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恋慕告白。オレとサラ。

前半はいつも通りですが、後半は甘くなるので苦手な方はご注意下さい。


 ──星の中枢、玉座の間。

 

 10番街の神であるオレは玉座に腰掛け物思いに耽っている。

 玉座の間に音はなく、恐ろしくなるほどにシンと静かだ。

 精悍な顔付きの親衛隊や近衛兵が立ち並んでいるわけでもく、オレの隣には従者のサラが付き従うのみで他に人気はない。

 

「紫苑はどうしているかな」


「庭で毛玉と一緒に遊んでいます」

 

 毛玉とは謎の生命体ミーミョンのことである。

 サラは城に居着くようになったミーミョンに冷たかった。


「明日さ、三人で一緒に街まで出掛けないか?」


「え? いきなり街に出ても平気でしょうか。

 あの子の力が街中で発動したら、甚大な被害が出ます」


 オレの提案にサラは困ったような表情で答える。


「その時はオレがなんとかするよ。

 紫苑を普通に人として生活できるようにしてやりたい」


「貴方がそこまで言うのなら、私に異論はありません」


「じゃあ、決定だな。サラもたまには休息が必要だろうし」


「私は貴方に仕えることが幸せですので、──何者か来ます」


 サラの言葉から数秒後、扉が荒々しく開かれた。

 扉を開き、玉座へと続く道を悠々と歩いてくるのは若い男性の二人組。サラは警戒しているのか、右手に朱色の波動を集めている。


「大丈夫だよ。一人は以前に話した友達のレッドだ。もう一人は記憶にないけどな」


 オレが言うとサラは警戒を解いた。


「神様、突然すまないな。実は頼まれていたレオナルドという男の調査に進展があったから報告しに来たんだ」


「ああ、ありがとう。そっちのツレは誰なんだ?」


 オレが聞くとレッドは長髪の男を指差しながら言う。


「こいつはブルー。漣海里(サザナミカイリ)だ」


「ドモ! 以前レッドと合体して戦っていた神様ですよね?

 いやぁ、さすが神様だわ、やたら強くて、男でも惚れますよ」


 ブルーが軽い口調で挨拶をする。


「レッド、オレの従者のサラだ」


「ああ。噂通り、綺麗な人だな。凛としていて、それでいて可愛らしさもある」


「──ォォア!!」


 オレがサラを紹介した途端にブルーが奇声をあげて、玉座の間からオレとレッドを連れ出した。


「神様。こっ、恋、などをしたことがあるだろうか」


 玉座の間を出た先の廊下で、ブルーが鼻息荒くオレに尋ねる。


「なんだ急に」


「ある女性を一目見た瞬間に頭の中が真っ白になって、その人の事しか考えられなくなり、まるで自分が自分でなくなるような。

 とにかく、そんな人と会った経験はありますかね?」


「はぁ? ……まぁ、ないことはない」


「それは、もしかしてサラ……さん?」


「イヤ。その感覚はアレス……待てよ。お前に言う必要はない」


「アレ? ああ! 良かった! 違うんですね!

 サラさんとは何ともないんですよね? 恋愛的な意味で!

 真剣に答えてください。俺もマジで聞いてるんで!」


 ブルーが興奮している様子をレッドは冷ややかな目で見ている。


「愛情って。まぁ、ずっと一緒にいて信頼してるし、大切だよ。常にオレのことを考えて支えてくれるから、感謝している」


 オレの話を聞いたブルーをウンウンと首を振りながら頷く。


「そっか。つまりは恋愛関係ではないんですね? よしっ!

