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愛憎の12番。剃刀の刑に処す。


 無の空間に閉じ込められてから、さらに刻が経過した。

 飢えに関しては問題ないが新たな問題が発生する。

 それは乾きだった。この世界には水分が存在しないのだ。 

 エニグマであるオレは飲まず食わずでも生存できる。

 だが美唯子は強化された人間。つまり水分は必須。

 最初の数日は健気に頑張っていたが、それも限界が近い。


「ペル様ぁ……」


 美唯子はグッタリとしている。

 目が虚ろで声も細く、生気が感じられない。


「ミコ、しっかりしろ! 水分……オレの血液は……ダメだな」


 以前何かの知識で砂漠や海上で乾いても血液の摂取は危険だと学んだ覚えがあった。拒否反応、細菌感染、諸々とリスクが高い。

 だとしたら万事休すだ。

 今までは美唯子がいてくれたからやってこれた。

 オレ一人となり話し相手すらいなくなったら、精神が磨耗し発狂、もしくは全てを放棄し無の一部になってしまうかもしれない。

 周囲を見渡すが、白しかない。

 だとしたら方法は一つ。1番に状況の打開策を問う事だ。

 今まで1番に頼りきりになっていたが、その状態が危ういことは理解している。

 自分では未来を切り開けない人間になってしまう。

 困っても1番がいてくれるという軟弱な思考が根づいてしまう。

 1番に頼るのはこれで最後にしよう。美唯子だけは絶対に救いたい。


「ミコ、1番に聞いてくれ。キミが死ぬのだけは絶対に嫌なんだ」


 オレが手を握っても、握り返す美唯子の力は弱々しい。

 風前の灯火。そんな言葉が頭をよぎった。


「ペル様……全力で、雷撃を……天に」


 美唯子の言葉に安堵する。

 絶望の状況を変えられる術が存在したのだ。

 考えている暇はない。

 己の全てを力に変えて、最大最強の雷を天に向かって撃ち放つ。

 白の世界を雷光が包む。爆音轟き、天が裂かれる。

 力の放出は際限なしに、祈る気持ちも熱に変え、奇跡を信じて世界を穿つ。


「──ッと見つけたゾォ! 15番(ジェイド)ォォォォ!」


 怒声と共に天から流星が一つ落ちてくる。

 雷光を掻き分け、黒い線が迫り来る。

 線は水色の軌跡を残しながらグングンと近づいてくる。

 数秒もしない間に線は点となりオレの目前に落下した。

 人型の塊が落下した地点に異変が起きる。

 錯覚か幻聴か、川のせせらぎが聞こえる。

 直後、頬に水飛沫がぶつかる。ずっと探し求めていた水の波動。その源泉を探して周囲を見渡す。


「随分と手間かけさせんじゃねぇか? アァ!?

 あたいから逃げられると本気で思ったのかよ? なぁオイ!」

 

 声の主は一人の女性だった。

 澄んだ水面を思わせるような透明感のある青色の長髪、瑠璃色の瞳は神秘的だが、深海を連想させるような得体の知れない恐怖も覚える。

 怒気を帯びた表情、それでも顔は整っていると認識でき、背も高くスタイルが良い。

 黒いゴスロリのドレスを着ていて、主張の強いメイクが妖しさを助長している。今まであまり絡んだことのないタイプの女性だ。

 

「お前……15番(ジェイド)じゃないな? 

 名乗れよ。殺しちゃうぞ?」


 オレの全身を眺めながら女性が言う。その声は冷たく鋭い。

 15番の存在を知っているということは恐らくはエニグマ。

 先程水飛沫を飛ばしたのを見るに水に関する能力を持っていると推測できる。これで美唯子を助けられると確信する。


「オレは10……じゃない、今は6番か。名前はない。

 お前今、水を生んだよな? 力を貸して欲しいことがある」


「あらぁ? アナタ様はもしかして、コレが欲しいんでゴザイマスの? ──コレがよぉっ!!!」


 女性が足を高くあげ振り下ろすと、足元から水が間欠泉のように吹き上がり、無の世界に雨が降る。

 バケツの水をひっくり返したようなスコールだ。

 オレは降りしきる雨水を両手に集めて美唯子の口に注ぎ込む。

 

「ペル様、ありが……とう……」

「ああ、良かったな。これでもう大丈夫だ」

 

「オイ、テメーら! 何イチャツイテやがんだ!

 アタイを無視すんな、剃るぞ、でございますわよ」


 どこから取り出したのか、水のエニグマはフリルのついた黒色の傘をさしてオレ達を眺めていた。

 口調がコロコロと変わっている。完全に情緒不安定だ。


「本当にありがとう。キミは何番だ? お礼がしたいんだ」


 女性はフンと鼻を鳴らす。

 

「ワタクシは12番。瑠璃園水(ルリゾノミズ)。親しみを込めてルリスィーと呼ぶがいいですわ」


 先程までの荒々しさは消え去り、今度は一転してスましている。

新雪のように白い美肌、立ち居振る舞いもどこか品があり、大人しくしていればその洗練された美しさで人を魅了できそうなものなのに、時折見せる粗野な一面が台無しにしている。


「じゃあ、水? 色々ありがとう。助かったよ」


「待てよ。何勝手に締めようとしてんだ。

 今度はアタイの番だよな? 15番を返せや」


 15番とはオレに雷の能力を託したエニグマ、ジェイド。

 素零の零の螺旋によって既に殺害されている。


「それは無理だ、15番は死んだ。どういう関係なんだ?」


「あ? どうって一方的に追い回して、イジメテ、下僕にしていたが? あれはアタイのもんなんだよ。返せや」


「だから死んだと言っているだろ。キミは綺麗なんだから新しい恋人を探しなよ。それと下僕とかはやめた方がいいと思うけどな」


 水はイラついた表情で距離を詰め、互いの息がかかる程にまで接近してくる。


「はい、お前、ムカつく! 愛は人それぞれなんだよ。 

 初対面で偉そうにお説教か? キッモ! 痛すぎんだろ。

 今からお前を剃刀の刑に処す、でございますですことよ?」


 12番は殺意のこもった視線をオレへと向ける。

 直感でわかる。この(エニグマ)は強い。

 美唯子を助けてくれた恩もある。出来る事なら戦闘は避けたい。


「オラ、こいよ。テメェの中から15番を取り返す、デスってな」


 どうやら戦う(ヤル)しかないらしい。


最後まで読んでいただきありがとうございました。

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