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4.ティガル視点

 

 召喚の陣を逆に利用し、繋がった穴を通り道として固定する。そこから大勢の悪魔が地界へと乗り出した。

 元々、人間達が先に仕掛けてきた戦いだ。遠慮などしない。


「ゆ、許してぇ!」

「止めてくれ! あれは、教会の一部がやっただけだ! 我々は何も関係ない!」

「ここ、こっちは宣戦布告って受け取ったんだよ、キヒッ」


 懇願する人間達を次々と屠る。理由など、最早関係ない。

 そもそも、人間全てが関わっているなど、ハナから考えていない。群れを成す生物だが、思考や権力の差は大きい。

 向こうからすれば、自分達より強いと伝承しかない悪魔の認識は大きく違っただろう。


 そんな奴らが思考を合わせ、悪魔を一人ずつ呼び出して確実に殺すなどするはずがない。

 分かった上で、戦いの口実に丁度いいと合わせただけだ。


 だが、思っていた以上に人間は弱い。戦闘と言うよりは虐殺に近く、悪魔達は楽しさを失った。

 一度始めた事だからと、惰性的に侵略していく。じわじわと追い詰めていけば、張り合う為の策か何かをしてくれるだろうと期待もあった。




 その期待通り、人間の中から特質した才を持つ者が出始めた。恐らくは、生存本能が元になっているのだろう。

 理屈を知らずとも、こちらからすれば強い相手は大歓迎だ。

 そうして多少は楽しめるようになったからか、元は弱い人間だからか。

 悪魔全体に慢心があったことは否めない。





 しかし、戦況をまるっきりひっくり返されるなど、誰も考えなかっただろう。








 地界を半分程度、手中に収めた頃。


 ティガルはクレゾントのサポート役として、付き添っていた。サポートというよりはストッパーに近い。

 クレゾントは戦いで夢中になるあまり、止め時を知らないのである。見計らって魔王を止める事が一番の仕事だ。

 その間、自分は冷静である必要がある為、他の側近達は好まない役目だ。ティガルは強者との戦いを好む故に、人間との戦闘は好きでは無い。だから、この役目に不満はなかった。


 クレゾントの今日の目的は、噂に上がった人間との戦い(あそび)だ。

   他の人間よりは強いという話だったが、所詮は人間だろう。


 魔界から出て僅か数十分で、残り一人となっている。一番長い戦闘が五分位だ。呆気ないにも程がある。

 先を進むクレゾントの表情は分からないが、物足りないという不満を全身から発している。帰ったら何十人と同族と戦わないと気が済まないだろう。



 そう思っている間に、最後の一人の元まで来た。

 草木も枯れ果てた大地に、剣を地に刺して立つ男。何故だろうか、普通の人間とは雰囲気が違う。



 真剣に考え込むティガルとやる気に溢れるクレゾントの前で、男は目をかっぴらくと剣を引き抜いて切っ先を向けてきた。




「てめぇが魔王だな! やっぱ、()()()()()されたからには魔王討伐が鉄板だろ!? 有難く俺の伝説に名を残しな!」

「はぁ?」

「よっしゃよっしゃよっしゃよっしゃいくぜぇぇぇぇぇ! チート能力、発・動! 『魂の牢獄(ソウル・ジェイル)』! この俺、イチロー・タナカの魂に魔王を封じるぜぇ!」




 剣を振り大振りなポーズをした途端、空気が変わった。

 強いというよりは、敵わないという感覚。不可思議な感覚に一瞬だけ気を取られた。

 



 そう、ほんの一瞬だけ。




「や、やばっ」




 クレゾントの呟きは最後まで続かず、()()()()()()。驚いて見れば、そこにいたはずの魔王が跡形もなく消えている。

 代わりに、イチローと名乗った男が高笑いを始めた。


「やったやった! やっぱ俺が勇者だ! 金に女に名誉に……うひょー堪んねぇー!」

「は、な、何、だ?」

「分からねぇだろうなぁ!? 教えてやるぜ!」


 イチローが下品な笑みを浮かべ、胸に手を当てる。すると、イチローの声が脳内に響いた。




『聞こえるか人類、それに悪魔共! 悪魔は俺の中に封印した魔王から繋げたから聞こえてるはずだぜぇ!? そう! 俺は魔王を封印したぁ! それも、簡単に抜け出せるようなちゃちなもんじゃねぇ! ()()()()()だ! よく分からねぇが、そういうもんだって神が言ってたぜ!』




 イチローが言うには、異世界から召喚された時、神によって授けられた特殊な力だという。

 その力を持って、自分の魂の中にクレゾントを封印した。

 通常の投獄や封印と違い、その姿形を目視することは出来ない。ただ、魂の持ち主であるイチローは存在を感じ取れ、クレゾントを起点に全悪魔に同調できるらしい。

 今は会話に留めているが、そのまま封じた存在を消す事も可能だという。


 それはつまり、全悪魔の消滅がイチローの手腕一つで簡単にできる。クレゾントを慕う悪魔は多く、それ以外の者には自分の命が最も大切な物だ。

 反逆の芽を潰された。ジワジワと不快感が上がってくる。


『言っとくがなぁ! 俺を殺しても無駄だぜ! なんせ、死んでも魂は生まれ変わるだけだからな! 魂の消滅は魔王も巻き添えだ! へへ! それとこの力はなぁ、()()()()()()()()らしい! 人類は皆! 俺の魂を持て囃し続けるんだ! 悪魔共は奴隷になれ! いいな!? 死にたくなかったら従え! ハハハッ気持ちいぃぃぃぃ!』


 恍惚と語るその姿に、ティガルは見覚えがあった。長く生きている内に数回しかお目に掛かった事がない、自分が頂点でいなければ気が済まないタイプだ。

 他種族の悪魔は勿論、同種の人間も全て己に従うべき。そう考えているからこそ、人間に対しても脅しの言葉を平然と吐けるのだ。魔王(クレゾント)を封印し続けるには、敬い続けろ。何回、何十回と生まれ変わっても煽て続けろ。



 どこが勇の者だろうか。しかし、クレゾントを取られた今、従う以外の選択肢はなかった。











 それからは思い出すも忌々しい、屈辱の日々。


 実力のない人間に召喚され、従属され、こき使われる。契約相手が死んで解放されても、また別の人間に召喚される。


 効率よく悪魔を従属する為に、専用の学院まで建てた。そこまでして楽がしたいのかと、呆れるしかない。


 クレゾントさえ救い出せれば、立場は再び変わる。その時だけが唯一の望みだ。

 イチローの生まれ変わりというには、自分の中にクレゾントがいるとわかるらしい。結果、周囲の人間が挙って甘やかす。その所為で、封印が解ける気配は全く見えない。



 しかし、ティガルを含む多くの悪魔達には確信があった。

 人間は愚かな生き物だ。長い年月を重ねるにつれ、元の意味合いを忘れて都合のいいように解釈する。





 いつか、必ず綻びが出来る時が来る。




 綻びは今日において、確かに存在しているのだ。





異世界転生テンプレを煮詰めて悪い部分だけ凝縮したようなキャラ、イチロー・タナカ。

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