ママを捨てたパパなんてサイテー。復活の戦士達・調停者から終焉へ。運命は台本・人類に自由はない。
ボスラッシュ。
「サ……ラ?」
29番。オレの従者であり、理解者であり、家族だった女性。
だがそれは全て敵によって仕組まれた罠だった。
偽りの感情と子供を利用し、本来の運命を捻じ曲げようとした。
「お久しぶりです。アナタに捨てられて、悲しかった」
「サラ、違う。オレ達は利用されたんだ……戻ってきてくれ」
「惑わされるな! あれはサラではない。──黒の弾丸」
オレ達の間に刹那が割って入り、強い口調で言うと、魔弾の嵐を撃ち放つ。
黒の弾丸は全てサラの肉体を通り抜けた。
「あーらら。バレちゃ仕様がねぇ。頭の良い女は嫌だね、どうも」
サラの姿で、サラの声で誰かが語る。
「お前は誰だ……」
「さっきドラゴン退治を手伝ってやったろ? もう忘れたのかよ」
ドラゴンと戦闘していたとき、誰かに話しかけられたのを覚えている。先程までオレの中にいた人物で間違いないだろう。
だとしたら人の体を乗っ取り、支配する力でもあるのだろうか。
「サラを返せ、オレの仲間だ」
「……仲間ね。あぁ、いいよ? だが条件がある。
オレはサラと、オマケに新人類から取り返してきた9番を引き渡してもいい。代わりにお前は陽神美唯子をオレに差し出せ」
サラが指を鳴らすと、9番が暗黒の運河から飛び出してくる。
「ほら、どうするよ。破格の条件じゃないか?
自分自身が何者なのかもわかるし、また家族ごっこができるだろう。考えるまでもないよなぁ?」
オレが逡巡していると、背後から美唯子が話しかけてくる。
「ペル様、私は構いません。ペル様のためなら、何でもできますから。どうか私を使って仲間を取り戻してください」
美唯子の言葉を聞いて、選択するべき結論を決めた。
「無理だ。美唯子は渡さない。
この子はやっぱり、オレの運命の人なんだと思う。
それを一度は手放した。バカだよな。だからもう二度と離さない。美唯子はオレが守る」
言いたいことは言った。あとは相手の出方次第だ。
「あーあ。やっぱりダメかよ。
サラを運命の人だと思うよう誘導し、偽りの家族まで持たせ、散々小細工したのにお前は手放した。アレスティラだってそうさ。
あれだけの特異な状況で、美貌と色気で思考の奥の奥まで麻痺させてやったのに、お前はそれを突っぱねやがった。
これが意味するところがわかるか?」
「知ったことか、さっさと正体を現せ、下郎」
刹那がサラに黒刀を向ける。
それを見てサラは刹那を小馬鹿にするように肩を竦める。
「まぁ聞けよ、下等生物。
全ては1番の思い通りだ。運命なんて台本と一緒なんだよ。
人類は自由に生きられないんだぞ? それでいいのか?
生まれてから死ぬまでずっと1番の奴隷、操り人形。
つまんねーよな!? ぶち壊すべきだよなぁ?!
最後に聞く、陽神美唯子を渡せ。新たなる未来を作ろうぜぇ」
「何度言っても答えは同じだ。オレは美唯子を渡さない」
オレが即答すると、サラはクツクツと笑い出す。
「だってさ、お前はどう思う? なぁ、零奈」
暗黒の運河から次に飛び出してきたのは零奈であった。
「パパ、最初からずっと聞いていたわ。ママを捨てたわね。
ママを捨てたパパなんてサイテーよ。絶対に許さない!」
「零奈、違うんだ、話を聞いて、戻ってきて欲しい。
また一緒に10番街で暮らそう」
「絶対にイヤ! だったらサラだけを愛してよ……。
パパとサラと紫苑と私、四人で幸せになりたいの……」
「クク……愛憎、憎悪、嫉妬に妬み、憎しみこそが生命の本質。
美しいねぇ。さ、ここらでオレの友達を紹介しましょうか。
3番、8番、10番、11番、14番、17番、18番!
お前と素零にぶち殺されて死んでしまったエニグマオールスターズの登場だ!!」
暗黒の運河から続々とエニグマ達が飛び出してくる。
地獄のような光景だった。
一人一人が不死身で世界を破壊できるだけの力を持っている。
「嘘だ、死んだら生き返らないってルールだろ、有り得ない」
「あぁ、もちろん本物は全員死んでるよ? 力の源、核からオレが精巧に複製した、よく出来た偽物さ。多少の改良も加えてある。
そしてもう一つ、大事なお知らせ。
レオナルドが管理運営していた軍事企業、調停者はオレが引き継ぐことにした。
新たなる名前は終焉!!
目的は1番の抹殺、生命の独立、規律の変更。よろしくな?
仲間になれなくて残念だよ。やれ、3番。全て消してしまえ」
サラが3番に指示を飛ばす。
3番の能力は破壊と創造。惑星破壊。
「まずい星が破壊される……。12番、来てくれ!」
暗黒の運河を通って12番が現れる。
「おいおい、気軽に呼ぶなよ。アタイはタクシーじゃ……。
ヤベェなオイ……世界の終わりかよ……地獄だな……」
エニグマの軍団を見た水が絶望の表情を浮かべる。
オレとしても泣きたい気分だった。
「ああ、本当にそうなるかもな。
とりあえず10番街に逃げる。オレは美唯子と刹那と國裂、12番は仁義とドラゴンを運んでくれ」
「ヤベェ、ヤベェよ。早くしろやガキ共、グズグズすんな」
仁義とドラゴンを抱えて先に水が転移する。
「久しぶりだねぇ……あの時は痛かったよぉ? ん?」
サングラス越しにオレを見つめながら3番が自身の腹を叩いている。もう一度風穴を開けてやりたいが、脱出が先だ。
「いやはや、やはりシャバはいいね。
さて、久しぶりのお仕事だね。
盛大に復活の狼煙をあげようではないかね!」
3番が指を鳴らすと世界の崩壊が始まった。
何度か見た光景だが慣れるはずもない。
やるせない気分で一杯になる。
「よし、逃げるぞ」
「待て、私は残る。3番は私が殺さなければならない」
オレの手を振り払い、刹那は3番を睥睨している。
生まれ故郷を破壊されたのだ、気持ちは痛いほどわかる。
「刹那、焦るな。この状況では分が悪い。故郷を消された恨みはわかるけど、今じゃない。冷静になろう。刹那がいてくれないと困る」
「……わかった従おう。だが奴は私が必ず殺す」
「バイバイ。愚か者達。運命なんて簡単に壊してやるからな」
サラが手をヒラヒラと振っている。
その横に寂しげな表情で佇む零奈。
二人ともオレが必ず助けてやる。
最後まで読んでいただきありがとうございました。