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新人類男子組・鬼夜叉ドラゴン。漢は黙って一撃必殺。


 意識が戻ると目の前には美唯子と恋凛がいた。

 

「あ、ペル様、お早うございますー。デート楽しかったですね」


「ラブリンはペル様って呼ばないで! ペル様は私だけの……」


「あっ、ミコ妬いてんだ? かわい〜。

 でもペル様、ウチが必要ですよね?」


 覚醒したばかりの頭の中に女性のかしましい声が響く。


「仲間になったんだから仲良くしよう。少し静かにしてくれ」


「ペル様! ウチを選んで正解ですよ。

 能力のコツを掴んだみたいで、こんなこともできます!

 ウチ、()()してます。必ず役に立ちますから!」


 美唯子を押し退けて恋凛が前にでる。そして腕をかざすと、美唯子の体が光に覆われ、どんどんと縮んでいく。


「わっ! 何これ、戻してください!」


 美唯子は10歳前後の子供の姿になっていた。

 心象世界で行使していた力を現実に持ち出している。

 恋凛の能力は成長性と柔軟性が素晴らしい。

 これでもまだ進化は序の口だろう。今後に期待できる。


「あはは、かわい〜。ミコは小さい頃から美人さんだねー。

 しばらくはそのままでいなー? 可愛いからさぁ」


「ペル様ぁ……」


 美唯子は潤んだ瞳でオレを見つめている。

 見た目は完全に小さな子供だ。甘やかしてやりたくなる。


「ミコ、抱っこしてやろうか」


「え……はい。してほしいですけどぉ……」


 美唯子を抱っこして背中をぽんぽんと叩いてやる。

 まんざらでもなさそうで、嬉しそうな声を出した。


「ミコ〜、良かったじゃん! 親子みたいで素敵ー」


 美唯子を抱いたまま恋凛に向き直る。

 能力の練習台になった交換条件で、新人類の情報について聞く約束をしていた。


「じゃあまずはキミ達のリーダーは誰か聞きたい。

 そして戦闘能力の高い者と能力について教えてほしい」


「はーい! えっと、リーダーとかは特にいないですね。

 前までは生徒会長がそれっぽかったですけど、今は行方不明ですし。自由意志? みたいな」


 生徒会長とは鉄仮面のことだろう。

 新人類が避難を済ませた時点でレオナルドの軍事拠点に残っていたということは、完全に別行動を取っているようだ。


「強いのは戦闘能力検査の順で言うと、男子二位は留学生の李暁竜くんで、あだ名はドラゴン、拳法の達人。三番目が信長くんだったけど今は行方不明になってます。後は皆んな似たり寄ったり?」


 思わず口元に僅かな笑みが浮かぶ。

 エニグマと互角に戦っていた信長より強い男子高校生が二人もいるという事実に愕然とし、呆れを通り越して笑いとなっていた。


「女子は一位が留学生のジャンヌさんで、これまた行方不明。

 二位は、えっと……あまり強さとか興味なくて、すみません。

 三位は確か銃花だったかな……。銃を所持した危ない子です。

 それでエニグマの9番ですけど、今はウチらの居住区に軟禁されてます。場所は地図があるので渡しますね」


 ジャンヌとはアレスティラのことだ。この星にはいない。

 内心安堵しつつ、話を締めるために口を開く。


「そうか、大体わかった。ありがとう。水」


「あいよ。なんの用事でしょーかね。 

 っておい! 美唯子(パラドクス)! 可愛いくなったなぁ」


 呼びかけてから数秒で暗黒の運河を通じて12番()が現れた。小さくなった美唯子に皮肉を飛ばしている。


「……不本意ですが、ペル様に抱かれていたいので甘んじて受け入れてます。意地悪な極致模倣(アリンガルト)さん」


 子供ながらに負けじと言い返す美唯子が、あまりに可愛かったので頭を撫でてやる。


「ふにゃあ……幸せ……」


「アッハハハ! 猫かよ、ウケるなオイ! それで用件は」


「この子は仲間になった恋凛だ。10番街まで案内してやってくれ。あとオレ達を無の空間から地上に戻してほしい」


「へいへい。わかりやしたよ。仰せの通りにいたしますですよ」


 12番()が能力を発動し、オレ達は無の空間を脱出する。


 ◇ ◇ ◇ ◇


「遅かったな。誰だその子供は」


 地上で待機していた刹那がオレ達を迎える。

 やはり小さくなった美唯子が気になるようだ。


「美唯子だ。刹那も抱いてみな。ものすごく可愛いから」


「私は遠慮する。子供は好かない」


「ああ、素零に負けたからな」


「言うな。今なら勝てる。()()をだすからな。

 ……何か来たな。敵だ」


 刹那の目線の先にいたのは男性二人組。

 一人は刺繍の入った特攻服(マトイ)を着て、腹にサラシを巻いている。嫌でも目につくド派手な金髪。パッと見の印象は不良。


「喧嘩上等、夜叉仁義(ヤシャジンギ)! 侵入者だな? 覚悟しろコラ!」


 聞いてもいないのに名乗りをあげた仁義がステップを刻む。

 戦闘スタイルはボクシングだろう。だが足の使い方が拙く、素人丸出しだ。脅威にはなり得ない。


 それよりも気になるのは仁義の隣にいる大男。

 離れていても感じ取れるほどの覇気、強者だと判断できる。


「刹那、ヤンキーの隣にいる背の高い男」

「ああ。國裂信長だ。あれの相手は私がしよう」


 國裂信長。常人離れした戦闘能力と狂気を持つ男。

 零奈によって殺害されたと思っていたが、生き延びていたようだ。


「お前、信長だな。生きていたのか」


「すっ……すす」


 信長が弱々しい声を出す。


「す?」


「すみませんでしたぁぁ!!!

