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アレスティラ


「それで? どうかね。大切な愛弟子を殺した感想は?」


 雨が降りしきる中、一人立ち尽くす刹那に、不敵な笑みを浮かべたエドが不躾に話しかける。

 心を直接、揺さぶってくるような嫌らしさを含んだ声を聞いても刹那は表情を崩さない。


「感想などない。貴様の心と同じさ、無だよ」

 

 感情のない声で刹那がサラリと返すと男は眉を下げ、わかりやすく項垂れてみせる。


「そうかね。それは実に残念至極。では私も約束を守ろう」


エドが指を鳴らすと刹那の意識は強制的に断ち切られ、次の瞬間、姿が消えた。



 床に倒れて意識を失っていた刹那が目を覚ます。

 ゆっくりとした動作で身を起こし、周囲を見回すと、柱に磔にされたソレを発見する。まるで見つけてくださいといわんばかりの光景に足を踏み出す事を躊躇するが、次の瞬間には走り出していた。


「おい、しっかりしろ。助けに来たぞ」


 声をかけても肩を揺すっても、ソレは目を瞑ったまま動かない。

 刹那はソレが息をしていることを確認すると、柱を切断するために黒刀に手を掛ける。


「確かに会わせてやるとは言ったがね、連れ出していいとまでは言ったかな?」


 背後から声を掛けられ刹那の肩がビクンと跳ねた。

 刀に手を掛けたまま、ゆっくりと振り返ると、エドが掌の上に彩色豊かな光球を浮かべ、微笑んでいた。


「これは世界を消し去る破滅の光さ。君にも見えるように可視化してあげたのだよ。綺麗だろう? 終焉の煌めきは。私は今から君を消す。最後の言葉は何かあるかね? 聞いてあげるよ」


 刹那は視線を窓の外に向け、すぐに戻す。

 そして敢えて平然とした態度を見せ、挑発するような口ぶりで言葉を紡ぎ始める。


「私はここに来る前に、ある賭けをした……以前から感じていた疑念を払拭するために、この状況全てを覆すために、そして、貴様らをこの世から消し去るためにな!」


「死を目前に気でも触れたか……ただのニンゲンに何ができる。死にたまえ!」


 エドが顔を顰め、刹那に向けて光球を撃ち放つ。


「これで全てが終わる。()()の勝利だ」


 刹那の言葉と同時に一陣の風が吹き抜けた。

 風の流れに乗って超速で影が駆け、刹那の目前まで迫っていた光球を()()()()()

 強引に軌道を変えられた光球は天井をぶち破り、遥か上空まで舞い上がると、強烈な閃光と爆音を振り乱しながら爆発四散する。

 星を破壊するほどのエネルギーが空の空間(エワンドリ)全体を包み込み、白と黒の雷光が縦横無尽に駆け巡り、嵐のように降り荒ぶ。


「おい、オイッ! いい加減起きろよ。オレが来てやったんだぞ」


 刹那が目を開くとオレがソレの頬を、はたいているのが見えた。


「…………オレ? 助けに来てくれたの?」


「相変わらず暗いな、オマエ。カビ生えるぞ?」


「オレ……じゃない? この感じ…… ◇○∇‰な、の?」


「あ? お前、オレのこと忘れたのかよ。ツメテー奴だな」


「え……ウソ。だって僕の腕の中で確かに……」


「……説明は後だ。最初に()()べきことがある」


 オレはゆっくりと振り返り、エドを睥睨する。


「随分と久しぶりじゃないか◇○∇‰会いたかったよ」


「オレは会いたくなかったね。相変わらず胡散臭いなテメーはよ。胡乱の権化かよ」


「同志に向かって中々のいいようだね。我々としては君が死んでくれて安心していたのだがね。こと戦闘に関しては君に勝る者はいないのだから。それで、死人がわざわざ何の御用かな?」


