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宇宙最強の人間。終の螺旋【無式】。


 迅雷の連撃。

 常人には避けられない速度で繰り出した攻撃を悉く避けられる。

 突きも蹴りも、最小限のモーションで軽々躱す。

 否が応でも分からされる実力差。

 笑ってしまう。同じ人間とは思えない。


「────が、ッ……」


 ドラゴンの拳が体にめり込む。

 メキメキと音を立てて肋骨が砕ける。

 不死身の肉体を貫く破壊力。異常なまでの俊敏性。

 骨が再生する前にまた別の箇所が()()()()


「ペル様!? 本気を出してください、雷命延尽です」


 美唯子の悲痛な叫びが飛ぶ。

 雷命延尽。雷の力で限界を超えて肉体を活性化させる技。

 そんなものはとうの昔に発動している。

 だというのに追いつけない。拳一つ当たらない。


 使用することを封じていた零の螺旋を解禁することさえ考慮する。だが無駄だろう。当たらなければ意味がない。

 とどのつまり、目の前にいる男は人間ではなくドラゴンであり、今のオレには勝てる手段が存在しないのだ。


「負けを認めろ。弱さとは敗北ではない」


 ドラゴンが人のクチを利く。

 一撃一撃全てが必殺。抵抗に意味はない。

 生身の人間なら十数回は死んでいるであろうダメージを受けている。脳に酸素が回らない。喉が渇く。肉体が悲鳴をあげている。

 己の精神までもが無惨に壊されていくのを客観的に見る。

 

 意識が深淵に沈んでいく。オレには勝てない。

 所詮オレは神を気取った、ただの人間。


 ──お前は強い。忘れているだけだ。オレが証明してやる。


 声が聞こえた。

 世界が広がっていく。 

 思考が停止する。

 今はただ、倒せばいい。

 お前(オレ)は……誰だ。

 関係ない。叩き潰せ。

 お前(オレ)は宇宙最強だ。


「なんだ、と……」


 拳を止められたドラゴンが狼狽している。


「シッ、ッァ──」


 形もクソも関係ないデタラメな拳がドラゴンを襲う。

 背中から蹴り上げ、宙へと舞ったドラゴンを先回りして頭部を掴み、雑に投げて大地に叩きつける。

 追撃をやめるつもりなはい。倒れた相手に馬乗りになり、間断なく拳を振るい、戦意を底の底から刈り上げていく。


「師匠、やりすぎだ! ドラゴンが死んじまう!!」


 雑兵が騒いでいる。力なき者は黙っていればいい。


「アイツ、また()()()()な。2番は消えた。()()()()()


 賢い(刹那)が紛れているな。

 勘づかれても面倒だ。終わらせようか。


(ツイ)の螺旋【無式】──」


 やめろ。殺すな。美唯子……。


「ペル様、ダメですよ。私が封じますからね」


 運命の女神(陽神美唯子)。これは僥倖。こんな場所にいたとはな。

 ならばこの場にいる必要はない。戻って進軍の準備をしよう。


「──美唯子!」


 急速に意識が覚醒する。

 ドラゴンに向けて放たれようとしていた光の螺旋を無理矢理自らの中へと抑え込む。


「ドラゴン、大丈夫か!?」


「……問題ない。まさか俺が負けるとはな」


「違う、オレが勝ったんじゃない。今のは別の誰かだ」


「だとしても、負けは負けだ。お前に従おう……」


 それだけ言うとドラゴンは静かに目を閉じた。

 脈を確認する。死んではいない。眠っているだけだ。

 

「ペル様っ!!」


 美唯子が胸の中に飛び込んでくる。

 感謝の意味も込めて、オレは美唯子を強く抱きしめた。


「美唯子、ありがとな。あの時止めてくれなかったらドラゴンを殺していた。一体何をしたんだ?」


「えっとぉ……覚えてません! 愛の力? ──ひゃ!」


 美唯子の体が浮かび上がる。

 刹那が怒りの形相で美唯子を引き剥がし、首根っこを掴んで持ち上げていた。


「人前で睦み合うな。いい加減にしろよ。

 ……心臓はあるか。以前2番がこの世に現れた時、お前の心臓は消えただろう。確認してみろ」


 刹那に言われて心臓の鼓動を確認する。

 しっかりと生命の躍動を奏でていた。


「大丈夫だ、今回は消えていない」


 刹那は唇に指を当てて何事か考え込んでいる。


「先程の変貌、何か覚えているか。

 終の螺旋とは世界を壊す技なのだろう」


「確かに素零が発動した終の螺旋は宇宙を消滅させた。

 でも鉄仮面は力を使いこなしていた。終の螺旋にも色々種類があるのだと思う。さっきのことはあまり覚えていないかな」


 刹那は腕を組みながらオレの胸をジッと見つめている。


「……だとしたら同調(シンクロ)能力が関係しているのか。

 他者との繋がり、支配、精神操作……」


「刹那、色々考えてくれてありがたいけど、そろそろダメージが限界で……」


 言い終えるよりも前に肉体が限界を迎えた。

 力なく倒れ、大地のヒンヤリとした感触に包まれながら、オレの意識は途切れた。


最後まで読んでいただきありがとうございました。

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