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人形使い。極致模倣。


 無の空間に閉じ込められてから、何日経過しただろうか。

 幸いにも怪物の肉を焼いたら美味だったので飢えることはない。

 問題なのは脱出方法だ。

 エニグマ専用転移空間、暗黒の運河は発動不可能。

 能力者本人である美唯子にも解除できない力らしい。

 1番に答えを聞きたいところではあるが、()()()をねだられるので尻込みしているのが実情である。


「ミコはさ、サラについてはどう思ってるんだ」


 零の螺旋強化練習の合間に美唯子と雑談する。

 仕組まれた事だとしてもオレがサラの想いに応えたのは事実だ。鉄仮面は全て手に入れろなんて言っていたが、オレとしては複数人の女性と関係を持つのはやはり抵抗があった。


「あー。私はノーカンだと思ってますねー。

 ライバルの女性について悪く言いたくないんですけどぉ……」


 浮かない顔で美唯子が答える。


「ノーカンて、仕組まれていた事と何か関係があるのか?」


()()()()()()()()()()()()ね」


「────ッ! 頭が、既視感だ……」


 言われた瞬間、視界が霞む。

 こめかみに強烈な痛みが走り、目眩がして倒れそうになる。


「今ので理解できました? あの時ペル様が相手にしていたサラさんは偽物です。簡単に言えば暗示催眠? 特定の言葉を聞かせることでペル様を支配していたんです」


「支配って、なんでそんなことを……」


「えっと、ペル様とサラさんを恋人にする必要があるから?」


 顔面に一撃をもらったかのような衝撃を受ける。

 仕組まれた事だと聞かされて覚悟はしていたが、実際口にして言われるとかなりキツイ。


「そうか。思っていたより大分、しんどいな……」

 ミコはオレに何もしてないよな?」


 美唯子を疑っているわけではない。

 だが今までの経緯から用心深くなっているのは事実だった。


「私、ペル様に酷い事なんてしません。

 再会したとき、私はペル様の勝利を予言しましたよね?

 なぜだか理由がわかりますか?」


 美唯子は三角座りをしながら虚空を見つめている。

 確かにあの時、美唯子は自身の敗北を予言していた。

 冷静に考えれば特異な能力を複数持つ美唯子に圧勝できるとは思えない。上手く立ち回ったとしとも互角と考えるのが妥当だ。


「わからない。たまたま運が良かったとか?」


「私、ペル様と戦うつもりなんてありませんでしたから。

 ペル様になら、殺されてもいいかなって思ったんです」


 美唯子は優しい口調で言い、憂いを帯びた笑顔を見せた。

 不意に美唯子を抱きしめたくなるような衝動に駆られる。

 少しでもそばにいたくなり、オレは美唯子の隣に座る。


「……じゃあさ、今のサラは誰なんだよ」


「自分を29番(サラ)だと思い込んでいる人形、ですね」


「酷すぎる……。一体誰が何のためにそんなことを……」


「犯人はわかっています。名前は人形使い極致模倣(アリンガルト)

 逆説王()や道化師と一緒に10番に雇われている女性です。

 自身が化けることも出来るし、人形を操ることもできます。

 ペル様の前には偽物のアレスティラとして現れませんでした?」


 瞬時にサラを口汚く罵っていたアレスティラの姿が浮かぶ。


「ああ、わかったよ。あの口の悪い女か。

 人の姿を真似て世界を荒らし回っているんだな。酷いやつだ。

 だとしたら本物のサラはどうなったんだ」


「10番に飼われています。そばにいるのを確認しましたから」


「じゃあサラはオレや紫苑を覚えていない?

 今までの全てが嘘偽りになるのか」


「極致模倣の作った人形は素体(オリジナル)に忠実です。

 ペル様と一緒にいたら取るであろう行動と同じ動きをします。

 多少の誘導や強制行為で運命を早めたということです」


 つまりサラは偽物だったが、本来辿り着く結果とは同じだったということだろう。気持ちの整理がつかず複雑な心境になる。

 美唯子はオレを気遣ってくれたのか身体を寄せて来る。


「でもペル様、私と付き合うことを決断してくれたのは、人間としてのペル様の純粋な想いですよ? だから私の一人勝ち! なんて……ごめんなさい」


「つまりオレが今正式に付き合ってるのはミコだけってことか。

 浮気にならなくて良かったよ」


 オレが冗談っぽく返すと美唯子も微笑む。


「ペル様、私達、ほんとに結婚しちゃいますかぁ?」

「オレはやめといた方がいい。子持ちだし」

「それって、本当にペル様のお子さんなんですかー?」

「わからない。身に覚えは全くないからさ」

「いっそのこと調べてみます? それでハッキリしますよね」


 1番に真相を尋ねる。本来ならそれが手っ取り早いだろう。

 真実がわかっても素零や零奈への想いは変わない。

 

「ああ、でもさ」


「もしかして、ご褒美のこと気にしてますー?」


 図星だった。正直、今も我慢している。

 歯止めが効かなくなりそうで怖い。


「少しな。どこまで我慢できるかわからないし」


「赤ちゃんが欲しいと言ったのは半分本気で半分冗談ですー。

 確かに嫉妬して言いましたけど、ハジメテなので、少し怖いんですよねー。ペル様が優しいので出来る愛情表現? ですよ!」


「そうか……。だよな」


「あれ? 少し残念がってます?

 ペル様が欲しいと思ってくれるなら、私、頑張りますけどー?」


 美唯子は言いながら手を握ってくる。

 悟られるのではないかと思う程に心臓が大きく鼓動する。

 オレは美唯子の柔らかい手を握り返した。


「──あ、ペル……様?」


 美唯子の口から熱い吐息が漏れる。

 良からぬ感情をグッと堪える。

 一体どうしてオレは我慢しているのだろうか。

 この世界にはオレと美唯子しか存在しないのに


「……とりあえず、素零と零奈について調べてみようか」


「あ、え? はっ、はーい! 1番さん、1番さん! ペル様のお子さんについて教えてくださーい!」


 美唯子が1stコンタクトを発動する。

 これで全てが明確になるだろう。


「うーん? なんて複雑……」


「どうだった?」


「えぇと、結論から言うと、ペル様のお子さんではありません。

 ただ、ペル様の血は流れているみたいです?」


「待て、よくわからないんだが」


 まるで謎々だ。

 オレの血が流れているなら子供になるのではないのだろうか。


「ですよねぇ。私もイマイチよく……これも何かの陰謀?」


 美唯子は眉を寄せている。本当にわかっていないらしい。


「とりあえずは1番を信じるしかないよな」

「そっかぁ、でもこれで嫉妬出来なくなっちゃいましたぁ……」


 嬉しくもあり、悲しくもあった。

 素零と零奈には特別な感情を抱いていたから。

 

最後まで読んでいただきありがとうございました。

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