4月4日。運命が壊れた日。
同調能力は人と繋がり心を読んだり、他社の潜在意識に働きかけ自由に操る事もできる。完全に同調が決まれば肉体の同化も可能で、過去には悩める戦隊ヒーローのリーダーをその力で助けたりもした。
有用な力ではあるが他人の心に無断で押し入るように感じ、気が引けるのであまり多用はしていない。
「ミコ、刹那、いくぞ、同調!」
同調能力を発動し心を一つにする。
未唯子と刹那の肉体は地上から消失し、精神が完全に融合する。
『ペル様、完璧です! この状態で過去に介入します。
黒幕の尻尾を掴めそうな心当たりのある日がありますか?』
「忘れもしない。4月4日。オレがアレスティラと出会った日だ。でも時間軸に関与したらヤバくないか? 5番に消されてるんじゃなかったっけ」
『平気でーす! 私の力は時間軸に関与することなく過去に干渉できますから。それに1番さんの許可も取ったので万全です』
美唯子が能力を発動する。
オレ達は真相を知るべく全ての始まりの日へと向かう。
◇ ◇ ◇ ◇
運命の日。4月4日。自宅。
部屋の質感も空気感も何もかもが懐かしい。
今頃オレは自室で人生について嘆いているだろう。
その直後に5番が現れ世界が変わる。
同調を解除し、肉体を取り戻した刹那と美唯子に目配せする。
この日、何が起きたのか詳細に調べる必要がある。
オレ達は気配を察知されないように、息を殺して室内を探索する。
リビングに向かう途中、美唯子に服の袖を引かれる。
刹那も何か勘づいたようで、前方を指差していた。
「ククッ……たまんねぇな。人の人生メチクチャにすんのは。
29番は足止めしたし、外も……ッハァ!」
薄暗い灯りの中、誰かがいる。軍服を着た男性。
目を凝らして見ると、下卑た笑いを浮かべているのは8番だ。
あの時、家の中に8番が侵入していたという事実を知り背筋に悪寒が走る。
「刹那」
オレが囁くように言うと、刹那は音も立てず抜刀し、8番の両腕を斬り落とした。
「グォガ! あっ、ガァァ! テメ、誰、どこ……」
8番は狼狽している。オレは8番の腹を蹴り飛ばし、廊下に倒れたところに身体ごと飛びかかり、手で口を塞ぐ。
「五秒以内に何をしようとしていたか言え。いいか、手を離す。静かにしなければ消す」
「お前……なるほどな。だがもう手遅れだ。お前の運命は壊された。完全に、念入りに運命を潰してやった。5番がもう来る。
29番は10番街に残し、運命の女神は今頃……ヒヒッ」
見ているだけで不快になるような表情で8番は語る。
これ以上は話しても時間の無駄だと判断する。
「お前が死ぬのはまだ先だ。未来で会おう8番」
刹那が8番の首を斬り落した。
再生するだろうが気休めにはなった。
「刹那、美唯子と一緒にオレを見ていてくれ。
オレは外を見てくる。何か胸騒ぎがする。すぐに戻る」
刹那と美唯子は黙って頷き、オレ達は別れた。
◇ ◇ ◇ ◇
月は高く、4月だというのに外気は肌寒い。
閑静な住宅街。人目を避けるようにして建てられた邸宅。
屋根の上から周囲を見渡す。異変は間近で起きていた。
「誰か、助け……て」
オレの家の門扉を制服姿の女の子が叩いている。
目に涙を溜めて、不安と恐怖が混在しているような悲痛な表情を浮かべていた。
「こんなとこに誰も来ないよー?」
「ああ……可愛いな。ずっと目を付けててよかったぜ」
「おら、ジャンケンだ。早く決めようぜ」
品のない笑顔を浮かべた大柄な男三人が少女を取り囲む。
逃げ場はない。袋小路だ。
「ほんと、ヤだよね。こーゆーのってさ」
「お前は……」
オレに声をかけて来たのは意外な人物だった。
エニグマの少女、9番のノノ。桜色の髪、小柄な体躯。
8番を探しに行くと出かけたきり消息不明になっていた。
「久しぶり。不思議な気分だよね。ほんとならもう少し先で会うんだよね? どこで出会った?」
「空の空間だ。ここにもいたんだな」
ノノは微笑を浮かべる。
「何が起きてるか知りたい? でもその前に、助けに行ってあげたら? 君の運命の人だよ」
ノノが首を傾げる。
運命と聞いた瞬間、考えるより先に身体が動いた。
地面を蹴って跳躍し、男の顔面に飛び蹴りをぶち込む。
三人組の中心にいた人物を瞬殺。残るは二人。
「──なんだ、コイッァ!?」
「テメ、調子にあぶす──」
左の男に肘鉄一閃。崩れたところを蹴り上げる。
右の男は鳩尾を殴り、返す刀の裏拳で飛ばす。
暴漢制圧所要時間30秒。
突然現れて男三人を薙ぎ倒したオレを見た少女が愕然としている。雰囲気は違うが間違いなく美唯子だった。
「美唯子、大丈夫か」
「あの……どうして私の名前を? 誰、ですか」
話しかけた少女が過去の美唯子だということを失念していた。
もしかしたら暴漢の仲間かと思われたかもしれない。
「あー、えっとキミは叛逆者って呼んでくれるけど。
それより怪我はないか。なんなら明るい場所まで送ろうか」
優しい口調で言うと、美唯子はホッと息を吐き出して警戒の表情を解く。
「い、いえ。大丈夫です。……ペル、様? ありがとうございました。お礼がしたいので、連絡先とか聞いても平気でしょうか」
「気にしなくていいよ。またどこかで会うかも知れないから」
軽い調子で言うと美唯子は頭を下げて帰っていった。
「──君は暴漢に襲われていた美唯子を助けて、そこから交際が始まった。人生を悲観していた君を、美唯子は持ち前の明るさで支え続けた。そして若い二人は幸せになりましたとさ。
……本来ならね。だけどその運命は今日、阻まれた」
いつの間にか隣にノノが立っていた。
ノノは淡々とした口調で語ると嘆息する。
「オレは本来なら5番ではなく美唯子と出会っていた?」
オレの問いにノノが深く頷く。
「そう。彼女、ずっと言ってたよね? 私の運命の人だって。
1番の言葉だもん。それは間違いないよ。
だけどキミの力に気づいた連中がアレを仕向けた。
でもすごいよね。色んな苦難があっても、遠回りしても、君達はまた出会ったんだから。赤い糸は千切れない。素敵だなぁ……」
今の言葉が本当なら、オレは人間として美唯子と平凡な家庭を築いていたのかも知れない。そんな事を考えていると、また別の疑念が浮かぶ。
「……どうしてオレなんだ。オレは一体、何者なんだよ」
「知りたいよね? 教えてあげてもいいけど、お願いがあるの」
ノノは何か知っているのか意味深な顔をする。
「何でも言ってくれ。オレ達は仲間だろ。真実が知りたい」
「うん。あのね? 8番とレオナルドに騙されて、今、捕まっているの。助けてほしいな。苦しくて、辛くて、ダメになりそう」
「わかった、任せてくれ。すぐに助けてやるからな!」
少しでも安心させるために強い口調で言うと、ノノは静かに首を縦に振った。
最後まで読んでいただきありがとうございました。