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戦隊ヒーローのリーダーをしているのですが弱すぎてメンバーから外されました。オレとお前で究極変身・完全無欠の同調合体。

種族的に10番街は何でもありです。故に混沌としています。


 スカーレット王国から帰還してから一週間程が経過した。


 遥か遠方まで続く青空の下。

 神の居城を出たオレはノビを一つし、欠伸を漏らす。


「平和だ。実に平和だ」


 オレは噛み締めるようにして言う。

 実際には10番街はまだ平和とは言い難い。

 あちこちで紛争が起きており、問題は山積みなのだ。

 オレは心の安寧について語っているのだろう。

 事あるごとに騒動が起こり、策謀に巻き込まれ、嵐のような日々を過ごしていたオレに取って、およそ一週間、日がな一日、何も考えずダラダラと過ごせたことは英気を養うには十分だったのであろう。


「そろそろ行動しないとな。神様ってのも楽じゃない──ゲ!」


 サラが設置した目安箱、神様お願いポストには10番街住民から寄せられた不平不満で溢れていた。

 オレが中身を取り出そうとポスト背面の鍵を解錠した途端、ハガキの波に身体ごと飲み込まれてしまう。

 投書の数はざっとの概算でも数万枚はあるだろうか。


「これをオレ一人で解決しろってのか! 神様助けてくれ!」


 ドン!

 オレが意気消沈していると背後から衝撃を受け、つんのめる。


「おっと、ごめんね! 急いでいたんだ!」


 神の居城から猪のような勢いで飛び出してきた女勇者のクラリスがオレに謝罪する。


「良かった! クラリス、協力してくれ!

 なんだよ、随分とめかしこんでるけど、外出するのか」


「あっ! わかる? 女の子として街を普通に歩けるのが嬉しくてさ! 今日も今からショッピングにいくのさ! 似合うかな?」


 クラリスはフリフリのスカートを見せつけるようにしながら言い、御満悦の様子だ。


「……まるで、お姫様」


 オレの返答にクラリスは満足したのか、ハミングしながらご機嫌で出かけて行った。


「もういい。オレ一人でもやるさ!」


 オレは目についた一枚のハガキを手に取り、エニグマ専用転移空間、暗黒の運河に飛び込んだ。


 ◇ ◇ ◇ ◇


 オレは春風が心地よく吹き抜ける原っぱに男と二人で佇んでいる。

 今回神に依頼を出したのは天川大吾(テンカワダイゴ)(21)。

 10番街で悪と戦う惑星戦隊新星レンジャーのリーダーらしい。


「実は俺、戦隊ヒーローをクビになったんです……」


 神妙な面持ちで青年が言う。

 ライダースジャケットにジーパン姿の何の変哲もない青年。

 青年は見るからに覇気がなく、ヒーローのイメージからはかけ離れている。


「クビって、雑用係とか?」


「いや、主役(レッド)ですけど?」


「いや、レッドをクビにしたらダメだろ!

 一体何をやらかしたんだよ」


「実は……ものすごく、弱いんです。戦績は0勝56敗。

 他の四人が敵を頑張って倒してるけど俺はテンデダメで……」


 オレは頭の中の戦隊ヒーロー像を思い出していた。

 レッドとは基本的にリーダー格で、強く、性格も熱血漢でポジティブ、真面目で頼れる人物が多かったと記憶していた。


「すげーな、毎週子供を泣かせてるのか。

 オレが子供の頃みていたヒーローと全然違う。

 それはクビになるよ。というかなんで努力しないんだよ。

 普通は50敗もする前に何か考えるだろ。

 味方との連携とか、体を鍛え抜くとかさぁ……」


「──るかよ……」


「ん?」


「お前に俺の気持ちがわかってたまるかよ!!

 たまたまなんだよ、変身したらたまたま(レッド)だったんだ。

 それを赤だからリーダーだよね、みたいなノリでリーダーに仕立て上げられて、常に最前に出され、敵は俺を憎み、キザったらしい嫌味キャラに皮肉を浴びせられ、上司からは俺だけ怒られる!

