男の友情恋愛トーク。野朗が集まるとこんなもん。
「師匠、陽神とはもうヤッたんすか」
飲みかけていたコーヒーを口から勢いよくぶち撒ける。
「ああ、その反応でわかりましたわ。案外ヘタレっすね」
夜叉仁義。オレの可愛い愛弟子だ。
口の利き方も覚え、毎日稽古をつけているため戦闘能力も向上してきた。
だが距離が近づきすぎて最近は妙に馴れ馴れしい。
「何がヘタレだ。練習量倍にするぞ」
「いや、ヘタレでしょ、実際。
あれだけ毎日好き好き言われてて、付き合ってもいるのに欲情の一つもしないもんですかね。
陽神ってかなりマブいし、男子にも相当人気ありますよ。
ヤればいいじゃないすか、ヤれば」
「お前、品がなさすぎるぞ、リング上がれ」
今日は普段の三倍はしごいてやることに決めた。
星の中枢地下施設トレーニングルーム。
仁義を育てるために特設したボクシングジム。
最近は毎朝ここで体を鍛えることを日課にしている。
ヘッドギアをつけ、マウスピースを咥え、グローブをはめる。
それだけで戦意が高揚する。
「國裂、ゴング頼む」
スパーリング開始の合図を國裂に頼む。
國裂は普段、刹那と剣術の稽古をしているのだが、稽古の内容が過酷らしく頻繁にサボりに来ていた。
ゴングが鳴りスパーを開始する。
仁義は足を巧みに使い、オレの周囲を回るようにしてジャブを打ち込んでくる。
やはり仁義はアウトボクシングに向いている。
言いつけ通りやればまだいくらでも伸びるだろう。
「肩で打つな、ガードも下がってるぞ。悪い癖だ」
ガラ空きのボディに拳を打ち込む。
真面目にトレーニングを積み重ねるようになってからは一撃でダウンすることはなくなっていた。
それでもまだオレとの実力差を埋めるにはいたらない。
「まだ、まだぁ……」
3ラウンド目の中盤。すでに何度かダウンしているが仁義はまだ立ち上がる。
「キツいか? そろそろやめてもいいぞ」
「まだだ、諦めんすよ。し、師匠も……師匠も毎日ドラゴンにボコられてんの知ってますから、強くなるために毎日毎日……殴られて蹴られて、だから、弟子の俺が諦めるわけにいかねぇ!!」
可愛い事を言う。目頭が熱くなりそうだ。
その熱意に応えるために15Rみっちりしごいてやった。
「終わりだ。シャワー浴びてこい」
「ウッス」
仁義がシャワールームに歩いて行く。
「いやあ、殴り合いとか大変ですね。
剣術選んどいてよかったですよ」
國裂剣信。國裂信長の弟。
何をするにも消極的で、兄の面影が全くみられない。
「お前、またサボったな。刹那が探していたぞ」
「刹那さん……怖いんですよ。兄貴を思い出しちゃって」
机に突っ伏しながら、トロンとした目で剣信は語る。
覇気を全く感じない。本当に信長の弟なのだろうか。
「信長ってさ、昔からあんなだったのか?」
「いいえ。昔は優しくて、カッコよくて、理想の兄貴でした。
ちょっとしたワケがあって、鬼になりましたけどね」
言いながら剣信は目を閉じた。
「この後、仁義に焼肉を食わせようと思ってるんだが、一緒にくるか?」
「ペルさん、仁義のこと好きですよね」
「手のかかる奴ほど可愛いって感じかな。
それにオレ、友達とかいなかったし、弟ができたみたいで嬉しいんだ」
「兄弟がいたらいたで大変なんですけどね。
まぁ、俺なんかでよければお供しますよ」
スローリーな感じだが嫌味がなく波長が合う。
剣信とも上手くやっていける気がした。
◇ ◇ ◇ ◇
10番街、大衆食堂。
オレと仁義と剣信は待ち合わせしていたレッドと合流し、店の中へと入る。
焼肉の食べ放題を予約していたので、カウンターではなく座敷に座る。
「仁義、ドラゴンはこないのか」
「誘ったんすけど、なんか、摂取する食物は決めているとか、毎日茹でた鶏肉とかブロッコリーばっか食ってんですよ」
