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素零からは逃げられない。パラドクスを殺す鍵。


 ヘラクレス、ソフィーリア王子との戦闘終了後。

 老紳士の遺体を丁重に埋葬したオレは一息ついていた。


「あの、申し訳ありません。神にここまでしていただいて……」


「別に気にしなくていいさ。オレは偉くもなんともないんだ。

 一応、神ってことにはなってるけど、元はただの人間だしさ」


 オレが返答をするとクリアは物憂げな表情を浮かべる。


「私のせいで爺まで死んでしまった。

 ソフィーリア王子も本来ならば死ぬことはなかった。

 いっそ私が命を絶てば全てが解決するのではないでしょうか」


「その考えは捨てた方がいい。キミに非はないのだから。

 悪いのは8番だ。本当に国を救いたいのなら、前だけを見て自分の信念を貫き通せばいい」


 クリアは小さく頷き、オレのそばまで歩み寄る。

 

「ありがとう、勇気をくれて。私はもう迷いません。

 さぁ、参りましょう。私の国までは駿馬を飛ばしても七日七晩はかかりますから」


「いや、そんなにはかからないよ。

 ここは一つ、神様の予言を見せてあげようか」


「え?」


 オレの突飛な発言にクリアは呆気にとられたのか目をパチクリとさせている。


「今から元気いっぱいの子供が声高らかに現れる。

 そしてオレ達を一瞬でキミの国へと連れて行く。

 天から来た男を追放し、キミは平和な生活を取り戻すだろう」


「えっと、あの、え?」


「ヤッホー! お待ちかねの素零が来たよー!」


 オレの発言から数秒後、本当に素零が声高らかに現れた。

 森の中に素零の声が朗々と響き渡る。


「ほらな。ちゃんと来ただろ。オレの予言は当たるんだ」


 クリアに目配せしながらオレは言う。

 森の奥深くに突然現れた子供をクリアは不思議そうな顔で見つめていた。


「この子供は一体何者なのですか?」


「オレの熱狂的なファンでストーカー。

 四六時中オレを監視していて、どこにでもついてくる。

 多分オレは一生付き纏われる。素零からは逃げられない。

 そして無敵の殺人鬼。まぁ根は悪いやつじゃないんだけどな」


「そーゆーこと!」


 素零は無邪気な顔で手をヒラヒラと振る。

 クリアは困惑した様子で素零とオレを交互に見ていた。


「クリア、ごめんな。少しだけ待っていてくれ」


 クリアは頷くと疲れた表情で切り株に腰掛ける。


「……この異界の地なら()()されないだろう。

 素零、お前に話しておくことがある」


「知ってるよ。パラドクスが生きてるんだろ」


「そうだ。しかもオレはパラドクスを仲間だと思っている。

 だが実際にはオレはヤツを知らない。サラも違和感を覚えているようだが、ヤツを知っているものだと思い込んでしまっている」


 パラドクスについての違和感をオレは素零にぶちまけた。

 オレの話を素零は真剣に聞いている。


「本当に厄介な能力だよね。異物だとわかっているのに排除できないなんてさ。ヤツが現れてから久しぶりに恐怖を感じたよ。

 素零(オレ)が消した地球も偽物、殺したハズのパラドクスは生きていて、仲間面してキミに急接近している。

 何もかも全てデタラメだ。悪夢はまだ終わっていないんだね」


「いや、地球の消滅に関してはオレの意思だ……と思う。

 創造の力で偽物(フェイク)の地球を創り上げ、素零に暗黒物質(ダークマター)の力で消させることで1番の予言を回避した。

 ダミーの地球は消滅したが、本物の地球は存在したままだ」


「なるほど、いい作戦だね! 1番め、ざまぁみろ! 

 ん? 待って、じゃあ素零(オレ)が地球を壊すのも計算してたわけ? 素零(オレ)ってそんなにわかりやすいかな」


 地球消滅事件の一連のカラクリを聞いた素零は複雑な表情を見せる。憎く思っている1番を出し抜けて嬉しい気持ちと、オレに利用されたという負の感情がごちゃ混ぜになっているのであろう。


「怒るなよ。まぁ、ある意味ではお前を信用していたと考えてくれたらいいさ。それよりもパラドクスだ。

 ヤツがいる限り、現実と虚構の区別がつかなくなる」


 10番街に帰還してからもオレは違和感を拭えずにいた。

 パラドクスに関して思ってもいない発言をしたり、擁護するような言葉が意識とは別に口をついて出ていた。

 素零にも覚えがあるようで、しきりに頷いている。


「パラドクスだけじゃないよ。あの道化師だってそうさ。

 物理攻撃も状態異常も効かない素零(オレ)達を時間の檻に閉じ込めた。もしかしたら他にも仲間がいるかもしれないね」


 オレと素零は同時に息衝く。

 相手の意図がわからない。対処する手立てが見つからない。

 戦闘で倒して解決できるような単純な問題ではないのだ。

 まして殺しても死なないということは既に立証されている。

 肉体的な面よりも先に精神的に二人は追い詰められていた。


「──待てよ、一つだけ、悪夢を終わらせる方法があるよな?」


「わかってるよ。美唯子のことだよね?

 でも全てを解決する鍵が行方不明だ。

 素零(オレ)の認識だとアレスティラに連れ去られた事になってるんだけど、キミはどう()()()()()?」


 オレの言葉に素零は即答する。

 二人して同じ結論を出したまではいいが、その先に齟齬がある。

 オレはサラに美唯子は4()()に連れ去られたと報告したことを覚えていた。


「そこから違うのか。オレの認識では美唯子は4番に連れて行かれたと()()()()()。……クソッ! 一体何がどうなっているんだ!」


 益々以て謎が深まる。

 やりようのない怒りの感情をオレは声にして解き放った。


「間接的に1番の力を借りることになるのは癪だけど、とりあえずは美唯子を探すしかないかぁ。どうする? 今すぐに行く?」


「待ってくれ、その前にやる事がある。

 この()はクリアというんだが、8番に国を乗っ取られたらしい。オレを頼ってくれているし、なんとかしてやりたい」


 オレが改めてクリアを素零に紹介すると、今まで黙って話を聞いていたクリアが素零に申し訳なさそうな顔を見せる。

 その顔を見て素零は肩をすくめた。


「は〜。クソ雑魚で小物の8番ね。

 昔から平気で人を裏切るし、格下にしか意見できないゴミ野朗だったなぁ。……イイよ、面倒だけど素零(オレ)も協力してあげる!」

 

「えっと、あの、素零さん? ご協力、感謝いたします」


 憎まれることはあれど、まともに感謝されたことは少ないのであろう。クリアに頭を下げられた素零は満更でもない顔をしている。


「……んふふ。たまには英雄(ヒーロー)をやるのも悪くないかもね。

 時間もないし、サクッと8番を殺して終わりにしよう。

 そしてパラドクスを殺す方法を探すんだ!」


 素零はオレとクリアの手を取り、闇の力で転移を開始した。

最後まで読んでいただきありがとうございました。

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