一触即発。エニグマ会議。
──10番街、星の中枢。
玉座に座る10番を中心にして、その周囲にズラリとエニグマが立ち並ぶ。
「それにしても突然だな。戦争でも始めるつもりか」
足を組み、肘掛けに頬杖をついたまま10番が呟く。
褒められた態度ではないが、それでも話に応じているのは、予告もなしに突然玉座まで乗り込んできた無礼者達に対する精一杯の誠意ではあった。
「そのつもりはありません。
あくまでも平和的に、話し合いをするために来たのです」
現時点で行方知れずの1番を除いたエニグマの最上位に位置する4番、四条花撫。地球消滅という切迫した状態で素零を赦した懐の広さを持ち、戦況を瞬時に冷静に見極めることができる聡明な女性。
「ケケ! しばらく見ない間に随分と貫禄が出たもんだな!」
7番の七欟梨華。素零曰く脳筋パワータイプ。
宇宙全体に存在する暗黒物質を半日で処理できると豪語していただけに実力は確かだろう。
「話し合いとは? オレとしては語るべきことは何もない」
その言葉に居並ぶ下位層のエニグマ達が不快の念を示す。
舌打ち、ざわめき、そんなものは可愛いもので、次第に怒号や罵声が飛び交うまでとなった。
「調子に乗るなよ! 半人間が!」
「お前も6番と同類だろうが! 同胞殺しめ!」
室内はまさに一触即発。
「はぁ……。やっぱりケンカしに来たのかよ。ついてないな」
オレは自身の状況を憂いている。
そして不運というのは重なるものである。
これ以上はないであろう最悪の場面でソレは現れた。
「ヤッホー! 遊びに……ウワ! 最悪のタイミングだった!」
暗黒の運河を通ってきた素零が室内を見回してゲンナリとしている。4番と7番は眉を顰め、先程まで殺伐とした空気に包まれていた場は一転して水を打ったように静まり返る。
不死身のエニグマを殺すことができる素零の登場に、力を持たない下位層の者達が戦々恐々としているのだ。
「……ふぅ。場が混迷を極めてしまいましたね。
本来なら貴方と宇宙の今後について語り合いたかったのですが、今回は要件だけを述べて撤退することにします」
4番はやんわりと言って7番に目配せをする。
「ケ! 喜べ10番! お前は6番に昇格だ!
都合の良いことに元6番がいるな。素零、お前は除名だ。もう同胞でもなんでもない。次に会った時は敵同士だ」
「んふふ! あっそ! 最初からお前等、雑魚とつるんでるつもりもなかったよ。次に会ったら一瞬で殺してやるよ! ばーか!!」
素零の挑発にまたしても場が荒れる。
「騒々しいですよ。静まりなさい」
4番が静かに叱責すると、玉座に再び静寂が訪れる。
「ケケケ! 盛り上がって参りましたってね!
話を続ける。えぇと29番! お前はどういうわけか、11番の力を引き継いだな? お前のような下位層の者が力を継承するなんて前代未聞だからな。話を聞きたい。付いてきてもらうぞ!」
7番に命じられたサラが恭しく頭を下げて一歩踏み出す。
「……待てよ」
歩き出したサラの腕を取り、オレが声を上げると、4番と7番が疑念の表情を浮かべる。
「サラはオレの従者だ。誰にも渡さないし、連れて行かせない。
アンタ等、無断で乗り込んできて、好き勝手やっているが、10番街はオレの星だぞ。なんならオレも敵になってやろうか?」
この状況で賢明な4番が「はい、わかりました」などと言うはずもない。急速に力を伸ばし、除名する素零が使える零の螺旋を同じく使用できるオレを、エニグマ側としても戦力として確保しておきたいというのが今回の話し合いの本質であろう。
オレを手放し、争うことになるのは本意ではないのだ。
だとしたら答えは決まっている。
「──数々の無礼、申し訳ありませんでした。
6番さん。私達は貴方を正式に仲間として迎え入れる所存です。これからも宇宙の平和のために手を取り合って協力致しましょう」
「ケ? 29番の事はいいのかよ!」
「いいのです。帰りますよ、7番。貴女も非礼を詫びるのです」
「ケー? なんか、ごめんな。お前の事、結構気に入ってるぜ!」
4番と7番はオレに頭を下げると、空間を引き裂き、暗黒の運河へと飛び込んでいった。
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