カードバトル×異能女子。決闘者に勝つ方法。
暗黒の運河を抜けた先は、新人類が占拠している惑星ペブリナント。太陽があり、酸素もある。山があり、海があり、街もある。
元が人間の新人類が生活しやすいように創ったのだろう。
ここが地球だと言われても納得できるほどに環境が整えられていた。
「田栗ヨセル。侵入者の足止めに来たよ。よろしく!」
侵入者であるオレ達の前に早速門番が現れる。
見た目は普通の女子高生。特徴的なのはスカートベルトにカードを入れるデッキケースのようなものを複数つけている。
異能力者の集団の中に突っ込んできたのだから覚悟はしていた。
探知能力、危機察知能力等色々とあるのだろう。
戦闘方法については事前に刹那と打ち合わせしておいた。
新人類の殺傷はしない。零の螺旋も使わない。
出来るだけ穏便に事を運び、9番の救出を最優先にする。
「黙って通してくれないかな? 戦うつもりはないんだ」
「そうはいかないよ! 誓約魔法発動! -規律聖領域-」
ヨセルと名乗った少女はデッキケースからカードを一枚取り出し、天高く掲げる。
するとカードの中から光が溢れ、ドーム状に展開。
オレ達は半透明の壁の中に閉じ込められた。
「私の能力は決闘者!
私とのカード勝負に勝たない限り永遠に壁の中だよ。
決闘、受けます?」
オレが頷くとヨセルはニンマリと微笑んだ。
生命点5000。
地形効果・無。山札40.捨札0。
エクストラスポット10。サイドデッキ10。
先行ヨセル。決闘を開始してください。
様々な情報が空気中に文字として浮かび上がる。
既にヨセルの能力は発動しているようだ。
ヨセルがデッキケースからカードの束を取り出すと、山札が宙に浮き上がり、荒廃した都市のような立体映像が広がっていく。
「さぁ、決闘を始めようか! 私のターン! ドロー! 準備段階、カードを二枚伏せ、基本段階に移行、守りの使者、守護戦士を防御態勢で召喚!
ターンエンドだよ!」
守護戦士 AK800 DF2100 機械戦士属性
1ターンに一度、このカードは戦闘によって破壊されない。
捨札に存在するこのカードをゲームから追放することで、任意のタイミングで攻撃段階を終了するとができる。
カードから飛び出して来た戦士の情報が出ているが、よく意味がわからない。カードゲームはトランプくらいしかやったことがないのだ。
「──黒の弾丸」
オレが躊躇していると、刹那が機械の戦士に向けて魔力の弾丸を撃ち放つ。オレ達はカードを所持していないので、直接戦うしかないだろう。
「反撃カード発動、愚か者の末路! 相手の攻撃を無効化し、山札からカードを1枚ドローできる」
ヨセルが伏せていたカードを反転させる。
刹那の黒の弾丸は空気中に生まれた渦の中に吸い込まれて消滅した。
「──雷撃弾」
オレも雷撃弾を撃ってみる。
複数放った雷の弾丸が一直線に機械戦士へと殺到する。
「私を守って! 守護戦士の特殊能力発動! 1ターンに一度、このカードは戦闘によって破壊されない! ふぅ、危なかった!
もう攻撃権がありませんけど、ターンエンドですか?」
雷撃弾も謎の力によって掻き消されてしまった。
「それしかないなら、エンドだよな? 美唯子は?」
「私ぃ、なんだか楽しそうなので見学しまーす!」
「じゃあエンド? だ」
このままやっても勝てる気がしない。
刹那もそれを察しているようで、苦い表情を浮かべている。
「了解! 私のターンだね。準備段階、伏せカードを発動、多大なる犠牲、生命点を2000支払い、山札からカードを2枚ドローする。さらに手札からクイック&ドローを発動!
