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素零の挑戦。伝説の勇者が所属する冒険者ギルドに子供が【保護者同伴】で加入しようとしたら当然のように断られ永久追放されたうえに罵倒されたので最強の父親が報復したら気分がスカッとした話。


 オレと素零は10番街に帰還するために転移しようとしていた。

 その矢先のことである。


「やっぱりどうしても納得いかない」


 不服そうな顔をして素零が言う。

 全てを無に還す無敵の技、零の螺旋を持つ素零に取って、8番(神代永斗)に敗北したことが余程ショックだったらしく、未だに尾を引いているようだった。


「8番は消えた。あまり気にしない方がいい」


「悔しいなぁ……素零(オレ)ってそんなに弱いかなぁ?」


「いや、強いだろ。むしろ勝てる存在の方が少ないだろうし」


 オレの言葉は素零の耳には届いていないようである。


素零(オレ)の強さを証明しなきゃ……このままじゃ負け犬だよ。力の強い者が集まる場所は……見つけた!」


 素零はブツブツと独り言を呟き、唐突にオレの腕を取ると有無を言わさず転移を開始する。


 二人がたどり着いたのはソフィーリア公国の領地内にある冒険者ギルド鉄の酒場。


「なんだよここは、ゲームでよく見るような場面だな」


 オレは周囲を見回しながら呟く。

 木製の扉から厳つい風貌の男達が絶えず行き来し、魔法使いや僧侶と見られる()()()()な格好をした集団が扉の中へと入っていく。


「異世界にありがちな冒険者ギルドみたいだねー!

 今の実力を試すにはピッタリだ。ちょっと行ってくるねー!」


 素零が意気揚々と扉を開きギルドの中へと入っていく。

 数秒後、扉の外まで聞こえてくるような笑い声が響いた。

 嫌な予感がしたオレが扉の中へ駆け込むと、素零が嘲笑の的となっていた。


「おい見ろよ! このガキは冒険者になりたいんだと!」


「ハッハ! お笑いだぜ! ガキは帰って宿題でもしてな!」


 人々は素零を嘲笑い、罵声を浴びせている。

 オレが感じた嫌な予感は現実となっていた。

 

「頼むぞ素零、殺すなよ……」


 オレは呟きながら素零のもとに走る。

 素零がその気になればこの場にいる冒険者など五秒で塵となるだろう。祈るような気持ちでオレが駆け寄る間、素零は無言を貫いていた。


「偉いぞ素零、よく殺さなかったな。

 こんな奴らの言うことは聞くな。さっさと家に帰ろう」


 オレが素零を抱き上げて褒めると嘲笑の声は更に強くなる。


「カーカカ! ガキの暴走を見かねて父親が助けに来たぜ!!」


「……ヒィ、ヒィ! 笑いを我慢できねぇ! 冒険者志望のクソガキがパパを連れてくるなんてなぁ! 坊や、帰り道は気をつけるんでちゅよ?」


 全員がオレと素零の関係を本当の親子だと思っているようだ。

 室内は爆笑の渦に包まれ、笑いすぎて目に涙まで浮かべている輩までいた。


「こいつらバカだ。自分で自分の首を絞めてる。

 素零がキレたら責任取れないからな……」


「ちょっと待ちなよ、キミ! そう、父親のほうさ!」


 オレが終始無言の素零を連れてギルドの外に出ようとすると、ギルドの最奥のテーブルで複数人の美女をハベらしていた金髪の男性に声をかけられる。


「今度は何だよ……。一々相手にしてられるかよ」


 オレが無視して立ち去ろうとすると、金髪の男は稲妻のような速度で席を飛び出し、オレの目の前に着地する。


「確か君は今、我々を馬鹿、と、そう言ったのかな?

 だとしたら聞き捨てならないな。君達もそうだろう?」


 金髪の男はキザったらしく言葉を並べ、人差し指でオレの胸をトンと突く。


「クラストスだ! 伝説の勇者だぞぉぉ!」

「そうだとも! クラストスの言う通りだ!」

「身の程知らずのクズだ、親子共々八つ裂きにしてくれー!」

「クラストス! クラストス! クラストス!」


 突如として始まるクラストスコール。

 鳴り止まない大声援と歓声の嵐。

 どうやら面倒な相手に目を付けられてしまったらしい。


「親の因果が子に報う……か。可愛いそうだが大衆の声に応えるのが勇者としての責務なのでね。君達には罰を受けてもらう。

 当然、ギルドにも加入させない。未来永劫、永久追放だ」


 オレは目の前にいる勇者に向けて右腕を突き出す。


「……オレ、殺しちゃダメだよ?」


 先程までとは逆に今度は素零がオレの心配をしている。 


「わかってるよ。こんな奴は殺す価値もない。

 何が勇者だ、刹那の爪の垢でも煎じて飲ませてやりたいよ」


「ほう? まさかこの僕と一戦交えるつもりなのかな?

 深淵の魔神、神殺しの(ツルギ)、断罪の執行者、獣神拳の継承者である、この僕と? ふふっ、たかが一般市民に舐められたものだ」


 複数の異名を持つ鼻持ちならないキザ勇者の目の前で、オレは右手を握り込む。


「何をするつもりだ? 本当に死にたいのかな?

 謝罪するなら今のうちにした方が身のためだよ?

 子供の前で恥をかきたいのかい?」


「貴様に謝るつもりはない。今からオレはデコピンをする。

 最初に言っておくが死ぬ程痛いぞ」


「デコ、ピン? 君の国の文化かな?

 何をしても無駄さ、この僕のスキル、【完全回避】の前ではね。さぁ、やるならやるといい、やらないなら──ほぐぁ!?」


 オレはクラストスの額を中指の爪先で軽く叩いた。

 するとクラストスの肉体は重力を無視して飛び上がり、3階建てのギルドの二階、三階部分の床板をぶち抜き、天井までも突き破って飛んでいき、そのまま星となった。

 伝説の勇者が瞬殺されると、先程まで歓声をあげていた男達が一斉に黙り込む。

 誰もオレと素零の目を見ようともしない。

 オレはクエストの受注受付を担当している女性の前まで悠々と歩いていく。


「うちの()()が強さを証明したいらしい。

 今このギルドにある最難関のクエストを受けさせてくれ。

 ギルドに加入はしていないけど、野良でも構わないよな?」


「──ヒッ? はい! 何も問題ございません!!

 どうぞどうぞ、お持ちください。

 達成者0の最難関クエストでございます。

 健闘をお祈りしておりますです! はいぃ!」


 女性はテキパキとした動きでクエストの受注用紙を取り出し、承認の欄に力強く承諾のスタンプを押した。


「行くぞ、素零。この場所は不愉快だ」


「んふふ! 素零(オレ)のこと大切に守ってくれて、ありがとね、パパ!」


 ご機嫌になった素零を連れて、オレは最難関クエストを攻略するために冒険者ギルドを後にした。


最後まで読んでいただきありがとうございました。

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