学園ラブコメは日常系の中で②。恋占い師の種明かし・ラブリの恋愛診断能力。
「ペル様ぁ! こっち、こっちですー!」
「ペル様ってなんだよ……痛いって……」
オレの腕をグイグイ引きながら陽神美唯子はズンズン進む。
美唯子はオレを除くクラスメイト全員と仲がいい。
普通は人間なのだから、得意不得意があって当然だ。
だが彼女は底知れぬ明るさと人懐っこさで、あっという間に距離を詰め、誰とでも仲良くなってしまう。
一番苦手なタイプだ。オレが闇なら彼女は光。相容れない。
「──放せよ! 突然現れて掻き乱して、迷惑なんだよ!
誰もがお前と仲良くすると思っているなら大間違いだからな」
これ以上、関わってほしくないのでキツイ口調で言う。
「わぁー! 大人の余裕があるペル様も素敵ですけどぉ……。
若くてヤンチャなペル様も素敵ー! カッコイイなぁ……」
この女は頭がおかしい。
多分頭の中には脳みそではなく綿菓子か何かが詰まっているのだろう。
「あっ、教室に着きましたよ! 一緒にお昼食べませんかぁ?」
完全に美唯子のペースだ。何を考えているかもわからない。
下手に断ってクラスメイトの顰蹙を買うのは避けたかった。
オレが小さく頷くと美唯子は明るい笑顔を見せる。
美唯子が教室を歩くと通り過ぎる女子全員が「ミコ〜」なんて言いながら手を振っていく。生きるのが上手そうで羨ましい。
美唯子は一人の女子に声をかけ、三人分の机をくっつけてオレに座るように促す。
「ちーっす! ミコの旦那じゃんね? ラブリって呼んでよ」
愛川恋凛。
強制的に相席にさせられたクラスメイト。
明るい茶髪、垢抜けた雰囲気、長い睫毛、自然メイク。いわゆるギャルタイプ。
絶対に自分からは関わりたくない人種だ。
「ペル様! この子が今回の能力者です。この偽りの学園生活を作った張本人ですよー!」
ラブリがピースサインを額に当てながら挨拶してくる。
能力というのはアニメか何かの話しだろう。
オレは返事もせずに弁当を取り出し食事を始める。
「ラブリンは何が目的なの?」
「ミコの旦那の生態調査ぁ? ほら、ウチさ、将来は恋愛専門のカウンセラーになりたいし、レオナルドからそのための能力も貰ったしさ、色々試行錯誤中なわけよ」
「えー! 面白そ〜!? どんな能力なのか教えてぇ〜」
「へへ、ウチの能力は恋凛真理力。対象者の恋愛観とか気になってる相手の全てを赤裸々に暴きます。みたいなね。状況再現も完璧で、恋する相手の全てがわかります。
アンタの旦那の心象を具現化した世界にウチらは今いるわけ」
「それでペル様だけ様子がおかしいんだ? どんな感じ?」
「うーい! まずアレスティラって女ね、アレはダメ。
恋心より恐怖を抱いている。学園のアイドルってのは自分との格差を表してて、取り巻きの男達はそのまんま相手との距離、壁。
この恋愛はうまくいきません。次に黒髪の刹那アネキ。
これも悪くないけどダメ。愛情ではなく尊敬、敬意が強い。
仲間としてなら完璧。良好な関係を築けるでしょう」
昼食の時間なのに女子二人は弁当を机の上に置いたまま喋り続けている。
頭の中に靄がかかっているようにボンヤリとしていた。
話の内容がうまく理解できない。
「わ、すごい! わかりやすいね!
これは女性に人気でるねー。あの、ちなみに、私は?」
「喜べミコ。今のところ完璧だよ! 同級生ってのは身近な存在を示していて、人は自分にないものを欲しがるから、潜在的にアンタを欲してる。性格的にもバッチリ! あと何人かテストしたいけど、ミコが恋人として最適解じゃね? 運命ってヤバ!」
「そっか、嬉しいな……。私って幸せ者だね」
「健気だねぇ。ミコはいいお嫁さんになるよ。
それとさ、彼、今は身も心も完全に16歳に戻ってるから、今のうちにデートとかしときなー? 男子達がそろそろ来るし、修羅場になるかもよ」
「そんなにヤバいの?」
「んー。やる気満々かな。
最初は地球に帰ろうとしたけど、宇宙から消えてるしさ。
フラストレーション溜まってて、その上、折角作った自分達の星にアンタらが乗り込んできたから、暴れたいみたいね。
ほら、男子って単純だし? むしろ戦いたいんじゃない?」
「そっかぁ……でもさ──」
「ご馳走様でした!」
女子二人に向けて強い口調で言う。
これ以上意味がわからない話に付き合うつもりはなかった。
オレは無言で立ち上がり、そのまま教室を出た。
◇ ◇ ◇ ◇
頭がまだボンヤリとしている。
何もやる気が起きないので午後の授業はサボろうと考え、保健室に向かう。
「あら、どこか具合でも悪いのですか?」
保健室担当のサラ先生が穏やかな口調で話しかけてくる。
大人なのに小柄、140後半くらいの身長だろうか。
肩くらいまで伸ばした髪、小動物系の顔、柔和な雰囲気。
サラさんはオレに優しく、どんな相談にも乗ってくれる頼れる存在だ。
「別に体調が悪いとかじゃなくて、疲れたから寝にきました」
オレが言うとサラさんはクスクスと笑う。
カーテンの仕切りを開け、ベッドに腰掛け、シーツを手でポンポンと叩いている。
「どうぞ? ゆっくり休んでくださいね」
ベッドに横になろうと歩みを進めると、突然誰かに胸ぐらを掴まれた。
「いつまで遊んでいるつもりだ」
《秩序が乱れます。やり直してください》
「刹那……先輩?」
「先輩ではない。ただの刹那だ。
9番を救出に来たのを忘れたのか。いい加減に目を覚ませ」
《秩序が乱れます。やり直してください》
「9番? 何言って……オレには関係……ない」
「関係ないだと? ふざけるなよ。
お前は巻き込まれ体質なのか知らないが、他人の力に飲まれすぎだ。意志が弱いからいつまでも利用されるのだぞ。自覚しろ」
《秩序が乱れます。やり直してください》
「刹那……オレを殴れ」
《秩序が乱れます。やり直してください》
「いいのか。多少腹が立っている。容赦しないぞ」
《秩序が乱れます。やり直してください》
「ああ。全力で殴れ。早く、おかしくなる前に──」
《秩序が乱れます。やり直してください》
《秩序が乱れます。やり直してください》
《秩序が乱れます。やり直してください》
《秩序が乱れます。やり直してください》
《秩序秩序が秩序み乱れやるやり……truth》
最後まで読んでいただきありがとうございました。