手札を全て山札に戻して+1枚になるようにカードを引く!」
ヨセルは山札からカードを引いて延々と手持ちのカードを増やしていく。きっと何かの戦力なのだろうが、素人のオレには全く理解できない行為だった。
「なんでカードを引いたり戻したりしてるだけで戦わないんだ?」
「お兄さん、もしかして初心者ですか? デッキの圧縮とか、ドローソースの重要性がわかってません? ハンドの差が戦局を大きく変えるんですよ? ちなみに、私もう勝ちますけど。
降参しますか?」
ヨセルの言葉を理解しようとするも余計に混乱する。
「刹那、どうする。なんだか嫌な予感がするんだけど」
「お前の予感は正しいだろう。相手のルールで戦っている以上、勝ちの目は少ない。剣なら剣、魔法は魔法、カードにはカードだ」
カードにはカード。その言葉を聞いたとき頭に妙案が浮かぶ。
「……わかった、降参する。ちなみに、助っ人とかはアリ?」
「どーぞどーぞ! 私は決闘を楽しみたいんで!
助っ人を連れてくるだけなら外出を許可しますよ!
あー! 時間稼ぎもできるし楽しいし、最高な能力だー!」
「そうだな。楽しそうだ。刹那、美唯子、五分で戻るから」
オレは降参した。
暗黒の運河に飛び込み10番街に戻り、勝ちの目を連れてくる。
「どうしたんだよ神様。言っておくが俺は戦力にならないぞ?」
「あー!! 貴方はもしかして天川大吾!?」
ヨセルは目を見開いて大吾を見ている。
オレが連れて来た友人のレッドはカード界隈では有名なのかもしれない。
「オレの友人なんだけど、有名人だったりする?」
「知ってるも何も、銀河最強決闘者、赤の英雄、速攻の覇者、キングオブキング、私の憧れの人っすよ!!」
ヨセルは突然早口になり、鼻息荒く、興奮しているようだ。
「レッド、お前、すごかったんだな!」
「趣味の領域だけどな。人生を捧げた見返りみたいなものだ」
レッドは自嘲気味に嘆息する。
「大吾さん! おい、私と決闘しろよ!?」
「基本的にランカー以外は相手にしないと決めている。
だが俺も決闘者、その勝負受けよう」
「くぅ〜! 楽しみだな! 猛るなぁ!」
ヨセルは手にしたカードを高速でシャッフルしている。
やはりどんな分野でも強者と対峙すると心躍るのだろう。
「ハンドシャッフルは控えてくれ。公式戦でもないし個人の自由だが、俺はあまり好まない」
「あ、すみませんっしたー! 大吾さんが言うならやめるっす」
あまり専門用語は使わないでいただきたい。
刹那は役目がないと感じたのか座り込み睡眠している。
「ペル様は私と一緒に観戦しましょーね!」
美唯子が隣に立ち、オレの手を握る。
柔らかな感触に心が癒された。
「「決闘!!」」
ヨセルと大吾の決闘が始まる。
ヨセルはほぼ先程と同じ動きを展開し、手札を潤沢にさせていく。
「……特殊条件勝利を前提とした動きだな。
場を制圧される前に速攻を仕掛けるしかない」
大吾がポツリと呟く。
何か対策法があるらしい。
「俺のターン! 手札から緊急出動を発動!
山札から攻撃500以下の戦隊と名のつくカードを特異召喚することが出来る。銀河戦隊レッド、グリーン、ピンクを特異召喚。
さらに希望の架け橋・ビクトリーロードを発動、場に三体以上、戦隊と名のつくユニットが存在する場合、エクストラスポットから2体まで戦隊属性ユニットを特異召喚することが出来る。
機械獣神ヘルガ、戦闘空母メタティックコアを特異召喚。
魔法カード五重合体を発動。場に5体以上の戦隊属性カードが存在する場合、場のカードを全て昇華させ、究極の戦士、銀河戦王を特異召喚することができる。
現れよ、銀河戦王・超新星騎士王!
このまま攻撃段階に移行する」
目まぐるしく展開が変わる。頭が爆発しそうだ。
とりあえず、すごくカッコイイ戦士が出て来たのだけわかる。
「くぅぅ〜! 引きツエー! 主人公補正かよ!