 毎度毎度うちの兄貴がご迷惑をおかけいたしまして、心より謝罪を申し上げると同時に誠意ある土下座をするので許していただきませんでしょうかぁ!」


 信長だと思っていた男はオレと刹那の前まで走り寄り、地面に頭を擦り付けながら土下座している。

 2メートル近い大男が半泣きで土下座する姿は異様だ。


「テメコラバカコラ!? 何敵に謝ってんだよコラ!

 確かにお前の兄貴は狂ってたが土下座はねぇだろコラ!」


 仁義がツッコミを入れている。

 どうやらあの大男は國裂信長の弟らしい。


「刹那、どうする」


「お前は不良をやれ。戦場で謝罪など無意味だ。信長は私が斬る」


「やる気満々かよ。殺さない程度に頼む。まだ高校生なんだ。

 美唯子は木の陰にでも隠れていてくれ」


「えー! ペル様から離れたくないです。私を抱いたまま戦ってくださいー!!」


 抱っこされた状態で美唯子が駄々をこねる。

 可愛いらしいので願いを聞いてやりたいが、そうもいかない。


「無茶言うな。戦闘が終わったら、また抱っこしてやるからさ」


「……はーい。しゅん。せっかくペル様とひっつけてたのに……」


 美唯子は愚痴をこぼしながらトボトボと歩いていった。


「レオナルドが言ってた世界の敵、叛逆者(ペルセウス)だな?

 ぶっ潰してやるコラ! いっちょやるかコラ!」


 仁義が気勢と共に突っ込んでくる。

 やはり戦闘スタイルはボクシング。懐に飛び込み拳を打ち込んでくるが、手首のスナップが効いていないし、溜めも捻りもないため威力がまるでない。ハエも殺せないようなパンチだ。


「パンチが軽い。お前に接近戦(インファイト)は向いていない。足を使うアウトボクシングに切り替えて細かく戦った方がいい」


 フェイントやスイッチのタイミング、スタミナやスピード、光る点は色々とあるが、我流でやっているのか特性を活かせていない。

 

「黙れやカスコラ! ちまちまやるのは性に合わねーんだよ。漢は黙って一撃必殺(ガインペストシュゼン)!」


「そうかよ。センスはいいのに残念だな」


 仁義が能力を発動したのだろう。

 右の拳が光り輝いている。これでは危険ですから気をつけてください、と言っているようなものだった。

 右の拳をダッキングで躱し、脇腹に拳を打ち込む。


「ゴハッ……つえぇ……」


 仁義ダウン。


「まだまだぁ!」

 

 焦りから大振りになっているところに軽くカウンターを入れる。

 二度目のダウン。


「クソがコラ! 手ぇ抜いてんな! 舐めなんなコラ!」


 実力差を判断することは出来るらしい。

 すぐに立ち上がるタフネスもある。育てれば戦力になる。

 ジャブ二発からのストレート。仁義の意識を完全に刈り取る。

 三度目のダウン。TKO。試合終了。


「……はっ!? おい、コラ! お前の言うこと聞けば強くなれるのかよコラ!」


 意識が戻ってすぐの発言がこれ。

 根性も向上心もある。オレが育ててやろう。


「多分な。お前の能力さ、当たれば一撃で倒せる系の能力だよな」


「よくわかってんじゃねーかコラ!」


 仁義はニカっと可愛らしい笑顔を浮かべる。


「一度でも当たった事あるのかよ」


「──クッ、痛いところをつきやがるぜ」


 一転して苦悶の表情。わかりやすい。


「やりようによってはお前、最強になれるかもな。やるか?」


「……夜露死苦頼むぜ師匠コラ」


「口の利き方、まずコラをやめろ。──ッ!」


 オレと仁義の間を閃光が駆け抜ける。

 その正体が人間だと気づくのに数秒の時間を要した。

 不意に飛んできた蹴りを避けるが、強烈な脚技は大地を穿ち、土煙を巻き上げ、世界を揺るがすほどの衝撃を生んだ。


「今の蹴りを避けるか。面白い」


 鍛え抜かれた肉体、穏やかながら熱のこもった雰囲気(オーラ)。並の人間には放てない背筋が凍るような威圧感。


「仁義、こいつは誰だ」


「男子戦闘能力二位、李・暁竜。無能力、です、師匠」


 敬語に慣れていないのか、仁義は辿々しい口調で言う。


「能力がないのに二位? 本当なのか」


「はい。昔、信長と喧嘩して素手で勝っていた、ました。実力は間違いない……です。噂では地球で一番強い格闘家だとか」


 肌がピリつくような緊張感。

 ドラゴンの放つ威光。明らかに人間離れした人間。

 対峙しているだけで平伏してしまいそうになるような存在感。


「雨滴刺穿石头。人間に限界はない。俺は俺以外、何もいらない。力に溺れるものは死ぬ。──拳で語ろう」


 ドラゴンが拳を構える。先程より体が何倍にも大きく感じる。

 全力で戦わなければ勝てない。今まで戦った誰よりも強い。


「アンタ、強いな。武者震いしてる。勝てるかどうかもわからない。もしオレが勝ったら、仲間になってくれ」


「いいだろう。困難はない、あるのは諦めだけ。

 俺は俺自身を信じる。己を高めるためなら修羅を行く」


最後まで読んでいただきありがとうございました。

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