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魂を賭けた頭脳戦。願いの王・坂本願満を倒せ。


 晴れ渡る快晴の空の下。

 神の居城前で(オレ)はのんびりと空を眺めていた。


「あっ! 神様、大変なんです!」


 一人の青年が血相を変えて(オレ)のもとへと駆けてくる。


「やぁ、こんにちは。今日は空が晴れ渡っていて実に清々しい気分になる素敵な休日だね」


「そ、そうですね。はっ、良かった、神様が紳士的な人で。

 そ、そんなことより、大変なんです。神様の助けが必要で」


 青年は余程必死に駆けてきたのか、呼吸が荒く、シャツは汗でグッショリと濡れている。

 

「あー。オレは本来のオレじゃないけどいいのかな?

 サラとくっついたのは祝福するけど、仲が良すぎるな。

 大切な民を放置してデートなんて……もっと自覚を持てよ」


「え? 何の話ですか? 神様は神様でしょう?」


 青年はオレの言葉を聞いて怪訝な顔を見せた。


「いやいや、つい愚痴が……まぁいいか。

 家族水入らずの時間を邪魔したくないし、ここは一つ、オレよりも優秀な(オレ)が人肌脱ぎましょうかね」


「はい? とりあえず、よろしくお願いします」


「それで? どんな困り事かな?」


「はい……それが、願いの王を名乗る真人類という輩が現れて、人々に勝負を仕掛けて魂を食べてしまうんです」


 真人類。新人類から進化したレオナルドの配下である改造人間だ。身体能力が高いのは勿論、個々に特異なスキルを持ち、特殊な感性や知性を持ち合わせているため対処が非常に難しい。

 最もそれは人間レベルで見た話である。

 神であるオレにしてみれば真人類の処理など赤子の手を捻るに等しい。


「へぇ。面白そうだね。とりあえず現場に向かおうか。キミ、名前は?」


「ハイ! ナクラシリオンです」


 オレはナクラシリオンの手を取り暗黒の運河へと飛び込んだ。


 ◇ ◇ ◇ ◇


 転移した先は見晴らしのいい小高い丘の上。

 春風が吹き抜け、優しい陽光が大地を明るく照らす。

 草花は活力を持ち、動物が跳ね回り、春の息吹を体全体で感じ取る。


「ああ。春は素晴らしい季節だ。世界は美しい」

 

「あの、神様! 例の真人類がきますよ。確か名前は坂本願満(サカモトガンマ)です」


 青年の言葉通りに真人類が現れた。

 背丈は並だが軍服を見に纏っているので威圧感はある。

 

「やぁ! キミが噂の魂喰らいだね。楽しい勝負にしよう」


「……お前が何者か知らないが、俺は負けない。

 今、この瞬間、俺の勝利が確定した……ん?」


「残念ながらキミの負けだね。()()()()()()()


 オレの言葉に坂本願満は憤慨の表情を浮かべる。


「最初は誰もがそう言うんだ。そして、最後の最後に後悔する。

 それで、俺と勝負するんだな?」


「ああ。そう言ったよね? キミは負けるよ」


「言ってろよ。神様だろうが容赦しないぜ。

 俺の能力は『全ての者に幸福を(ハピネスウィッシュ)』だ。

 初めてこの力を手に入れたとき、とんだハズレクジを掴まされたもんだと嘆いたさ。なにせ、他人の願いを叶える力だからな。

 だが違った。俺は気が付いたんだ、この能力は最強だ」


 坂本願満は得意気に自分の能力について語り始める。

 本来ならば真剣勝負の場で己の手の内を晒すことは自殺行為だ。

百害あって一利なしなのだが、自称だとしても最強を名乗るからには余程自分の能力に自信があるのだろう。


「御託はいいよ。勝負を始めよう」


「チッ、偉そうに。今からルールを説明する。

 俺はお前の願いを3つ叶えてやる。

 多少の無理難題なら叶えられるが、例外もある。

 願いの増減は不可。俺を倒す、消すという願いも不可。

 勝負が始まったら三つの願いを叶えるまでは終わらない。

 そして三つの願いが叶った時、俺はお前の魂をいただく」


 シンプルで分かりやすい能力だ。

 しかも相手の攻撃を受けつないのなら願満にはデメリットがないというのも面白い。全ての者に幸福とはうまく言ったものである。


「最後の制約が厄介なんですよ。願いを叶え終えると強さに関係なく奴に喰われてしまう。身体の中に吸収されて終わりです」


 ナクラシリオンが願満の能力について丁寧に補足説明をする。


「他者の魂の解放を願ったら? まぁ大体の察しはつくけどね」


「はい。それがよく出来ていて、解放の願いは叶えます。ですが三つ目の願いを叶えて魂を取られる際に解放した魂も()()()で奴が回収します。

 つまり、奴が()()()()、敗北必至の出来レースなんです」


「ふーん。まぁ、勝負は大抵、親が勝つようになっているからね」


 つまり、神としては願満に食べられた魂を解放させるのは必須なのだから、実質的に二つの願いで願満を倒す必要があるのだ。


「始めるぞ? 『全ての者に幸福を(ハピネスウィッシュ)』さぁ、最初の願いを言え」


 願満が能力を発動し、魂を賭けた頭脳戦が始まった。


「よし、始めようか。

 ではまず、キミは世界のルールについて把握しているかな?

