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「オレ」と『アレ』

少しでも面白く読んでいただけるよう努力いたします。

よろしくお願いします。



 不死が死ぬ時。

 永遠が終わる時。

 全てが始まる時。


───────────────────────────


 閑静な住宅街、その最奥に位置し、人を避けるようにして佇む大邸宅がある。

 400平米はある敷地の中には、美しく手入れされた日本庭園が広がり、ししおどしが奏でる心安らぐリズムの中を池の鯉達が優雅に泳いでいる。

 一見すると完璧とも思えてしまうが、その家は少しばかり様子が違った。

 周囲に人気はなく、猫の足音も、鳥の羽ばたきも、虫の音でさえも静寂に飲まれて消えていく。


 人の出入りが極端に少なく、毎日決まった時間に一人の青年が家を出ていき、必ず決まった時刻に帰ってくるだけ。

 最初のうちは訳ありの様子に世話を焼こうとしていた住民達も、青年の態度がそっけなく、積極的に交流を図ろうとしない態度に、いつしか青年を忌み嫌うようになり、邸宅周辺にも近寄ろうとしなくなっていた。



「オレってなんのために生きてるんだろ」


 大邸宅の広々とした自室の中、青年は悩んでいた。

 親しき友もなく、最愛の人もなく、なぜか家族も使用人すらいない家の中で、絶望的な孤独感を抱えて一人生きている。

 朝起きて毎日決まった時刻に出かけては仕事をこなし、帰ってきてまた眠る。同じことの繰り返しの人生に辟易としていた。

 青年はそのままバタリとベッドに倒れ込み、自問自答を繰り返す。


「このままズルズル生きてても意味なんてあるのかな……」


 青年の心にはポッカリと穴が空いていた。

 生きる目標もなく、生きる目的も見出せず、温もりも愛情も感じられない家の中で、いつしか自分の名前すら忘れてしまっていた。

 このままでは機械になってしまう。人間ですら、なくなってしまう。そう自分自身を否定し、焦りだけが募っていく。

 青年は逡巡を繰り返し、時折奇怪な呻き声を出しては頭を掻きむしる。そんなことを続けて、どれだけの時間が経っただろうか。


「だれかぁッ! 助けてくれよ!!」


 自身の現状を嘆く、心からの魂の叫び。

 青年以外に誰もいない家で声だけが反響し虚しく消える。


『わかりました。その願い、聞き入れましょう!』 

 

 どこからともなく少女の声が響いた。 

 それと同時に、青年の部屋に一筋の閃光が走り、部屋全体を白く染め上げていく。

 

「──うわっ、なんだこれ!?」


 輝く光の螺旋に包まれながら、青年は思わず叫んだ。

 真夏の陽光よりも強い【白】が網膜を焼いていくような感覚を覚える。

 死と生理的に受容できない恐怖を同時に認知した頃、次第に意識が薄れていき、次に目覚めると、そこには見慣れた自室の景色が広がっていた。


「なんだ今の……オレは死んだのか? それとも夢?」


 白昼夢でも見たのかと怪訝な顔でベッドから勢いよく起き上がり、目を擦り、頬をつねる。

 ゆっくりと周囲を見回した後、部屋に異常がないことを確認して心に安寧が訪れるも、同時に恐怖も込み上がる。

 言いようのない精神状態の自分を鎮めたいかのように、青年はもつれる足で必死に駆け出し、玄関のドアノブに手をかけた。


「……開かない」


 何度ドアノブを回しても捻っても扉は開かない。

 

「なんだってんだ! チクショー!!」


 青年は怒りを込めた渾身の力でドアを何度も何度も殴りつけたが、一向に扉が開く様子はなく、気の抜けた青年はその場にヘナヘナとへたり込んだ。

 力のない視線で周囲を見回し、安っぽい蛍光灯の光が漏れ出す自室を呆然と眺める。


「なんだ……アレ……」

 

 青年以外いないはずの家の中に何かがいるのがわかった。

 一瞬にして総毛立つ。血の気が引く、息が止まる。

 得体の知れない黒い塊が、まるで様子を伺うかのように扉から出たり入ったりを繰り返している。


 青年は視線を前に向けたまま、手のひらで周囲を探り武器になるものはないかを探る。

 

『あの〜』


「ひっ!?」


 警戒していた黒い塊から不意に声を掛けられ、青年は思わず情けない声を出した。得体の知れない黒い影が青年に向かってズンズンと近づいてくる。


「くっ、来るな! マジで近寄らないでくれッ!」


 青年の必死の懇願も虚しく、黒い塊は息がかかるほどの距離にまで近づいてきてしまっていた。 

 せめてもの抵抗で手近にあったスリッパや靴ベラを投げつけるが、闇の中に次々と消えていく。

 まるで悪夢を再現したかのような状況となり、青年の思考が止まる。


 ──数秒後、青年は意を決したように口を開き、今度は自分から影に向かい語りかけた。


「ごっ、ご用件は何でしょうか?」


『今からワタシ、アナタを喰べます!』


 影の中から元気いっぱいの明るい声が届く。


「…………はい??」


 少女のような可愛らしい声で言われたとしても、青年は困惑するしかなかった。

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