「久々に思い切り暴れたくてな。オレに付き合えや!」


 エドが光球を次々と乱射する。オレが真っ直ぐに突き進みながら光球を素手で殴ると、殴りつけられた光のエネルギーが霧散し消滅していく。

 どれだけ攻撃を放っても止まらない敵を前に、次第に焦りの表情を見せるようになったエドは顔を歪め、険しい表情で両手を掲げ、直径10メートルほどの極大な光球を生成し投げつける。

 オレは迫り来る光球を左手で弾き飛ばし、エドの鳩尾に拳を打ち込むと、ただの一撃で男の肋骨は粉微塵となり、あまりの衝撃に吐血すると同時に後方へ弾け飛んだ。

 飛んでいく男に向けてオレは追撃の雷を撃ち放つ。

 撃ち放たれた紫電のスピードは以前とは比べ物にならないほどに速く、熱量も甚大で、男の肩先に喰らいつくや否や、まるで蒸発するかのようにして左腕が消滅した。


「ガッ!? オッ、――ガァぁァ! なぜだ、何故再生しないィぃ、何故復活しないのだ、私の腕はどこにいったぁ……」


 エドは脂汗を流しながら、残った右腕で懸命に消え去った左腕を探している。オレはその様子を冷めた目つきで見つめている。


「お前にいい事を教えてやる。普通は再生なんてしないんだよ」


「ふっ……フフ…………一度、死んだ存在に、言われても、全く説得力が……ないね」


 表情を歪ませ、息も絶え絶えに言葉を発する様子を蔑むように見つめ、オレはエドの背後に回り込み、右腕を掴んで力任せに捻じ切る。


「ギッ、グゥオ……相変わらず君は強いなぁ。()()()()ねぇ……」

 

 エドが苦笑いを滲ませながら両膝を着いて、前のめりに倒れ込むのを見て、鬼気迫る表情で刹那が歩み寄る。


「同情はしない。貴様は今まで何億、何兆もの命、星を消してきた。消された者の憎しみを知れ。報いを受けろ」


 黒刀を抜き、振り下ろし、躊躇いなしに首を刎ねる。


黒の弾丸(ブラックベイン)


 転がり落ちた頭部に刹那が魔弾を撃ち込むと、破裂した頭部から肉片が飛び散り、吹き出した血が周囲を一瞬で赤く染める。

 顔にかかった血飛沫を拭ぐうと、刹那は天を仰いだ。


「終わったな。オレは直に消える。後は任せた」


 オレが刹那に言葉を託すと、今まで黙っていたソレが懸命に走り出し、オレの体に抱きついた。


「えっ……いやだよ。また一緒になれたのにどうして消えるなんていうのさ、僕のそばにいてよ、ずっと一緒に生きていようよ」


「死んだ者は生き返らない。自然の摂理だ。お前にはオレがいなくてもオレがいるだろ? だから、強く生きろ」


 オレはソレを引き放し、両肩を掴んで真っ直ぐに見つめる。

 ソレは最初こそ我慢していたものの、徐々にポロポロと涙を流し、オレの胸の中で泣き崩れてしまう。


「……待て、まだ終わりではない。()()が残っている」


 刹那が刀についた血を振り払い、静かな口調で語り出す。


「思えば最初から全てが不自然だった。私の世界が消されたときも、この世界に来てからも、一連の流れ全てに違和感を覚えていた。そして白衣の男(化け物)が死んだとき、私は確信した。あの場にもいたのだろう? 隠れていないで出てきたらどうだ、アレ」


 突如として空間が裂け、闇が広がっていく。 

 揺らめく深淵の闇の中から姿を現したのは輝く金髪を靡かせ、地獄の炎のような紅い輝きを鋭い眼光から放つ一人の少女であった。


『やはり、人間にしては頭がキレすぎますね。消しておくべきでしたか。茶番劇を演じてまで引き下がらせようとしたのに、とんだ無駄骨です。大人しくこの場を去っていれば、恐怖を知らずに生きていられたものを……』


「君達ィ? 頭が高いよ。彼女こそ、永遠を終わらせ、我々の王となる存在、アレスティラ・ミスティアレ様なのだよ!」


 刹那が止めを刺したはずのエドが声高らかに叫び、部屋中に狂気の雄叫びが響いた。

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