美唯子はオレとイチャイチャしたい。一瞬で終わった犯人探し。
鉄仮面は世界を支配しようとしいるのは複数人だと言っていた。
当然、調停者のレオナルドも噛んでいると思われるが、既に素零によって殺害されている。死者は蘇らないという世界のルールと矛盾してしまう。
ならば10番街でオレとサラを利用していた犯人から探すのが合理的だろう。
「ペル様〜? イチャイチャしませんかー!」
寝起きの美唯子がポニーテールを結いながら話しかけてくる。
元から愛情深い少女だとは思っていたが、交際するようになってから愛情が七割り増しとなった。
四六時中ベタベタされるのは悪い気はしないが、世界について考える時間も欲しい。
「今忙しいんだ。10番街の黒幕について考えているから」
「じゃあ、犯人がわかったら、ご褒美くれます?」
美唯子は意味深な台詞をオレの耳元で囁く。
「あぁ、いいぞ。本当にわかるならな……」
オレが今までの情報を駆使して数時間かけて考えてもわからない答えを、いくら頭の良い美唯子でも簡単には解けないと踏んで軽く返したのがいけなかった。
「1番さん、1番さん! 10番街の黒幕は誰ですか〜?」
美唯子はためらないもなしに1stコンタクトを発動する。全ての答えが一瞬でわかる反則技能力。
そこまでしてオレとイチャイチャしたいとは思ってもいなかった。
「わかりました! 犯人は初代10番です! 10番さんに能力を渡して世界から消えたエニグマですよー!!」
あまりにもアッサリと、今まで考えても考えても、わからなかった答えを美唯子は一分もかからずに解決してしまった。
間違いなくバランスブレイカーである。
今頃世界の黒幕達はブルブルと震えているに違いない。
「ペル様!」
美唯子がオレのそばまで駆け寄ってくる。
目的はわかっている。ご褒美をください。ということだろう。
「あの、ありがとう。何をすればいいのかな?」
出来るだけ軽めの、最初はハグ程度のモノを願いたい。
鉄仮面も女性にスキンシップは必須だと言っていた。
多少の覚悟なら出来ている。問題は美唯子の要求レベルだ。
「えっと、やっぱり赤ちゃんが欲しいな〜って……」
最初から最高潮ですか。そうですか。
「いや、待てミコ。いきなりそれは……経験とかあるのか?」
「いいえ! 私はペル様一筋ですから、男性とのお付き合いもこれが初めてです!」
意外な事実が判明した。男性とフランクに会話できる完全なる陽キャタイプの美唯子が交際経験もないとは思いもしなかった。
だとしたら、余計に慎重に対応するべきではないだろうか。
「いや、だったらまずはデートとかさ、順番があるだろ?」
「えー? だってこの世界って、何もありませんよー?」
仰る通り、無の空間にはオレ達以外に何も存在しない。
出来るとしても精々、歩き回るくらいだ。
「ペル様ぁ? 私のこと、嫌いですかぁ?」
甘い声で美唯子が誘う。
復活したばかりの心臓が破裂しそうになる。
頭が沸騰しているかと思うほどに思考回路が参っている。
体が人間として久方ぶりに機能しているせいか、些細な感情の機微に過敏に反応してしまう。
「とりあえず、は、ハグくらいからで、いい……ですか?」
言った途端に美唯子が身体ごと飛び込んでくる。
「ペル様……すき……」
オレの胸の中で美唯子は満面の笑みを咲かせていた。
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