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3.ティガル視点

 




 悪魔が住む魔界。

 天使が住む天界。

 そして、人間が住む地界。





 三つの世界に住む種族は、基本的には接触しない。

 だからといって、無関心という訳ではない。


 悪魔は好戦的な者が多い。仲間同士で収まっているが、天使や人間と戦える機会があれば喜んで乗る奴ばかりだ。

 天使は悪魔を敵対視しており、出逢えば容赦なく戦いに入る。人間に対しては庇護の感情、というよりは愛玩の感情を抱いているようだった。

 人間は二種族と違い、力は無いが数はある。欲望の塊で、いずれはどちらの種族も支配下にしたいと考えていた。




 危うい均衡は、天界の崩壊後も何とか保っていた。

 少なくとも、魔界では地界侵略など考える者はいなかった。







 何故なら、それ以上に大きな出来事が起きていたからだ。









 忘れもしない。

 悪魔を統べる魔王、その側近の一人としてティガルはいた。若輩者だったが、魔王以外は同じ位の力を持つ。

 そうして従っていた、ある日の事だ。





「キヒッ。な、なぁ、ま、魔王って強いんだろ? なら、ぼ、僕と遊んでよ」




 吃りながら王座の間に入ってきた、幼い少年悪魔。ギザギザの歯を剥き出しにし、全身を青く染めている。

 開いた扉から守衛らしき腕が青い血の海に沈む様がありありと見えた。



 悪魔の王になるには、現魔王を己が屠る必要がある。

 権力を欲する悪魔がよく挑みに来たが、ここまで来た悪魔はティガルにとっては初見だ。



 特に疲れた様子も見せず、少年は楽しそうに笑っている。

 強い。肌で感じる強者の気迫に、ティガルはたじろいでしまった。他の側近は即座に、侵入者を獲物として刃を向ける。

 己を殺しにかかって来る大人に、少年は笑みを深めた。



 一人、また一人。少年は攻撃を避け、接近し、確実に側近を仕留めていく。

 その様に魔王も重い腰を上げ、拳を振り上げた。



 ここまで来るまでに、何人もの実力者を屠ったはずだ。その分、体力気力を消耗しているだろうに、そのハンデをもろともしていない。

 むしろ、嬉々として魔王と互角に戦っている。必死な形相の魔王とは正反対だ。

 桁違いの戦闘を前に、ティガルは興奮で目が離せない。





 やがて、少年の腕が魔王の胸を貫いた。そのまま、心臓が抉り取られる。





 その場に倒れ込む魔王。物言わぬ骸となった魔王と手の心臓を交互に見た後、少年の顔から笑みが消えた。




「も、も、もう終わり? ……つまんない」




 真顔で呟いたその言葉は紛れもなく少年の本心だ。だとすれば、魔王の死闘は少年にとっては遊戯だった事になる。


「あ、ま、まだ、残ってる!」


 少年の目がティガルを捉える。それに対して、ティガルは膝を着いて頭を垂れた。


「新たな王よ、心より忠誠を誓おう」


 ティガルの行動が分からないらしく、少年は首を傾げた。遊戯だとしても、魔王を倒した悪魔。




 この時を持って、歴代で最も幼い魔王が誕生した。




 ティガルが出した声明に反論する者は多かった。

 だが、実際の現場と玉座に設置してある記録装置で映像を見せれば、一部を除き落ち着いた。最も力を持つ魔王をいとも簡単に屠った相手に、騒ぎ立てる権力者はいない。

 逆に、自分に自信がある者、権力を欲する者は湧いた。体格のいい前魔王よりも、新魔王の方が狙いやすく、自分こそはと思いたったのだろう。


「べ、別に、魔王とか、なりたかったんじゃ、な、ないんだけど。あ、遊び相手が欲しかっただけで」

「その椅子にいれば、魔王の座を狙う者達が自ずと集まるぞ」

「ほほほ、ホント!? な、なら、やる!」



 新魔王、クレゾントは楽しそうに玉座に腰を下ろした。




 クレゾントを一言で表すと、世間知らずの戦闘狂。


 翡翠の髪に二本の黒い角。前髪を長くし目を隠しているが、表情の変化はわかりやすい方だ。

 特に戦闘(あそび)となると、隠れた煙水晶の目を爛々と輝かせる。そちらに夢中になるあまり、必要最低限の生活情報しか知らなかったようだ。

 通りで魔王に挑みに来る割には軽い調子だった訳だ。だが、この強い少年が魔界で埋もれなくて良かったとは思う。





 それから、長い年月がまた過ぎた。

 クレゾントは青年と成り、整った美貌と圧倒的な強さで女達の注目の的だった。

 英雄色を好むというが、クレゾントは全くその気配は無い。それがより女が惚れる要因らしいが、右腕であるティガルから見れば単に戦闘よりも燃え上がらないだけである。

 見た目はともかく、中身は殆ど変わっていない。誰に対しても飾らない姿は、同性から見ても好ましいものだった。




 事態の急変は、約2000年前に発生した。



 悪魔が急に消え、行方知らずとなる事件が多発。

 その際、足元に魔法陣が現れる。それを解析した結果、地界と繋がる召喚の陣だと判明したのだ。



「人間如きが我らを召喚だと!?」

「しかも、弱体化まで組み込まれている。おそらく、召喚された悪魔を倒す為だ」

「人間は数だけはいる。つまり、手数で一人ずつ悪魔を殺しているのだ!」

「なんて卑劣な奴らなの!」


 会議に集まった直属の側近達が、人間を口々に罵倒する。

 ティガルとて同じ気持ちだ。それでも、冷静な者がいないと会議が成り立たない。義務感で気持ちを抑えるティガルに、クレゾントが声をかけた。


「な、な、ティガル。これ、人間からの攻撃なん?」

「あ、ああ。そう捉えることもできる」

「キヒッ。なな、なら、()()()()()()()()()()()()()()


 好戦的な内心を隠しきれていない笑み。ここにいる誰もが、それに同調する。

 皆の目に闘志が燃えた事を確認し、クレゾントは立ち上がって宣言した。




「キヒッ、キヒヒッ! 侵略だ! ちか、地界に行くぞ! 強い人間がいるといいなぁ!」




 こうして、悪魔達は意気揚々と地界への侵略を始めた。


割とテンプレな三界や魔王がいる世界

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