決着。新たなる希望の螺旋。真紅の絆。
「俺様を倒すだぁ? 10番ごときが8番様に生意気な。
……だがさすがに多勢に無勢だわな。助っ人を呼ぶか。
神乃軍勢、神聖領域、天世現臨!!」
8番が呪文を紡ぐと床に暗黒の魔法陣が刻まれる。
左手を大地につけ術式を完成させると、魔法陣から三つの影が飛び出した。
「……神の多重召喚。難攻不落のスカーレット王国を一夜にして壊滅させた禁忌の秘術……。悪夢は終わらないのですね」
飛び出した影を見つめながらクリアが小さく呟いている。
「紹介しよう! 俺様の友人、ロキにオーディン、シヴァだ!
テメェら、目障りなゴミ共を潰せ。今ッすぐにィィ!」
呼び出された神は長身の男性二人に小柄な女性が一人。
それぞれが神の威光を放ち、負のオーラを纏っている。
「おーやだやだ、相変わらず粗野な男だねぇ。
でもお仕事だし? とりま敵の大将を取れば終わりっしょ!」
軽口を叩いてロキが虚空より短剣を取り出し、疾風のような勢いで飛び出した。
クリアの首筋を狙いトリックスターが地を駆ける。
「もらったぁ! これで、おーわり!」
「──獄炎弾」
短剣がクリアの首を刈り取るよりも速く、突如として飛来した紅蓮の火球がロキの肉体を焼き払う。
「あーらら、こりゃまた、あっけない最後だぁ……ね」
ロキの肉体は瞬間的に蒸発し世界から消えた。
「いい加減にしろ、8番。貴様は我々の顔に泥を塗った。
貴様が今までにして来た悪逆非道な行為は決して許されるものではない。1番に成り変わり俺がお前を葬ろう」
信長に続いて闇の中から現れたのは氷駕であった。
氷駕は右手に燻る獄炎弾の残滓を振り払い、蔑んだ目で8番を睥睨している。
「テメェ……18番、貴様も俺様に刃向かうか……」
「8番、貴様は昔から姑息な男だった。
今までは同志として、仲間として接してきた。
心根は悪くとも、いつかはお前が更生すると信じてきた。
しかし貴様は何も変わらなかった。
アマツさえ仲間を裏切り、レオナルドと手を組んだ。
貴様の悪行から目を背けてきたことを心から悔いている」
「ごちゃごちゃウゼーんだよ! オーディン、シヴァ、何をしている! 早くこのゴミ共を殺せぇ!」
ドスンと8番の前に斬り捨てられた神々の遺体が飛んでくる。
「ハッ! 残念ながら、お前のお友達は先に天に召されたぜ。
次はとうとうお前だな! 観念しろッツーの!」
高笑いを上げながら信長が吠えた。
「あっ、あぁあ……なんだコイツら、神の軍勢が、俺様の神が。
クソがよぉ、どいつもこいつもよぉ……!
全員だ、出てこい。俺様を守れぇ!!
神に逆らう愚か者共に目にモノ見せてやれやぁっ!!」
8番が声を上げると魔法陣から次々と神が召喚される。
その数は50を優に超え、多様な神がひしめき合っている。
それと同時に遠方から地響きのような怒号が轟く。
数百は超えるであろう足音、ガチャガチャという金属音が玉座に向かって近づいてきているようであった。
「姫様ァッ!」
野太い声で叫びながら手に武器を持った甲冑姿の戦士達が玉座の間に傾れ込んできた。
それを見たクリアの表情がパッと晴れる。
「ロイド騎士団長、それに近衛騎士の皆様も。
よくぞ、よくぞ、生きていてくれました……」
「ハ! 無敵のスカーレット兵団は簡単には滅びませぬ。
地下に張り巡らせたシェルターを通じて国民もほぼ全員を避難させました。城の異変を察知し、急行した次第であります」
「そうでしたか。安心いたしました。
ここは危険です。貴方達もすぐに避難を」
「いいえ、我々は退きませぬ。
例え神が相手であろうと命を賭して姫様をお守りいたします。
皆の者、我々が紅の王の意思を継ぐのだ、全軍突撃!」
氷駕と信長を先頭に、神の軍勢に王国騎士団が戦闘を仕掛ける。武に練達した王国騎士団は手にした鋼の剣や槍で神の猛威に懸命に抗い、実力伯仲の戦いを繰り広げている。
「団長殿、ゴーストがいません。逃げ出したようです」
一人の兵士が声高に叫んだ。
卑劣な8番は混戦のドサクサに紛れて逃走したようだ。
「10番、神は俺達が食い止める。お前は8番を追え」
魔法が飛び交い、剣戟の嵐が渦巻く最中、氷駕はオレの腕を取り8番の追撃を托した。
「わかった。皆んなの思いを無駄にはしない。任せてくれ」
混沌とした玉座の間を抜けオレは城内を駆ける。
入り組んだ道を進み、階段を駆け上がり屋上へと出ると、今にも空に向かって飛び出そうとしている8番を発見した。
「テメェ、10番……。まだ来るかよ、うぜぇなぁ……。
ここは見逃してくれよ。魔が差しただけなんだよなぁ。
俺様が悪かった、反省してるからさ。達者でな」
「行かせねぇよ。
人様の世界を滅茶苦茶にしておいて、罪もない人を巻き込んで、部が悪くなると逃げ出すなんて、そんな都合のいい話あるかよ」
オレがキツい口調で咎めても8番はヘラヘラと笑うだけ。
「だから悪かったって言ってんだろ?
