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神を召喚した少女。国を追われた御姫様。


 気がつくとオレは見知らぬ空間に立っていた。

 足元には六芒星に見慣れぬ文字が刻まれた魔法陣、周囲には本棚や得体の知れない機械類が並んでいる。不意に隙間風が吹いた。

 それもそのはず、家屋の壁も天井も、あちらこちらに穴が空いており、いつ崩壊してもおかしくないような酷い有様だ。

 遠くから薄っすらと鳥の囀りが耳に届き、緑の匂いが鼻いっぱいに広がる。

 状況から察するに森の中にでも連れてこられたのであろう。

 

「姫様! ついに、ついに神を呼び出すことに成功いたしました。これでスカーレット家、再興の悲願が叶いますぞ」


「そのようですわね。(ジイ)、すぐに力量鑑定をなさい」


 感嘆の声を出し、隣室から品のある老紳士と少女が現れた。


「オレを呼んだのは、キミかな」


 目の前までやってきた少女にオレは尋ねる。

 少女は返答もせずに透き通るような瞳でオレを見つめていた。

 優雅な佇まいと、豪奢な真紅のドレス。

 整った顔立ちからは意思の強さと気品を感じる。


(ワタクシ)の名前はクリア・ベル・スカーレット・リ・ヴォワ・バレット・シュタイン。以後、お見知りおきを」


 両手でスカートの裾をつまみ、少女は軽く頭を下げる。


「姫様、鑑定が終了いたしました。いや、しかし、これは……なんともはや、機械の故障かと思われますので、今一度、鑑定をば」


 老紳士が小型の測定機械を手にあたふたとしている。

 クリアと名乗った少女は老紳士から測定器を引っ手繰る。

 少女が画面を覗き込んだので、オレも横から見ることにした。


叛逆者(ペルセウス)

 

 属性:半神

 状態:不完全召喚


 魔力:F

 筋力:F

 耐久:F 所有:スキル

 俊敏:F 雷撃弾  雷単属性攻撃魔法

 幸運:F 雷命延尽 全ての能力値を三段階上昇

 異能:F 零の螺旋(使用不可) ???????


 測定器にはオレの能力値が映し出されていた。

 老紳士の慌てぶりを見るに最低ランクの能力値なのだろう。

 

「やはり何かの間違いに違いありません。もう一度測定を……」


「その必要はありません。きっと何度やっても同じでしょう。

 策士、軍を選ばず。スカーレット家の家訓です。

 このお方を呼び出したのも何かの運命。

 私はペルセウス様に全てを託す事にいたします」


 二人の会話を聞いて、オレは何とはなしに状況を察していた。

 恐らくは神を呼び出し力を得ようということなのであろう。

 了承もなしに突然呼び出された上に無能扱いされたらたまってものではないが、クリアが訳アリなのは間違いない。

 信じると言われた手前、話だけでも聞いてみる気にオレはなっていた。

 