 俺はなぁ、生まれて今までケンカもしなければ、正義感あふれるアツいオトコだったわけでもないんだ!

 学校のクラスでも集団を避け、争いを避け、教室の片隅で気の合う友人とヒッソリカードゲームをしていた完全なる陰キャだったんだよ! お前に俺の何がわかる! 神様と慕われ、大した苦労もなく何もかも完璧なんだろぉ? そんな奴が上から目線で偉そうに語るな。

 下には下がいるんだ、何をやっても、努力しても報われない人間もいるんだよぉ。神様は不公平だ、同じ男なのに俺とアンタで一体何が違うってんだよぉぉッ!」


 蓄積していた鬱憤を吐き出すように、ぶつけるように大吾は叫んだ。目を真っ赤にし、涙まで浮かべている。


「あの……ごめんな。悪気はないんだ。

 そうだよな。イメージだけで勝手な理想像を押し付けられるのもな。……わかった! オレがなんとかしてやるよ」


「神様……ありがとう……」


「大変ミョー! 暗黒宇宙将軍が銀河基地(ギャラクシーベース)に攻めてきたミョ! 他の四人はやられたんだミョ! 助けに行くミョー!」


 大吾がオレの手を取って感謝の言葉を述べていると、空から謎の生物が飛来する。 

 野球の硬式ボール程のサイズで全身がモコモコでフサフサ。

 背中に翼の生えた可愛いのか奇妙なのかよくわからない生命体が危険を知らせている。


「なんだって!? 銀河基地が……。

 でも俺は勝てない……。まだ俺は弱いままだ……。

 だから皆んなも俺を見放した。助けには……いけない」


「何を言っているミョ! 皆んなレッドが大好きミョ!

 今回だっていつも後ろ向きなレッドを立ち直らせるための作戦だったんだミョ。チビッ子も仲間も、レッドが助けにくるのを信じてるミョ! それがわからないなんて、レッドのバカァァァ……」


 謎の生命体は泣きながら飛び去っていった。


「ミーミョン……。俺は……どうすれば……」


 謎の生命体の名前はミーミョンというらしい。


「考えるまでもないだろ。オレが協力してやるよ」


「神様……」


「大切なのは強さじゃない。

 誰かを助けたい、世界から悲しみや不安を一つでも消したいって気持ちが心に少しでもあるのなら、お前は立派な正義の味方だ」


「……ァア! いくぞ、宇宙変身!

 惑星戦隊、新星(ネオギャラクシー)レッド!」


 大吾は変身プロセスを一秒とかからず完了させる。

 洗練された輝く真紅の強化装甲。

 素顔を隠す知的な仮面。光るベルトや装備類。

 一つ一つが男心をガッチリ掴んで離さない要素満載である。


「おぉ。懐かしいなぁ。それに見た目もイカしてる。

 やっぱ戦隊ヒーローって何故か男心をくすぐるんだよな」


「神様、それで、どうしよう」


「オレがキミの体に戦いの基礎を叩きこむ。

 キミは弱いんじゃなくて、方法を知らないだけだ。

 右手を出してくれ。オレとお前で究極の変身をする」


「なんだか怖いけど……仲間のためなら!」


 大吾が恐る恐るオレの右手に自身の右手を合わせる。


「よし、いくぞ。同調(シンクロ)合体!!」


 ◇ ◇ ◇ ◇


 ──銀河基地。作戦本部。

 敵の襲来を知らせる警報がけたたましく鳴り響き、赤色の警告ランプが高速回転しながら部屋全体を朱色に染めあげている。


「アッハッハ! 惑星戦隊の諸君!

