久しぶり」
異物の一人に話しかけられる。
その正体は11番。取り巻きに17番と18番。
全員の顔を覚えている。
以前は仲間として戦っていた。忘れるワケがない。
「お前達は本当に敵なのか。この町の住民は、刹那はどこだ」
「陽神美唯子を渡せば教えてあげるよ。さぁ、どうしようか?」
11番が冷笑を浮かべる。
かつての陽気な雰囲気はない。まるで別人だ。
「お前達を信じるに値する証拠が欲しい。刹那を返してくれ」
互いに睨み合ったまま黙り込む。
沈黙を嫌ったのか17番が動く。
「──獄炎弾」
「黒の弾丸──」
前触れ無しに17番が撃ち出した火球を黒の弾丸が撃墜する。
背後から矢のように飛んできた刹那が黒刀で17番を一刀のもとに両断した。
直後、斬り裂いた筋繊維や骨肉が瞬く間に復元、増殖し、触手のように蠢いて二分した身体を張り付ける。
17番の肉体は瞬時に再生した。
「やめろ、争いに来たわけじゃないんだ」
再生した17番を11番が窘めている。
「刹那、大丈夫か」
隣に並んだ刹那の無事を確認する。
「問題ない、意識を失っていただけだ。やはり殺せないな」
「試すだけ試す必要はあるよな。──零の螺旋」
零の螺旋が17番を貫く。
しかし刀で斬られた時と同じく、肉体が粒子にはなるが霧散することなく、元に戻って完全に再生してしまう。
「理解できたかな? もう零の螺旋は通用しない。
その気になれば宇宙からこの惑星そのものを消すこともできた。だがそれでは意味がない。美唯子を渡せ、友達だろう?」
11番が勝手な理屈を平然と並べる。
美唯子を渡すつもりはないが、どうしようもない状況ではある。
想定していたよりも敵が動き出すタイミングが早かったため、まだ答えを見つけていない。
──不死身の化け物を倒す方法を。
「美唯子を狙う目的は? 何か理由があるんだよな」
時間稼ぎになるかは判らない。
だが11番に問いかけてみる。
「世界の運命を左右するからだ。
あの女は危険なんだよ。排除しなければならない。
18番、キミからも言ってやれ。長い付き合いだろう」
今まで沈黙を貫いていた18番が口を開く。
18番は美唯子を妹のように思っていたはずだが、敵の支配下になったことで心変わりしているのだろうか。
「……美唯子は悪魔だ。この世界の誰よりも賢く、計算高く、全てを支配しようとしている。運命なんて信じるな」
やはり別人のようになってしまっている。
この場に美唯子がいないことがせめてもの救いだった。
「4月4日。キミが5番と出会ってから、鉄仮面の手によって心臓を取り戻すまでに見ていた景色は誰の視点だったと思う? 運命なんて存在しない。戻ってきなよ? キミは利用されただけだ」
心情に訴えるような語り口で11番は言う。
確かに違和感は覚えていた。心臓を取り戻すまでの自分はどこか他人行儀で、違う世界の遠い場所から自身を見ているようであった。
もし11番が言っている言葉が事実だとしたら、黒幕は世界そのものに魔法をかけていたようなものだ。
そんな事が出来る存在など容認できるものではない。
「オレくん。キミが結ばれる相手は間違いなくサラだった。
キミは正しい選択をしたんだ。立派だった。
それなのにキミは操られ、利用され、サラを見放した。
運命を信じてしまった。
俺の昔馴染みを泣かせた。絶対に許さない……」
今度は17番が説得でもするかのように語る。
これではまるで洗脳だ。意思を強く持たないと負けてしまう。
「オレは利用されていないし、美唯子は悪ではない」
「どうして言い切れる? 1番すら手玉に取った女だ、並のタマじゃないんだよ、化け物さ。友達の女勇者にも聞いてごらん」
11番は刹那を指しながら大仰な身振りで言う。
隣にいる刹那は口を固く結んで動向を見守っていた。
「刹那、聞いてたよな。どう思う。正直に言ってくれ」
「……お前が運命の実態を知った出来事のきっかけになったのは、美唯子の能力の中だった。美唯子は能力をひた隠しにしている。
お前はある時点から美唯子を運命の女だと思い込んでいたように思える。
疑う余地はいくらでもあるさ。しかしあの女がお前を利用し、騙すような事をするとは考えにくい部分もある。
結局のところ、何を信じるかはお前次第だ」
刹那は忌憚の無い意見を述べる。
エニグマ側でも美唯子の肩を持つでもない発言。
あくまでもオレ自身に答えを出させようとしているのだろう。
誰を信じて、どう動くのか。
この先の未来を決める最重要選択肢だ。
「終の螺旋【弌式】──」
風切り音と共にオレと刹那の間を光の螺旋が過ぎ去っていく。
何が起きたのか理解するよりも前に、17番が世界から消滅していく姿を目撃する。
光の螺旋に身体を貫かれた17番は瞬間的に消え去った。
口を開く間も、回避する猶予もない、完全なる瞬殺。
背後から終の螺旋を放ったと思われる人物が歩み出てくる。
「コイツ……まさか」
「なんだ、何が起きている……」
刹那と顔を見合わせる。
突如として現れ、17番を消し去り、11番と18番を睨みつけているのは紛れもない、オレだった。
「間に合わなかったか。世界は終わった。
全ては運命の女神の思うまま。
ゲームオーバーだよ、完全に」
11番がポツリと呟く。
次の瞬間には光の螺旋に貫かれ、18番が消滅する。
速すぎて動きが見えない。
溜めが必要な零の螺旋とは違い、目の前にいるオレが繰り出す終の螺旋は視認不可能な速度で放たれている。
「お前……誰だよ」
オレが声をかけると、オレはゆっくりと振り返り、不敵な笑みを浮かべた。
「オレの名は零終。美唯子の息子だ」
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