 簡単なことだよ。死んだ者は生き返らないとかいうあれさ」


「それは俺が世界のルールを知っているかどうかを知りたい、という願いだな?」


「ああ。そうさ」


「ならば答えよう。それくらいは()()()()()

 一つ目の願いは叶えてやったぞ。

 さぁ、二つ目の願いを言うがいい」


 願満が一つ目の願いを叶える。

 二つ目の願いは決まっている。


「二つ目だ。今まで喰ってきた者達の魂を解放してくれ」


「承知した」


 願満の身体から魂が放出される。

 魂は体外にでると人としての姿を取り戻す。


「おぉ……日の光だ! 出れた! 助かったぞー!」

「いや、ダメだろう。どうせまたすぐに腹の中さ」

「私が馬鹿だったぁぁ……許してくれぇぇぇ……」


 歓喜、嘆き、人々は多様な反応を示している。

 驚いたのはその数だ。願満の身体から出てきた魂は百や二百ではすまない。数千、数万規模の人民が己の欲望の渦に飲まれたのである。


「これはこれは。欲望は人として当然の業だが、まさかこれほどまでとはね。オレももっと頑張らないとな。神失格だ」


「さぁ、最後の願いを言え。さぁ、はやく、早く願え。

 神の魂を喰えば、正真正銘、俺は最強になれる……」


 願満は(オレ)の魂を喰いたくて仕方がないといった様子だ。舌なめずりをし、涎を垂らし、まるで犬のようであった。


「そう焦るなよ。ちなみにさ、オレが今、零の螺旋を放てばお前は消滅して完全勝利となるんだけど、それは理解してるかな?」


「不可能だ。勝負の最中に俺に攻撃を加えることは出来ない」


「そのルールすら破るのが零の螺旋なんだが、わかってないな。

 まぁ、いいさ。今回は実力行使は無しにしよう。

 神に知恵比べを挑んだ愚か者に敬意を表して、お前のルールで最後まで戦おう。相手が悪かったね。勝つのは(オレ)さ」


 零の螺旋(イカサマ)で倒すのはつまらない。

 相手の作ったルールに則って言葉だけで勝負する。


「無駄さ。俺の能力は最強だ。さぁ、最後の願いを言え」


「そうだね。いくつか攻略方はあるが、単純なのにしようか。

 五分前のオレにキミの意気込みを聞かせてやってくれるかな」


「五分前だと? 承知した」


 坂本願満は過去へと飛んだ。

 そして二度と戻ってくることはなかった。


「あれ、戻ってきませんね?」


 ナクラシリオンはキョトンとしている。


「キミ達? もう自由だから家に帰りなさい。

 次からは身を滅ぼすような賭け事はしないようにね」


「すげえ! 神様が倒してくれたんだ!」

「さすが10番街の神! あんた、最高だ!」

「神様ありがとー!!!」


 願満に魂を喰われた人民達は(オレ)に何度も何度も謝罪を繰り返してから帰っていった。


「神様、一体どうなっているんですか?」


「答えを知りたい?」


「はい、是非に!」


「よく思い出してごらん? 実は最初に願満と会った時、すでに勝負はついていたんだ。人間が過去に戻るとどうなると思う?」


「あっ! わかりました! 過去には行けても未来に戻る方法がないから帰ってこれないということですかね?」


「なるほど。それも面白いね。でも不正解だ。

 世界のルール。死んだものは生き返らない。

 これは説明するまでもないね? 

 生命は都合よく生き返ったりはしない。

 だから皆んながこぞって物語の題材に選ぶのさ」


 オレは不正はしていない。

 世界のルールに則って正攻法で願満を倒したのだ。


「そして世界のルール2。これは裏ルールであまり知られていない。人々が知る術もないからね。

 人は時間を超越できない。エニグマだけの特権なのさ。

 それは何故か。時間移動の度に世界の崩壊が起きてしまう。

 小難しい話になるから説明は省くけど、それを防ぐために5番(アレスティラ)という存在がいる。

 5番(アレスティラ)は宇宙の時間軸と空間全てを管理していて、時の些細な揺らぎすら見逃さない。

 それでは願満はどうなったのか?」


 世界にはルールがある。

 罪を犯せば捕まる。人は幸せになる権利がある。


「正解は五分前の世界で5番(アレスティラ)に処分された。

 本来なら記憶を消されて元の世界に戻されるだけだ。

 特別な例外もあるが、基本的には全てなかった事にされる。

 しかし、今5番(アレスティラ)は機嫌が悪い。

 願満は五分前の世界から過去と未来分の精神を分断、隔離され、別のモノへと()()した。このルールを悪用すればカナリ面白い事も出来るのだけど、キミには不要な話だよね?」


 細かなルールの積み重ねが世界を律し、邪悪を祓い、人々を活かす力となる。


「ええ、はい。聞いてるだけで恐ろしいです」


「そうそう。それでいいんだ。

 人間は必要以上の力を手に入れると必ず不幸になる」


「神様、ありがとうございました。

 貴方がいるかぎり、10番街は安泰ですね」


「また何かあれば気軽に呼んでよ。

 キミのそばにはいつでも(オレ)がいるのだからね」


 ──人がいるから神もいる。

最後まで読んでいただきありがとうございました。

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