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6

 

「話がズレたな。つまり、異世界召喚者が手にする固有の力は、詳細を知る方が珍しい状態だ。本人が亡くなっている今、まともに使いこなせる奴はいないだろ」

「邪神様のお話を聞く限り、イチロー・タナカも使いこなせていないとなりますね。では、悪魔達を消滅させるという言葉は、口先だけでしょうか?」

「難しいところだな……もう確認しようがないから憶測だが、莫大な魔力が必要そうだ。そうなると、命と引き換えでギリギだったと思う」

「そんな殊勝な事をする輩ではなかった。断言しよう。だとすれば、あの時に反乱を起こしても問題なかったのか……否、クレゾントの解放が出来ないなら結局は同じか」

「そうなるな。ところで、魔王救出を一番望む悪魔はどこにいる?」

「何人か心当たりはあるが……それは何百年も前から変わらない。邪神を呼び寄せる程になる出来事もなかった筈だ」


 ティガルの返答にイオは考え始める。

 取引相手の宛がなくなった。話を聞く限り、ブルーノや悪魔以外が相手だとは考えにくい。

 いつもより時間がかかりそうだと、何度目か分からないため息を吐いた。


「相手が見つからない以上、アタシらは派手に動けないからな。暫くは『ブルーノに召喚された悪魔』として動かさせてもらうよ」

「了解です。ただ、周りが煩くて仕方ないかと……」

「そこについては諦める。まぁ、ついでに情報を吐いてくれれば有難いけどな。それと、ティガルにはこいつを渡しとく」


 言いつつ、イオは収納魔法を展開させて手を突っ込む。ガサゴソと感触で目的の物を見つけ、それをティガルに放り投げた。

 手のひらに収まる程のオパールだ。楕円形に紋様が直接彫られている。異世界の模様だが、魔術的な紋様に気づいたティガルは目を丸くした。


「なんだ、この素晴らしい式は……!? 俺達が使用する式よりも簡潔で、それでいて効果は断然に凌駕している……!?」

「通信魔法、だったか? 効果はそのままで、対の術式を持つ者と通信できる代物だ。それの対はこれになる。何かあったら報告してくれ」


 収納魔法から次に取りだした物を、二人に見えるようにかざした。オパールを使った片耳だけのイヤリングだ。

 小ぶりで遠くでも通信できる代わりに映像は送れない。だが、視覚情報で欲しいものがない為、これが最適である。

 左耳に付けると、イヤリングが軽い金属音を奏でた。そういえば、肌の露出について女達が煩かった気がする。

 またそこを指摘されては面倒だと、最後に橙色のボレロを取り出し羽織る。普段は何も無い部分に布と肌が擦れ、違和感が強かった。


「おお、美しい!」

「大変お似合いです。今まで見た誰よりも魅力的で、思わず私はクラクラしそうです」

「イオ、キレイ、ズット!」

「へんなとこで張り合うな」


 歯を剥き出して威嚇するジャピタの頭を小突く。

 そのやり取りを微笑ましく眺めている二人が不思議に見えたが、さほど重要では無いだろうと深入りは止めた。


「わかっているとは思うが、ここでの話は秘密だ。いいな?」

「はい、心得ております」

「承知した」

「よし。ジャピタ、壁を解除してくれ」

「ハーイ」


 ブルーノが好意的で、ティガル達悪魔が力関係を正しく理解してくれた。おかげで、かなりの情報が手に入り、今後の方針も決まった。立ち位置以外はいい始まりだと思う。

 壁が消え、周りにいた人間や悪魔の視線が集まる。



 先程と同じ顔ぶれだろうと見渡して、後悔した。



 



「やっと出てきたでひゅね! ボクちんを待たひぇるなんて、(うひょ)つき男はやっぱり不敬でひゅ!」

「うっわぁ……」

「ウゲー」



 娼婦のような女に囲まれ、醜悪な生物がふんぞり返っている。

 イオからもジャピタからも、引き気味な嫌悪の声が漏れた。




 着ている制服から、学園の生徒だとはわかる。それを踏まえても、少年には見えない程に体格がいい。

 縦もそうだが、その倍は横に大きい。蓄えられた贅肉が呼吸の度に揺れて苦しそうである。むしろ、気管も贅肉に圧迫されているからこそ、大きな呼吸の音を響かせているようだ。

 顔も同じく、腫れたとしか思えない肉の量で、目が細められている。口が回っていない所も、肉で埋もれているからだろう。

 露出した肌は脂だらけ、唯一の黒髪も脂で下品に輝いていた。



 一瞬、オークといった醜怪とされる種族をいくつか思い浮かべ、直ぐに消した。これと比べてしまう方が可哀想である。

 そんな醜を集めた男をうっとりと眺める人間達。おぞましいと思わず鳥肌が立った。

 男は不躾にイオを舐め回す様に全身を見た後、鼻を鳴らした。


「顔はまぁまぁでひゅが、身体が良くないでひゅ。ボクちんは女らひぃい体つきが好みなんでひゅ。ペッペッ」


 細身で良かった。心の底からそう思った。

異世界の腐敗貴族でよく見る、だるんだるんな贅肉体型。

その所為でまともに発音ができてません

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