「とりあえず、事情だけでも聞いておこうか」


「……はい。我々スカーレットの一族は代々国を治め、民からも愛されておりました。

 それがある日突然、空から降ってきた男に地位を奪われ、家族を殺され、愛していた国を乗っ取られてしまったのです。

 生き残った私と爺は命からがらこの地まで逃げ延び、王家に伝わる神呼びの儀を執り行うことにいたしました」


 クリアは淡々と語る。

 途中、隣に立っていた紳士が溢れた涙をハンカチで拭うが、クリアは最後まで気丈に振る舞っていた。


「空から降ってきたって、一体何者なんだよ。

 たった一人の男に国を乗っ取られたのか? 大国なんだよな」


「もちろん抵抗はいたしました。

 しかし、こちらからの攻撃を一切受け付けなかったのです。

 まるで存在していないかのように。

 応戦した兵が口々にこう言っていたのを覚えています。

 あれは生物ではない。この世に存在しないゴーストなのだと」


 聞き覚えのある単語にオレは首を傾げる。

 存在するのに存在しない。

 エニグマ以外には考えられなかった。


「存在していない? 名前はわからないかな。

 もしかして数字だったりしないかな。10番とかそんな感じの」


「空から来た男はこう名乗っていました。

 俺の名前は神代 永斗(カミシロ エイト)だと」


「エイト……8番だな。 

 場合によっては帰るつもりでいたが、そうもいかなくなった。

 キミ達に全面的に協力するよ。よくオレを呼んでくれた」


 人間同士の諍いなら協力するつもりはなかった。

 だがエニグマが相手では並の人間に太刀打ちできる訳がない。

 それに8番は刹那や17番を裏切り、レオナルドと結託した悪党である。

 

「おお、なんと頼もしいお言葉。ペルセウス様、この爺も微力ながら、協力を……ガッ!?」

 

 オレの手を握り、涙を流していた紳士が突然口から血を吹き出した。

 紳士の背には矢が突き刺さっている。


「極悪人、みーつけた!」


 声と共に轟音が響き渡る。

 オレは瞬間的にクリアを抱き上げ、あばら屋から飛び出した。

 屋外へと脱出した直後、家屋は倒壊した。


「ソフィーリア王子……」


 オレの腕の中でクリアが呟く。

 前方には派手な衣装を着た男性が一人と、筋骨隆々、背に翼の生えた身の丈5メートルはありそうな異形の怪物が立っていた。


「どうやらキミも神の召喚に成功したようだね。

 でもすっごく弱っちそうだなぁ。笑ってしまうよ。

 ハーキュリーズ・セラフ、出番だよ」


 男が呼びかけると怪物が咆哮をあげる。

 大地が揺れ、天が裂けるような衝撃が走り抜ける。


「なんだあの化け物は」


「隣国が呼び出した神、ヘラクレスです。

 全てのステータスがA +を超える化け物。

 そこに更に熾天使の属性を織り混ぜた完全無欠の存在です」

 

「なるほどね。確かに完全な化け物だ。なんとかしてみるか」


「──ッ!? 貴方は正気ですか。失礼ですが貴方のステータスでは勝負にもなりません。ここは一旦引きましょう」


 前に出ようとしたオレの前にクリアが立ち塞がる。

 

「キミは言ったよな? オレを信じるってさ。

 その時点でキミの勝ちだよ。あのバカ王子の鼻っ柱をへし折ってやるさ」


 クリアを背後に送り、オレはソフィーリアのもとへ歩み寄る。


「キミはどこの神かな? 失礼ながら威厳も威光もまるで感じない。大方、歴史に名も刻めないような雑魚神なんだろうねぇ」


「何故クリアを狙う。人間同士、助け合わないのか?」


 オレの言葉にソフィーリアは嘲笑を上げる。


「あの女は異常者さ。懸賞金もかけられている。

 手配書を見なよ。王を殺し、独裁政権を敷こうとした。

 同じ人間として情けないよ。人ではなく鬼畜だなぁ」


 ソフィーリアはクリアへ近づき腹部を殴りつける。

 腹部を押さえて倒れたクリアに向けて唾を吐きかけた。


「見ろよ、あれが鬼畜のあるべき姿だ!

 地べたを這い回り、己の犯した罪を後悔しながら死んでゆけ!」


 ソフィーリアは嘲りをやめない。

 オレはソフィーリアの顔面を全力で殴りつけた。


「どう見てもお前の方が鬼畜だろうが。ゲス野朗……」


「カハァ! 僕の高貴な顔をよくもぉ!

 絶対に、絶対に許さんぞ、犯罪者共がぁ!!

 ソフィーリア公国が嫡子、ソフィーリア3世が告げる!

 ハーキュリーズ・セラフ! 

 汝の怒りは我との契り、我が命運を汝の矛に、祖国を救う光とならん。破滅を持って常世を制する正義を見せよ!」


最後まで読んでいただきありがとうございました。

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