地球消滅。神の策略。
都心の真ん中。
人々は流れるように過ぎ去っていく。
膨大な人の波、忙しない喧騒。
その中に紛れる異物。
人間に紛れたエニグマ三人が口論をしている。
「ただの人間って、レオナルドが作った新人類のこと?」
「いや、違う。魔法も異能も使えない、純粋な地球人だ」
素零の疑問にオレは端的に答えた。
会話途中にも人は絶えず道を行き交う。
誰もエニグマに気づかない。存在すらも気にしない。
「はぁ? 猿とそう変わらない人間如きが時間をループさせたり、素零達を閉じ込めたってわけ? ありえないよ」
眉を顰めて素零は言う。
「だが実際問題、オレ達は拘束されて弄ばれた。
エニグマに対抗する力を手に入れたんだ。4番はどう思う」
「……確かに彼等からは特別な力は感じませんでした。
しかし腑に落ちません。我々を拘束するだけの力を有していながら、何故このタイミングで解放したのか。
我々を永遠に閉じ込めておく事も出来たでしょうに」
周囲の人間を見つめながら4番は嘆くように呟いた。
「言ってただろ、小手調べだって。
奴等の真の目的は時間稼ぎだったようだ。
真実と虚偽を上手く混ぜ合わせてオレ達を撹乱させたな」
「そっかぁ。素零を殺しに来るって話は本当だったんだ。
策を考える時間も準備もさせないで潰し合わせるのか。
人間のくせによく考えたものだなぁ」
言いながら素零が天を指差す。
いつの間にか空には見渡す限りエニグマが犇めいていた。
あまりの数に太陽光が遮られ、真昼だというのに周囲は闇に包まれている。
「どうする4番、アンタはエニグマの指揮官だろ?
戻らなくてもいいのか」
オレが言うと4番は葛藤と苦悶が入り混じったような表情を浮かべる。
「……素零、貴方が大人しく投降すれば、話し合いの余地も生まれるでしょう。今ならまだ間に合います。誠意を見せるのです」
4番は理性的な対応を見せた。
恐らくは憎むべき相手に対する最大限の譲歩であろう。
「誠意? お断りだね。殺意剥き出しの相手に誰が媚びるか!
わざわざ殺されに来てくれてありがとう。
4番、キミも人間ごと滅びるといいよ」
素零は4番の善意をあっけなく無碍にする。
そして次の瞬間には零の螺旋を発動するために光を集めていた。
「やめろ、素零。お前が感情に飲まれて地球を消滅させたら、1番の予言通りになってしまうんだぞ。悔しくないのか」
「予言なんて関係ないね!
どのみち1番も素零が殺すから。
人間も脅威になるというなら、今この瞬間に消してやる。
進化しようが力を得ようが宇宙の塵になったら一緒だろ」
素零は暗黒物質の力を解放した。
人間が闇に喰われていく。
体の外からも内からも、闇に呑まれて消えていく。
「やめなさい素零。
私達が潰し合えば世界の終わりがやってきます」
「うるさいなー。ザコは黙ってろよ、バーカ!」
4番の制止も聞かず、素零は空中に向けて零の螺旋を乱射する。
夥しい数のエニグマ達が次々に粒子となって消えていく。
地上で人が絶え、天ではエニグマが死んでいく。
死屍累々。だが屍は残らない。世界は死に包まれた。
「ハイ! そろそろフィナーレです。
地球の内部まで暗黒物質が満ち溢れました。
核がなければ星は死ぬ。消えちまえ、全部。
地球の皆さん、サヨウナラ!」
素零の合図で暗黒物質が地球の核へと喰らいついた。
一瞬の静寂の後、地球は消滅した。
◇ ◇ ◇ ◇
──10番街、神の居城、最奥、星の中枢。
「おはようございます。よく眠れましたか」
睡眠から目覚めたオレを従者のサラが迎える。
「ああ、おはよう。すごぶるいい気分だよ」
オレの返答を聞いたサラは心地の良い微笑みを見せた。
「今回の作戦はお見事でしたね。全て貴方の計画通りです」
「ありがとう。逆説王も道化師も指示通りによく働いてくれたからね。彼等の功績は大きいよ」
「確かにあの2名の助力がなければ地球の消滅と存続はあり得ませんでした。貴方は見事に1番を出し抜きましたね」
「念入りに準備した計画だったから、失敗は許されなかった。
でも今回は引き分けかな。確かに地球を守ることはできたけど、1番の予言通りに地球は消滅したのだから」
地球が暗黒物質の攻撃を受けて消滅したのは事実だ。
だが地球は今も存在している。
5番に保護され、宇宙から隔離されてはいるが、人類も誰一人欠けることなく生存している。
「それで、最終的なご決断をお聞かせください」
「……1番を倒すことに決めたよ。
今回の一件で痛感した。生命は縛られるべきではない。この世のルールも定められた運命も、全てオレがぶち壊す。
サラは付いてきてくれるかな?」
「もちろんですとも。ご立派な決断です。
私は貴方のために存在しています。
この世の全てを敵に回したとしても、私は貴方に尽くします」
「ありがとう、サラ。
11番の力を取り戻して来た。奏の意思はキミが継いでくれ。今後の戦いに必要となるから」
「熱量支配ですか。いえ、死後覚醒を果たしているので神羅万象永続支配ですね。恐れ多いですが、頂戴します」
オレの洗礼を受けたサラは11番の意思を引き継いだ。
最後まで読んでいただきありがとうございました。