最強の闇。ヘラクレスvsペルセウス。
「お前さ、なんであんな野朗の味方をするんだよ。
神ならば善悪の区別くらいわかるだろ」
「……この世には善も悪も存在しない。
生命の全てが己を信じ、正しいと考え行動している。
善悪などは他者が押し付ける一方的な固定概念でしかない。
俺は俺だ。今までも、そしてこれからも」
ヘラクレスは大木のような巨剣を取り出し唐突に振り下ろした。
オレは巨剣による一撃を片手で受け止める。
「ほぅ、我が一撃を受け止めるとは。腐っても神か」
ヘラクレスは巨剣を握る手に力を込めて振り回す。
痛烈な一撃がオレの首筋に衝突した瞬間、巨剣は粉々に砕け散った。
「なんだ、と……。こんなことはあり得ぬ。貴様は一体……」
「アンタと一緒だよ。オレはオレだ。──暗黒拘縛」
狼狽しているヘラクレスの四肢を闇が拘束し、天を衝くような巨体を軽々宙へと舞い上げる。
「素零の闇と戯れている時、オレは暗黒物質を使役する術を身につけた。こんなこともできるぞ」
オレの全身を闇が包み込んでいく。
闇装を見に纏った身体全体から漆黒の闘気が流れ出す。
世界を塗りつぶしてしまうような純然たる黒。
漆黒の闘気がオレの指先に収束していく。
「刹那、技を借りるよ。──黒の弾丸」
風切り音と共に漆黒の弾丸が次々と飛び出した。
機関銃のような勢いで放たれる弾丸は一発一発が砲丸のような馬鹿げたサイズだ。
「グッ、ガ、ガァアアア──!!!」
その全てが空中で拘束されているヘラクレスの肉体に直撃する。
硬く、重い弾丸が衝突する度に獣のような咆哮を上げる。
「何をしているハーキュリー! 奥の手だ、本気を出せ!」
ソフィーリアが叫ぶとヘラクレスの体が蒼色の閃光を放つ。
「天……神、一体。神衣武装=熾天使乃記憶」
ヘラクレスの背後に巨大な魔法陣が浮かび上がった。
筋骨隆々の体躯から後光が溢れ、自身を拘束する闇を振り払う。変化の完了を知らせるように身体中に不気味な文様が現れた。
複数の翼が躍動し、強烈な旋風を巻き起こす。
「いいぞ! ハーキュリー! そのまま奴等を捻り潰してしまえー!」
ヘラクレスはオレが撃ち放つ漆黒の弾丸を全て受け止め、掌の中で力任せに握りつぶしていく。その工程を幾度も繰り返すうちに、闇は岩石のような巨大な質量の塊へと変貌した。
「己が闇に呑まれて消えるがいい。偽りの神よ!」
ヘラクレスは圧縮した闇の塊をオレに向かって投擲する。
オレの体に闇が直撃すると解放された闇が爆発を起こし世界は一瞬にして漆黒に染め上げられた。
「ハハァハ! やったぞ! やっぱりお前は最強だ!
後はあの鬼畜を捻り潰してお終いだなぁ!」
「──残念ながら、そうはなりません……」
高笑いを続けるソフィーリアの前に闇に紛れてクリアが姿を現し、真紅に染まった右手を突き出す。
「ハハァーハ! ハァーッハッハァッ! ──あ!?」
「真紅乃灼燐!」
クリアが呪文を紡ぐと闇を掻き消す真紅の炎が放たれた。
真紅の灼炎に包まれて、ソフィーリアの肉体が燃え上がる。
灼炎は勢いを増し火柱となり、飛び出した華燐が火の粉となって宙へと弾ける。
「そんな、ズルいぞ、こんな、こんな終わりって、ァア、焼ける、熱いよ、母さん……」
真紅の豪火に包まれ、悶え苦しみながらソフィーリアは絶命した。
「主殿は死んだか。ならば我が勝利を持って手向としよう。
敵対する神は死んだ。安心して逝くが良い」
燃え尽きた主人を見つめてヘラクレスは呟いた。
「──誰が死んだって?」
中空で黙祷を捧げているヘラクレスにオレが問いかける。
「貴様、死んだはずでは……」
突然空中に現れたオレを見て、ヘラクレスは焦りの色を隠せない。
オレは右腕に眩い白光を収束させる。
「闇が闇に呑まれて消えるかよ。
お陰様で力が漲った。お礼にいいモノを見せてやる。
──全てを消し去る、零の螺旋だ」
撃ち放たれた光の螺旋が光速でヘラクレスの胸を貫いた。
「バカな、俺は不死身だ、こんなことがあってはならない。
愚かなる偽神よ、覚えておくがいい、神は貴様を許さな……」
ヘラクレスの肉体は粒子となり、恨み節を残して世界から完全に消滅した。
「ペルセウス様!」
勝利の余韻からか僅かばかりの笑みを浮かべてクリアが駆けてくる。
「言ったろ? オレを信じたキミの勝ちだって」
「ペルセウス様、貴方は私の、いえ、世界の希望です。
本当にありがとうございました」
「まだ終わってない。今度はキミの国を取り戻さないとな」
「……はい!」
オレが微笑むとクリアも柔らかな笑顔を見せた。
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