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更新再開です!
イオとジャピタは、次の餌を求めて時空間を進んでいた。
いつも通り退屈な道のり。見飽きた変わらない景色よりも次の世界の景色を考えていると、不意に身体が引っ張られた。
「ウェッ?」
「え?」
時空間の流れとは違う。
急に強い力で、どこかに引き寄せられていた。渦や竜巻に呑まれた感覚に似ている。抵抗もままならず、徐々に身体が強制的に動かされる。
「ジャピタ!」
「ワカラナイ! ワカラナイ!」
イオの呼び掛けに、ジャピタは混乱した様子で喚いた。突然の事態に、ただでさえ持っていない冷静さが消えている。
正直、イオも同じ位に焦っており、上手く考えがまとまらない。吸引力は強さを増していき、移動の速さも増していく。
「何が起きている……!?」
「ワカラナイ! ワカ……アレ?」
「どうした!?」
「サキ、エサ、アル!」
そう叫び、ジャピタは顔を輝かせながら流れに身を任せた。脱力した身体はあっという間にイオよりも先に行く。
不可思議な現象が起き、自分達の餌の一つが関わっている。
都合が良すぎだ。にわかに信じ難いが、ジャピタが食事関係で間違える訳が無い。
そう考え、イオも僅かな抵抗も止めた。途端に、ジャピタに追いつく程の速さで流れていく。
少しして、進行方向に一つの世界があった。このまま行けば、強制的に入る事になる。
顔をジャピタに向ければ、首を縦に振った。あの世界が吸引の源で、餌の一つらしい。
「さて、何が出るかな……」
下唇を舐め、期待に胸を膨らませた。
わざわざ、邪神を呼び寄せたのだ。心踊る様な楽しい復讐劇を堪能したいものだ。
勢い付けで世界へ飛び込む。慣れ親しんだ感覚を頼りに、侵入に合わせて力を押さえ込んだ。
偽装した直後、硬い所に落下して尻もちをついた。衝撃の鈍痛を堪えながら、辺りを視認し始める。
歳若い少年少女が多い。白を基調とした制服は、全員が同じ所属だと示している。
見た目と服のデザインから、学校や学園といった学び舎に通っているようだ。何故か一様に蔑みの表情をしている。そこは非常に不愉快だ。
それよりも、一人一人に寄り添っている存在が厄介である。
黒や赤、紺や青褐色の肌。山羊や羊の角を持つ者、蝙蝠の羽を持つ者。
鋭い爪や牙、尾を持つ者、中には頭部や下半身が違う生物の者もいる。
悪魔。強い魔力を持ち、悪を象徴する存在だ。
強い魔力により変異した人とされる場合があるが、この世界では個別の種族のようだ。
イオ達が格上と肌で感じたらしく、人間達とは別の意味で唖然としている。
今度は遠巻きに見ている者ばかりの中、一人だけ近い人物に目を向けた。
チョコレート色の髪を肩で切りそろえた、中性的な顔立ち少年だ。髪と同色の瞳には、他の人間と違って驚愕だけが浮かんでいる。
線の細い身体も相まって、男とも女ともとれる見目だ。制服が男物でなければ確実に迷った。
まだまともそうな少年に声をかけようとした瞬間、誰かが吹き出し笑う。
それが合図となり、周りにいた少年少女達が爆笑し始めた。
「だっせぇ! さすがホラ吹き野郎だ!」
「悪魔もまともに呼べないなんて! バカだわ!」
「見てぇ、あの悪魔モドキ! あーんな肌を露出して、娼婦より酷いわぁ!」
「才能なしじゃん! 学院辞めちまえ!」
嘲笑の合間に罵倒。
イオからしてみれば、人間達の方が愚かしい。現に、悪魔達は揃って青ざめている。自分達よりも格上の存在が嘲笑われている現状を、正しく把握しているようだ。
耳障りな笑い声の中から拾った情報から、改めて地面を眺める。大きな円の中に幾何学的な模様が描かれており、一番近い少年も円に入らないように立っている。
悪魔召喚の儀式。
どうやら、それに呼ばれてしまったようだ。
召喚というと、二種類の方法がある。
魔物など同じ場所に住む生物を従属する物と、悪魔や天使といった強大な力を持つ生命体と契約する物。
周りを見る限り、今行われているのは後者だ。
後者の場合、他空間から呼び出すとも言える。世界の入口は一つでも、複数の空間が重なっている事はたまに見かける。
実際は同じ空間だが、軸が異なって見えない状態。そこに穴を開け、違う軸にいる別種を自分達がいる軸へ連れてくるのだ。
それを大勢で行っていると、何らかの宗教が関わっている可能性が高い。
だが、ここの少年少女達からは、そこまで宗教などにのめり込んでいる様子は見えない。
他にも違和感はある。主従関係が可笑しい。
明らかに悪魔達の方が力を持っているが、止めない所を見ると契約主は人間達の方だ。
簡単にひっくり返して逆にする事も、気に入らないと殺す事も出来る。それを誰もせずに大人しく付き従うなど有り得ない。
「ジャピタ、どうおも」
「勝手に喋ってるわぁ! 程度が知れるわね!」
笑い声が収まるどころか、どんどん大きくなっていく。あまりにも煩い。自分の額に青筋が浮かんでいると実感できる。
どう黙らせてやろうか。そう考えていると、目の前の少年がゆっくりと口を開いた。
「申し訳ございませんでした。悪魔より上の方、ですね。私の中でも、そう感じます。周りが煩わしいとお思いでしょうが、何でも口にしないと気に食わない性分の人達ばかりでして。何卒、ご容赦ください」
儚げな微笑を浮かべながら、なかなかの毒を吐いている。いい目をしていると、イオの中では高評価だ。
周りの少年少女は何故かこの少年を馬鹿にしているが、状況判断や能力としては一番上だ。
それを理解していない連中に一線を引き、内心見下ろす事で余裕を得ているようだ。
召喚主がこの少年で良かったと改めて思う。
今回、主軸に同性愛が含まれます
なるべく軽い表現にしますが、苦手な方はご注意ください