 まさかこの私が直接乗り込んでくるとは思ってもいなかっただろう。これで世界は我々のモノだ! ヌハ、ヌハァ、ヌファ!」


 禍々しい装甲に漆黒のマント。手には仕込み杖を持った暗黒宇宙将軍が快活に笑う。


「クソ、ダメだ、強すぎる」

「やっぱりレッド無しじゃ勝てないよ……」

「何をしているんだ、リーダーは……」

「待って、何かくるよ。力を感じるの」


 四色に光り輝く戦士達は暗黒宇宙将軍の部下に囲まれ、攻撃を受けながらも地を這いながら希望(レッド)を探している。

 突如として空間に亀裂が入る。

 亀裂は徐々に広がっていき、最終的には硝子が砕けるような音響と共に爆散した。虚空の空間に楕円形の穴が空いている。

 直後、亜空間の中から一つの影が飛び出した。


「「「「キター!!!!」」」」


 仲間達の声援を受けながら、()()は世界を引き裂き、眩い光条を背に受けて、大地へと着地する。


「「しゃアッ! オレ登場!! なんてな!」」


 (オレ)が銀河基地に降臨した。

 目が眩むような金色のスーツ、世界を照らすような威光を放つレッドが拳を突き出すと七色の光条が飛び出し暗黒宇宙将軍の部下達を瞬時に壊滅させる。


「おのれ小癪な新星レッド……。逃げたまま帰らなければよかったものを……。よろしい、ならば私が直接相手をしてやろう!

 ──暗黒光線(ブラックビーム)


 レッドは暗黒の光線を体に受けるが物ともせずに突っ走る。


「なんだと?! バカなッ!」


 光線を発射しながら狼狽している暗黒宇宙将軍の顔面をレッドの拳が次々と襲う。


「「右、右、左ィ! ガードを崩して動きようがない身体(ボディー)を狙え。支点が揺らげば頭が下がる!」」


 言葉通りに項垂れるようにして下りてきた頭部にレッドは回し蹴りを叩き込む。

 オレはレッドに戦闘方法を指南するように攻防を展開する。


「「いいか? 並の生命は予備動作なしには攻撃を出せない。

  拳ではなく身体全体を見ろ。肩が動けば……」」


 将軍が拳を繰り出すのに合わせてレッドはカウンターを打ち込んだ。面白いように攻撃が当たり、敵の攻撃は空を切るだけ。


「「そろそろ終わりだ。──正義の螺旋!」」


 レッドの右腕から七色に煌めく光の螺旋が放たれた。

 暗黒宇宙将軍の肉体を螺旋が貫き、体の内側から白光があふれ出す。


「……レオ、ナルド様……申し訳、ありま、せん。

 ジャッジメントに栄光あれーッッ!!!」


 暗黒宇宙将軍は断末魔を上げながら爆発霧散した。


「ウソ、一人で倒し……ちゃった?」

「今まで弱かったのが嘘みたいだな」

「もうアイツ一人いれば世界は平和なんじゃないか?」


 レッドの仲間達が和気藹々としている隣でオレと大吾は向き合っている。


「どうだ? 少しは自信がついたか?

 本来ならこの後ロボットで戦うのが正攻法なんだっけ?」


「ふっ、神様、色々とありがとう。むしろヘコんだよ。

 アンタは強すぎる。とても真似できるものじゃない。

 これから俺は俺のやり方で必死に努力してみるよ」


 大吾が笑顔を見せるも、オレは真剣な眼差しを向ける。


「最後に聞きたい。奴は死の直前、レオナルドとか言ったな。

 キミ達は一体何と戦っているのか教えてほしい」


「ああ。奴等は調停者という組織の改造人間で……。

 確か……真人類(ネオヒューマニック)とか名乗っていたと思う」


 大吾の言葉を聞いてオレの表情が凍りつく。


「真……人類? 新人類が進化したのか……。

 やはりレオナルドは死んでいないんだな。

 手を打たないとマズイ。オレは行くよ。これからも頑張れよ」


 ヒーロー達に手を振ってオレはその場を後にした。

最後まで読んでいただきありがとうございました。

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