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生命は全滅しました。世界消滅までの五分間。


 世界が白い。

 白以外は存在しない。

 

「白いな……」


 異質な空間で目覚めたオレは、そう口にすることしか出来なかった。

 覚醒直後の虚ろな瞳で視線を彷徨わせる。

 見渡す限り、清々しい程の白である。

 夢か現実か、判断に迷っていると不意に世界が暗転する。

 

『だーれだ!』


「アレスティラ」


 背後から視覚を遮られてもオレは動揺する素振りすら見せずに即答した。

 

『正解です』


 オレの背後から出てきたアレスティラが白い空間の中をしばらく歩くと、肩越しに振り返り嫋やかな笑顔を見せた。


「今度は()()()()()()


 オレが皮肉混じりに聞くとアレスティラは驚きの表情を作る。


『本物……ですか? ワタシはいつでもワタシですけど?』


 流れるように美しい金髪を揺らしながらアレが小首を傾げる。

 その一連の動作があまりに美麗で、そして小動物のように愛らしい仕草だったのでオレは言葉を失う。


「アレ。アレスティラ……。

 いや、気にしないでくれ。また会えて嬉しいよ。

 世界はどうなったんだ。ここは一体どこなんだ」


 質問に答えることを躊躇しているのか、アレスティラの表情に翳りが見られた。


『……残念ながら、我々以外の生命は全滅しました。

 世界も終わりを迎えようとしています。

 今はワタシが時を止めていますが、それにも限界があります。

 持ってあと五分。あと五分で宇宙は完全に消滅するでしょう』


 性質(タチ)の悪い冗談のような発言にオレは絶句する。

 しかしこの異常な状況下でアレスティラが冗談を言うとは考えにくい。


「待てよ、本当に生命や人類が絶滅して、宇宙が消えかかっているとして、1番は何をしているんだ。

 1番はこの宇宙全体を通しての神みたいな存在なんだろ? 

 どうして何もしないんだ。どうして手を尽くさないんだよ!」


 オレは絶叫した。

 絶対的な力を持っているというのに宇宙を救おうともせず、成り行きを見守っているだけの1番に、怒りを通り越して憎しみに近い感情を抱いていたからだ。


『……ワタシの推論にはなってしまいますが、1番が何もしないのは全ての()()()()()()()()からだと思います。

 彼はワタシが時を止め、()()()が素零を止めて宇宙の消滅を防ぐ事をわかっているから何もしないのではないでしょうか』


「そんな他力本願なやり方が許されるのかよ……。

 オレは1番のやり方を認めないぞ……。

 オレは自分の目の届く範囲で困っている人がいたら自らの力で救いたい。他人任せにして放置するような真似は絶対にしない!」


 オレが自身の内心を吐露している間、アレスティラはオレの瞳を静かに見つめていた。

 アレスティラはオレが喋り終えるのを確認すると、オレの頬に右手を当て、慈しむような目を向ける。


『ワタシもアナタと同意見です。

 やはりアナタは素敵な人。ワタシだけの特別な人……。

 ──もう時間がありません。救いましょう。ワタシ達の力で、ワタシ達の世界を……』


「ああ。でも、どうしたらいいのかわからない」


『素零が(ツイ)の螺旋を発動すると宇宙が消滅します。

 それは決定事項のようで、定められた運命のようなものです。

 ですから、終の螺旋を発動させること自体を止めるしかありません』


「でも待ってくれ、終の螺旋は既に発動しているんだよな?」


『はい。ですが思い出してください。

 アナタは素零と契約して零の螺旋を使えるようになった。

 アナタはワタシとも契約していますよね?』


「そうか! オレもアレスティラの力で時を操れるんだな?」


『その通りです。ワタシは今、宇宙全体の時を止めることに莫大なエネルギーを使用しています。他に力を回す余裕がありません。

 ですからアナタは自らの力で時間を遡り、素零を止めてください。今、能力発動の権限を付与します……ひゃう!?』


 アレスティラが言い終わるよりも早く、オレはアレスティラに抱きついた。

 不純な動機ではなく、純粋に世界を救える方法が見つかり、歓喜し、条件反射で幸福を体現したのだろう。


『えっと、あの、どさくさ……。いえ、嬉しいです……けど……』


 アレスティラは赤面しながらもオレに抱擁する。


「あっ! ごめん! 嬉しくてツイ……。

 すぐに行ってくるよ。ありがとな!

 それと、アレはオレにとって、いつまでも大切な人だから。

 早く用事を済ませて戻って来てくれ。ソレと三人でまた楽しくやっていこう。ずっと待ってるからな!」


『はい、ワタシもアナタが……。

 頑張ってくださいね。

 ワタシの何よりも大切な人──』


 アレスティラはオレが時を遡っていく姿を愛おしそうに見つめていた。


最後まで読んでいただきありがとうございました。

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