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前回、悪魔召喚で邪神召喚
「アタシはイオ。コイツはジャピタ。アンタは?」
「ブルーノ・ファルケーです。ファルケー男爵の長男ではありますが、諸事情により誰からも下に見られています」
「周りの羽虫が煩い事と関係あるのか?」
「ええ。周りから見た私は、とんでもない大ホラ吹きだと馬鹿にされる日々です。召喚陣の効果は効いていないようですから、お好きに行動されていいですよ。もはや、私の評価は下がりようがありませんので」
ブルーノは微笑を崩さずに吐き捨てる。この笑顔が彼の心を守る盾のようだ。その辺りの事情は後で聞こう。
今はとにかく、周りを黙らせたい。ただ、力で黙らせてもすぐ反発しそうな連中だ。混乱を誘う方が大人しくなるだろう。
そう考え、大きく息を吸い、声に邪神の力を乗せて話す。
「頭が高い」
たった一言。瞬間、全ての悪魔が膝を着いて頭を垂れた。
「お、おい! 何をしている!? 主はオレだぞ!?」
「ちょっと止めてよ、恥ずかしい!」
急にイオへ礼儀を示した悪魔に、人間達が慌てふためく。命令だったり無理やりだったりと止めさせようとするが、悪魔達は微動だにしない。
悪魔という種は、人間よりも純粋な実力がものを言う世界だ。
故に、格上の邪神が言う事が絶対である。
主従関係が結んであったとしても、見せかけの関係と圧倒的な実力差では後者が上になる。
人を見下した物言いが一転し混乱する様は、何とも愉しい。
こぼれる笑みを隠さずにいると、目ざとく見つけた人間が文句を言う。それも取り繕えて居らず、更に笑いを深めた。
「何バカにしているのよ! 底辺が呼んだ、悪魔ですらない娼婦以下の分際で!」
「娼婦はどこから出てきた?」
「その露出に決まってるでしょ! ふしだらだわ!」
「呼んだ奴の欲望丸見えだよなぁ!?」
その言葉で、また蔑みの笑いが始まった。人を馬鹿にする為の理屈としてはなかなか面白いが、重要な点が抜けている。
むしろ、その発想に至っていない可能性が高い。イオは生暖かい目を発言した男女に向けながら、静かに問いかける。
「この中の淫魔、本性を出しな」
「「「御意」」」
返答と共に、 半数以上の悪魔が服装を変えた。
普通の服や夜会の服など様々な普通の服から、布面積が少なく扇情的な服へ。一番つっかかっていた少年の悪魔など、服と言うより紐である。
「「ぎゃあああああああ!?」」
「さっきの言葉、丸々返すよ」
更なる混乱が楽しくなり、頬が緩んでいく。食事にはならないが、喜劇としては満点だ。
まだ観劇していたいが、そろそろこの世界の実情が知りたいところだ。
「ブルーノ。話を聞きたいがいいか?」
「勿論。ですが、提案が一つ」
「何だ?」
「私の拙い話はいつでも出来ます。ですが、他者が契約する悪魔とはこの場を逃すと難しいかもしれません。何せ、輪から外されている私が召喚した悪魔ではない人物。悪魔への最初の命令は私への無視だと、笑い合っていた人達です。私諸共に無視せよ、等と命令をして、情報制限をする可能性があります」
「なるほど。悪魔側の事情を知るなら、今がベストか」
「そうなります。皆、契約したばかりで、悪魔への命令は何もない状態すので」
的確な助言で有難い限りだ。イオは周囲の力関係を探知する。一番強い奴に聞けば話は早い。
チラリと探知に引っ掛かるブルーノを横目に、一人の悪魔に目をつけた。
この場で唯一の大人の傍にいる、猫目に迷彩服という珍しい服を着た男悪魔だ。
「そこにいる奴、話を聞かせてもらうがいいな?」
「承知した」
「ティガル! 主である私を差し置いて何を言う!? おい、ホラ吹き小僧! 貴様は下僕も抑えられんのか!?」
「『お前の様な嘘しか吐けない愚図が、悪魔を使役できるのか?』、『きっと扱いきれずに食い殺されるだろうな! そうなったら、ファルケー家も大助かりだろう!』。先生の仰った通り、私には扱いきれないようですね」
そう微笑むブルーノの顔は、先生とやらには誰よりも悪魔に見えただろう。見る見る顔を赤くしていく。
良い性格をしているものだ。イオはティガルと呼ばれた悪魔を近くに呼び、ジャピタに指示する。
「アタシらを囲むように防音の壁を作ってくれ」
「カベ?」
「ああ。いつもの透明な物ではなく、視界を遮断する物で頼む」
「ハーイ」
返事と共に、魔法を展開したらしい。魔法陣の外が真っ白に染まった。喧しい音が急に消えて、突然の静寂に耳が痛くなる。
それが落ち着いてからブルーノとティガルを見る。二人共、魔法に感心していた。
「素晴らしいですね……発動までが早く、強度も高いと見えます」
「ああ。流石、『世を渡る大災禍』様だ」
まさかの言葉が飛び出て、イオは驚きを隠せない。ティガルの目はしっかりとジャピタを捉えている。
当の本人は自分の示す言葉だと思わず、特に変わった様子はなかった。
「その単語を知ってる奴がいるとはな……」
「悪魔は外傷以外では死なず、力の差に従順だ。それ故に、格上の存在は後世まで語り継がれるのだ。『世を渡る大災禍』様については、9450年前に天界を滅ぼした原因だと伝わっている」
「悪魔と対を成していた、天使が滅んだ原因がこの方ですか? 歴史的な対面に感謝しかありませんね」
ブルーノの笑みは変わらないが、声が弾んでいる。歴史に興味があるようだ。
ティガルはそれを横目に一瞬だけ入れ、すぐにイオとジャピタに視線を戻す。
「さて、俺は何を語ればいい?」
「悪魔が力のない奴に従っているこの現状、アタシが呼ばれる様な復讐者の心当たり、とりあえずはこの二点だ」
「承知した」
ティガルは軽く会釈をしてから、話を始めた。
薄着=エロスな世界。
あくまでこの世界の話であって、厚着からのチラ見せやコスプレもまたエロスだと思う。