あ、ほら、レオナルドに利用されただけなんだよぉ。
すぐに調子に乗るのが俺様の悪い癖でさぁ」
この男には何度打っても響かない。
人としての心がないのだ。
オレはそう判断し、拳を握る。
「もういい、もう黙れ。終わらせてやる。
雷鳴延尽、暗黒闇衣、零の螺旋」
オレの全身が黄金の輝きを放ち、漆黒の闘気が溢れ出す。
両の腕に光を集め、零の螺旋を拳に纏う。
次の瞬間、オレの姿が世界から消えた。
閃光が走り、8番が吹き飛ぶ。
世界に響くのは打撃音と呻き声。
オレの拳が8番を打ち、逃げ出そうとするのも引き戻し更に拳を打ち続ける。
8番の体は見る見るうちに変形していき、原型を留めなくなるまで完全に破壊されていく。
「た、たしゅ、たしゅけ、たしゅけ……て。
はひ、は、は、反省した、ゆるゆ、して……」
8番は崩れた体で地面に頭を擦り付けながら懇願する。
オレはゆっくりと戦意を解いた。
逡巡し、嘆息すると泣きじゃくる8番に手を差し伸べる。
「無駄かも知れないけど、謝ってみるか。
心から反省して、この国の復興に尽力するんだ。いいな?」
「……ああ、ああ。わか、るかよぉ! アマちゃんがぁ!」
8番が闇の光弾をオレの顔面に撃ち放った。
視界を奪われたオレを蹴り飛ばし、空に飛び出し逃げていく。
「クソ、目が、見えない。8番に逃げられる」
「いいザマだな! 貴様にはいずれ必ず復讐してやる!
アバよ、ゴミ野朗! ハーハハァー!!」
闇の中、オレが光を求めて彷徨っていると遠くから控えめな足音が近づいてくるのがわかる。
「ペルセウス様!」
「クリアか、下はどうなった。
8番はどこだ、目を潰された、何も見えない」
「皆で力を合わせ、神の軍勢を退けました。
8番は空を飛んで逃げていきます。どこまでも姑息な男……。
ペルセウス様、お手をこちらに。共に邪悪を滅ぼしましょう」
クリアがオレの腕を取り、逃げていく8番に向けて照準を合わせる。
重ね合わせた腕に光が生まれる。
太陽のような紅と宇宙までも照らすような白。
二つの光が絡み合い、新たなる螺旋が生まれる。
「──真紅乃……」
「……螺旋──」
二人の腕から鮮血のように鮮やかな真紅の閃光が放たれた。
光は螺旋を描き空を薙ぎながら一直線に飛んでいき、逃げ行く8番に追い縋る。
「クソが、また1からやり直しかよ。まぁいい、俺様の力さえあれば何度でも……ん、なんだこの光は、零の螺旋じゃねぇ、なんだこの異様な輝きは……くそ、くるな、逃げられねェ!
────グッガアアアアアアアアアアァァァ!!!」
真紅の閃光に飲み込まれ、8番、神代永斗は細胞一つ残さずに完全に消滅した。
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