転生
婚約破棄を言い渡された後、家に帰る道中で前世から今に至るまでを思い出していた。
私は年収で1億を越えるほどの投資家だった。カリスマ女性投資家として、雑誌やテレビに取材を受けたこともある。他人が羨むものは大体持っていた。美貌、財産、運、頭脳。彼氏を除くほとんどのものは持っていた。そう、彼氏を除く。私はなぜか彼氏がいなかった。学生の頃に半年とかせいぜい1年とか付き合ったことはあるけれど、大人になってからまともに出来たことがない。そんな私にイケメンな王子様の婚約者が出来るなんてと最初は喜んだものだ。最初はね。
前世の最期は忘れもしない。できることなら思い出したくもないが。気がついて目が覚めると公爵家の令嬢のクティエとして生まれ変わっていた。既にクティエは15歳となっていたが、目が覚めると同時に15年間の記憶が頭の中に流れ込んできた。
ここは日本でも地球でもない全く別の世界。あえて例えるなら中世ヨーロッパをもう少し暮らしやすくした感じかしら?貴族でなくとも衣食住は保障されているし、水も清潔。科学という概念はあまりなくて文明も現代日本ほど発展していないけど、皆幸せそうに暮らしている。そういう私も素晴らしいお父様とお母様と幸せに暮らしている。
歴史あるアラン家をさらに大きくした偉大なお父様と誰にでも優しく包み込んでくれるお母様。私が投資の話をしたときも仕組みを理解しようと話を聞いてくれて援助をしてくれた。
そう、この世界には投資という概念が存在しないのだ。もっと正確にいうと、新しい商品を作るために常連の客から少しお金を借りて代わりに真っ先に商品を提供するという文化は存在していてかなり盛んに行われているらしい。この仕組みは株式投資とかなり似ているが、常連客とお気に入りのお店の間で行われているかなり小規模なものでしかなく、ましてや貴族がそこに参加するなど聞いたことがないそう。
ま、その文化のお陰でだいぶみんなの説得が簡単になったのだけれど。あら、そうこう思い出に浸っている間に家に着いてしまいました。
婚約破棄のことをお父様とお母様に伝えるのは少し辛いですわね。もしこれで家の立場が悪くなったりしては申し訳なさすぎます。