 神様、俺はサラさんに恋しました! これはマジです」


「はぁ?」


「おい、いい加減にしろよ。神様が困ってるだろ」


 呆れた顔をしているオレを見かねてレッドが口出しすると、ブルーはレッドの首を右手で抑え込みながら前に出る。


「ポンコツリーダーは黙っていろ。

 神様、出来れば協力してくれないだろうか」


「なんかコイツ、めんどくさいな? ……ムカつくし」


「すまない。チャラいタイプだから相性が悪くて俺も避けていたんだが、今回はどうしても付いてくると聞かなくて」


「神様、サラさんについて色々と教えてくれないだろうか。

 あのクールな眼差しに一目でやられてしまったよ」


「クール? 昔は明るくて元気いっぱいで今よりもっと可愛かったけどな。というか、好きなら好きとハッキリ言えよ。女々しいな」


「こっ、告白……か。よし、やるよ。絶対に物にする!」


「モノって……言い方を考えろよ。サラはオレの……」


 玉座の間。

 突然飛び出していった三人が戻ってくると、サラはレッドとブルーを訝しむような目で見ていた。


「サラさん。俺は君に恋してしまった。

 正義のヒーローではなく、一人の男として言いたい。

 君が好きだ。結婚を前提に交際していただきたい」


 サラの前でこうべを垂れて右手を差し出すブルー。

 端的だが気持ちはしっかりと伝わる告白であった。


「お断りします。私は貴方のようなタイプの男性は嫌いです。

 用事が済んだのならお引き取りを。さようなら」


 サラはピシャリと言いきる。告白は二秒で終了した。

 レッドは鼻で笑い、ブルーはわなわなと震え出す。


「なに? 少しばかり見た目がいいからって調子に乗るなよ」


「おい、神様の前だぞ。わきまえろよ」


「黙っていろオタク! そんなんだからお前は彼女の一人もできないんだ! 女はな、多少苦手なくらいの男のほうが……」


 レッドを突き飛ばしたブルーの目の前に瞬間的にオレが飛ぶ。


「聞いたろ? さよならだってさ。

 それと、レッドはオレの友人だ。二度と貶すんじゃないぞ」


 オレの拳がブルーのボディに突き刺さる。

 続けて前に崩れたブルーの顔面を勢いよく蹴り飛ばすと、ブルーは仰け反ったまま宙を舞い壁に衝突、壁を突き破って飛んでいった。


「すまないな。我慢出来なかった。レッド、謝るよ」


「いや、スッキリしたよ。ナイスキック! さすが神様だな!」


 レッドはオレにサムズアップを見せて満足そうに微笑んだ。


 ◇ ◇ ◇ ◇


「サラ、ごめんな」


 レッドが去った後の玉座の間。

 終始無言のサラにオレは謝罪する。


「どうして貴方が謝るのですか」


「いや、サラがそこまでヒーローが嫌いだとは思ってなくてさ。

 ほら、昔、()()あっただろ?」


 オレはサラがヒーローを嫌いな理由が、かつて慕っていた17番を思い出してしまうからだと考えていた。


「……もしかして、17番の事を言っているのですか?

 だとしたら見当違いです。私は彼を兄のように慕っていただけで、彼も私を妹のように扱い接していましたから。ヒーローとは何の関係もありません」


 サラの声は氷のように冷たい。

 ご機嫌斜めというよりは、完全にご立腹の様子だった。


「わかったから怒らないでくれ」


「別に怒っていませんよ?」


「いや、怒ってるだろ。いつも一緒なんだからわかるって」


 サラはしばらく沈黙した後に小さく嘆息する。


「私が怒っている理由がわからないのですか?」


「……オレが城の壁を壊したからとか?」


「違います! もう……バカ! なんで、どうでもいい時は機転が利くのに、こういう時に限って無能なの? 信じられない!」


 サラの機嫌は悪くなる一方である。

 普段が温厚なだけにサラの激昂は恐ろしく、その分余計に迫力が増し、オレは萎縮するしかない。


「あの……サラさん?」


「貴方が信じられないほどに鈍感なのでハッキリといいます。

 私、好きな人がいるんです。好きな人以外に好意を寄せられても鬱陶しいだけです。どうしてそんな事がわからないの?」


「誰だよ、その好きな奴って」


「それは……えと、あの……。言えない、ですけど……」


 突然サラが言い淀み、オレから視線を逸らす。


「オレにも内緒なのかよ。複雑な事情でもあるのか?」


「私の、私の好きな人の心の中には、多分、ずっと大切に想っている人がいて、その女性には私なんて絶対に勝てない……。

 容姿でも、強さでも、全てにおいて格が違う……から」


「だから想いを伝えられない? そんなのは苦しいだけだろう」


「わかっています。それでもいいんです。

 想いを伝えたら、何もかも壊れてしまうかもしれない。

 それだけは、絶対にイヤなの……」


「もしかして、明るかったサラが冷たくなったと感じたのは、自分の心を抑えているからなのか? だとしたらオレは悲しいな。

 前にも言ったけど、オレはサラの笑顔が好きだ」


「……やめてくださいッ」


 サラがオレの発言を否定するように声を張る。


「どうして? 好きな女性がいる男なんだろ?