だが私も決闘者! ここで負けるわけにはいかないっすよ!」
「新星騎士王の攻撃、起源爆撃拳!」
カッコイイ戦士が攻撃する。当たればすごく痛そうだ。
「反撃カード発動! 犠牲結界!
場に代理犠牲ユニットを防御態勢で5体展開する!」
ヨセルの場に単眼の魔物が五匹出現した。壁にするのだろうか。
「反発反撃カード発動、絶対君主の圧政を発動。
生命点を1500支払い、反撃カードの効果を無効化する」
レッドが何かする。もう意味がわからない。
「甘いね! こちらも反発反撃カード、神の検閲を発動!
効果を無効化するカードの効果を無効化し、そのゲーム中使用不可能にする!」
ヨセルも食い下がる。オレには理解できない。
「やるな! だが攻撃自体は無効化しない!
代理犠牲ユニットを破壊! 新星騎士王の効果発動!
このカードが防御態勢ユニットを破壊し捨札に送った場合、他の全ての場ユニットをゲームから除外する。
さらにダメージステップ終了後に追撃魔法、分離反攻を発動。新星騎士王は召喚元となったユニットへと分離する!」
「くっ、このままじゃ負ける……!
ならば捨札にいる守護戦士をゲームから追放、このターンの攻撃段階をスキップするよ!」
すごく盛り上がって来ているのかもしれない。
「美唯子、今何考えてる? ついていけるか?」
「ペル様のことです! サッパリわかんないでーす!」
美唯子も同意見だったようで安堵する。
やっている本人達はきっと素晴らしく楽しい時間を過ごしているのだろう。
「読んでいたさ、手札から効果無効電磁波を捨札に送ることで、効果ユニットの効果を発動前に無効化する。
場にいる5体のヒーローユニットでプレイヤーに決着撃だ!」
「あちゃー。ピン刺し規制カードまで引いてるかー、こりゃダメだ。私の負けだー!!!」
ヨセルの生命点が0になる。多分レッドが勝った。
やっと決闘が終了する。見ている側が疲れてしまった。
「神様、終わったぞ。俺は先に10番街に戻っている」
「ああ、ありがとう。なんか……すごかったな」
「ちょーっと待ったー!!」
大声を出してレッドを引き止めたのはヨセルだ。
真剣な眼差しでレッドを見つめている。
「天川さん! 超真剣ラブです! 付き合ってください!」
「え、あの、突然だな」
ヨセルの告白にレッドは困惑しているようだ。
「おー! 乙女の告白です! ヨッチンがんばれー!!」
「茶番だ。バカバカしいにもほどがある」
美唯子はヨセルを応援し、眠りから目覚めた刹那は呆れている。
オレも密かにレッドの幸せを願っていた。
「俺、オタクだけどいいのか」
「わ・た・しもオタクだー! つまり、一生幸せっす!」
「じゃあ、よろしく。キミとの勝負は楽しかった」
「これからは毎日できますよ!」
ヨセルの告白は成功。レッドに彼女が出来た。
本当に良かったと心から祝福する。
「やったー! やりました! キャー! 素敵ー!! ほら、セッちんも祝福してあげて!」
「セッちんとはなんだ。まぁ、良かったな」
「ミコー! 念願の彼氏ができたー!」
「やったぁ! あの手のタイプは浮気しないから安心だねぇ!」
美唯子とヨセルが両手を繋ぎながら飛び跳ねている。
微笑ましい光景だ。
「神様、生まれて初めて彼女が出来た。これも神様のおかげだ。一生ついていくよ」
レッドが深々と頭を下げる。
「本当に良かったな。オレも嬉しいよ」
「神様、私も10番街に住んでもいいですか!
この世界つまらないし。大吾さんと一緒に暮らしたいっす!」
「わかった。いいよ。二人共10番街まで送ろう」
ハプニングはあったがレッドのおかげで決闘者を撃破した。
恋人になった二人を10番街へと送り届け、オレ達は9番救出に向かう。
最後まで読んでいただきありがとうございました。