食事の管理まで徹底しているとは恐れ入る。
肉体的にも精神的にもドラゴンが強い理由かわかる。
仁義は焼肉を大量に注文し網に乗せていく。
若い胃袋は凄まじく、山のように積まれた肉の塊を次々と消化していく。
「大吾さん、田栗とは週にどれくらいヤッてんすか」
仁義に言われてレッドはウーロン茶を吹き出した。
その手の話しかできないのかコイツは。
「ヤルって……何をだい」
「いや、だって、同棲してるんすよね。
男と女が一緒にいて何もないはないでしょう」
「いい加減にしろ! レッドが困ってるだろ!」
仁義の頭を強めに叩く。
「いっつぅ……いやでも師匠、野朗が集まるとこんなもんでしょう。女の子に興味ない男とかいませんし。フツーですよフツー」
だとしても品がなさ過ぎる。
口を開けばヤルヤラナイ。何か他に話題はないのか。
「そういうお前はどうなんだ、人に聞く前にまず自分の話をしろよ」
「あー、俺っすか。同級生の月光院輝夜が好きっすね。かなりマブイっすよ、清楚で、でも芯は強くて」
「ああ、黒髪パッツンの子か。意外だな。てっきり仁義くんは愛川さんみたいなのがタイプだと思ってた」
意外なことに、剣信が仁義の話題に食い付いた。
恋愛トークは鉄板なのかもしれない。
「テメコラ! ヤンキーとギャルはセットみたいな考えはやめろ! そういうお前はどうなんだよ、誰が好きか言えよ」
「好き……か。できるだけ静かな子がいいかな」
「つまんねー。お前の返しはマジつまんねー。じゃあ師匠、陽神とはどうなんすか、実際。どこまで進んでるか教えてくださいよ」
とんでもないところから飛び火してきた。
仁義は将来酒を飲むようになったら間違いなく絡んでくるタイプだ。
「どこって、抱き合ったり頭を撫でたりはしたよ」
「はぁ!? そんなもんは犬とでもできるでしょうがよ!!
我が師匠ながら情けないったらない! 先に進みましょうよ」
仁義が顔を真っ赤にしながら詰め寄ってくる。
コイツ、酔っているのか。コーラしか飲んでいないはずだが。
「神様、俺もそう思うぞ。あれだけ愛情を示してくれているのに、何もしないのは失礼だ。ステップアップするべきだ」
仁義に追求されないように、レッドまでもがオレを詰めてくる。
「おっ、大吾さん、話がわかりますね!
てか陽神が師匠をどこまで受け入れるかだよな」
「軽いとこだとキスだとか?」
「いいぞ、剣信! じゃあ今から陽神を呼び出すんで、キスしてください」
このバカ弟子はキスしてくださいで本当にオレがキスすると思っているのだろうか。だとしたら泣きたい気分だ。
「いや、いくら美唯子でもいきなりキスは……」
さすがに冗談だと思いたい。
「あ、陽神か。師匠が呼んでる。マジで、今すぐ」
既に電話しているのだが。
「師匠、二分で来るそうです」
師弟関係を解消してやろうかクソガキ。
「師匠、ついたみたいっす。中から見てるんで、漢気みせてくださいよ」
仁義と剣信が背中をグイグイと押してくる。
助けを求めるためにレッドを見ると、サムズアップを向けてきた。裏切り者。
「ペル様ぁ! どうかしましたぁ?」
律義に美唯子が外に立っていた。
走ってきたのか、肩で息をしている。
こんな罰ゲームのようなノリで愛を確認してもいいのだろうか。
「ミコ……あのさ」
言い淀んでいると美唯子が頬にそっと口付けする。
「続きは二人だけの時にしましょうね?」
耳元で囁き、舌を小さく出して微笑むと美唯子は去っていく。
「師匠! マジでやりましたね! 半端ねー!」
「神様、感動した! 君達の愛は本物だな!」
「ちょっと角度が……でも多分してたかな?」
野朗供が何か騒いでいる。
オレは美唯子の事しか考えられないでいた。
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