 そんな奴のことは忘れて、我慢しないで生きればいい」


「それは、無理です。毎日そばにいて、わかっていても意識してしまう。気づけば目が勝手に追ってしまう。私は完全に心を奪われてしまったの。忘れるなんて、できない……から」


「毎日って、サラはいつもオレと一緒に……え、……」


「……さすがに気づいてしまいますよね。

 私、貴方を心から愛しています。貴方の事しか考えられない。

 貴方はアレスティラが好きなのに……私……バカみたい……」


 サラの双眸から溢れた涙が、頬を伝って床へと落ちる。

 顔を伏せ、玉座の間を出て行こうとしたサラの手を取り、手繰り寄せるようにして向かい合う。


「サラ、逃げるな。話し合おう。()()()()なんだ」


「……最初から、ずっと……」


 サラが控えめに言うとオレの顔が紅潮する。

 玉座の間は時が止まったかのような静寂に包まれる。

 オレとサラは見つめ合ったまま動かない。

 しばらくすると、遠くから小さな足音と羽音が近づいてくるのがわかった。


「サラー? 泣いてるの? なぜ? いたいの?」


 玉座の間に入ってきた紫苑がサラの顔を不思議そうな顔で眺めながら尋ねる。


「ミョ? 大人な雰囲気ミョ。子供は見ちゃダメミョ!」


 ミーミョンが紫苑の顔を小さな手で塞ごうとするも、紫苑はスルリと躱してオレの前までやってくる。


「オレー。サラをいじめちゃ、メッ!」


「ああ。わかった。ミーミョンと遊んでおいで」


「はーい!」


 紫苑は元気よく手をあげて、ミーミョンと一緒に玉座の間を出て行った。


「私、どうしたら。もうここにはいられません……」


 サラが嘆くように呟く。


「どうして?」


「だって、貴方はアレスティラのことが……」


「オレはサラがいてくれないと何もできない。

 これからもずっとそばにいてくれ。頼む」


「え? それは……はい……。あの、本当に?」


 潤んだ瞳でサラが言い、オレの顔をジッと見つめる。


「少し待ってくれ。これだけ正面切って愛してるなんて言われたのは初めてで、さすがに恥ずかしい」


「ごめんなさい。私のせいですよね」


「いや、違うって。とりあえず、どうしようか」


「どうって……へっ!?」


「オレも中途半端はイヤだから。サラの気持ちから逃げたくないんだ。あの……もしオレで良かったらさ」


「わっ! わわっ! 待って、待ってください!」


 サラが両腕をバタつかせてオレの言葉を遮る。


「え?」


「アレスティラに会えないから私で妥協とかはイヤです。

 どうして、私なんですか。貴方の本心を聞かせて?」


 オレは目を閉じ、サラに対する想いを集める。


「ブルーがキミに告白すると言った時、心が痛かった。

 サラが4番と7番に連れていかれそうになった時、本気で手放したくないと思った。そんなのは理由にならないかな?

 オレだって誰でもいいわけじゃないんだ。だからさ……」


「あぅ……やっぱり、ちょっと待ってください!」


「よく考えたらオレじゃなかった?」


「いえ、そんな……。貴方より素敵な男性なんて存在しません。ただ、私なんかが幸せになっていいのかな……なんて、考えたり……従者ですし、アレスティラみたいに可愛くないから」


「……やっぱりサラは明るい方が可愛いよ」


 オレはサラの腰を抱き、華奢な身体を抱き上げる。


「ひゃうっ! こっ、コラー! やめてください!」


「ハハ。それだよ、ずっとそれが聞きたかった」


「……オレさん!」


「ん?」


「ちゃんと私の目を見て? ──だいすき」

最後まで読んでいただきありがとうございました。

次回、アレスティラ登場。

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