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「アンタはナルヒェントの力が気に入らないのか?」

「……はい。より良い未来を掴む為に必死に生きている人々を、嘲笑っている感覚がします。持ち主が兄上だから、余計にそう思いますね」

「アイツの性格上、自分の為にしか使わない気がするな」

「その通りで、兄上はもう既に使っています。自分の欲望の為…………尚且つ、貴女方を疑った理由でもあります」


 唐突な話に繋がりが見えない。首を傾げるイオに対し、オーフェントは言いにくそうに目をさ迷わせて口ごもる。

 そして、深呼吸をしてから一気に言葉にした。






「兄上は()()()()()()()寿()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。そして、()()()()()()()()()()

「…………は?」






 思わず低い声が出たが、致し方ない。何せ、オーフェントの言葉に想定外の内容が混ざっているのだ。


 力の付与は、まさにクリスタが陥っている現状だ。寿命に関しては初耳だが、本人は何かしら感じ取っているかもしれない。

 大抵、龍人は長命だ。それと同じ寿命だとすれば、人のいる場所に長くいては不審がられるだろう。

 ハンナにかけた最後の言葉は、このままどこかに去るという意味合いだったかもしれない。




 それよりも問題は、番を匿っているという事実だ。クリスタは囲われるどころか放置されていた。話が合わない。




「番の事について詳しく」

「詳しくと言われましても……実は、僕どころか両親も会った事がありません」

「はぁ!?」

「わかる限りで、ご説明します」


 軽く一礼をし、オーフェントは話を始める。




 ナルヒェントが番を見つけたと両親に報告をしたのが、約二十年前。

 すぐに連れてくるようにと両親は告げたが、ナルヒェントは拒否したという。国を総べる相手に恐れ多いと謙遜しているらしいが、特にオーフェントに会いにくいとほざいていた時点で怪しい。

 オーフェントの二つ名を知る者からすれば、避ける事は何らかの嘘をついているという証だ。


 その点を指摘したが、浮かれたナルヒェントは聞き入れない。その上で、固有魔法を番に対して使ったと豪語していた。

 両親が取り繕う事なく唖然としており、ナルヒェントのやらかしに腹と頭をそれぞれ痛めていたようだ。

 自分の所有する土地に豪勢な屋敷を立て、そこに番を住まわせる。番は贅沢が好きらしく、ナルヒェントは高価な物を買い与えていた。そこもまた、オーフェントの不信感を買う。


 その生活が暫く続いていたが、ある日を境に高価な物の要求がなくなった。

 ナルヒェントが番の良さを力説しなくなり、側近二人とコソコソと出かけるようになった。

 それが凡そ一年前だという。


「…………番は見つけにくいものだろ? 子供が見つけてきたなら、親は普通は喜ぶはずでは?」

「通常ならそうですが……ちょうどその時、恥ずかしながらこの国で『番惑香(ばんわくこう)』という代物が出回ってまして……」

「名前からして嫌な予感しかしないが、どういう物だ?」

「嗅覚から番だと誤認させる、獣人の国で危険薬物と指定されている香水です……」


 オーフェントも察したらしく、口を閉じる。イオも同様で、何も言えない。




 ナルヒェントが番を見つけた時期、隠れて外に出始めた時期。誰も見た事がない番と、止まった贅沢に番惑香。




 最悪の想像しか頭を過ぎらない。重い空気に、ジャピタも分からないなりに俯いている。

 クリスタも、簡単に想像できているはずだ。何も言わないままクリスタの表情を伺い、イオは釘付けになった。



 口元に大きく弧を描いている。



「ふふっ」


 耐えきれないとばかりに、笑い声が漏れた。次の瞬間、クリスタは大声で笑い始めた。


 突然の奇行にオーフェントは驚き後ずさる。ジャピタも驚いたらしく、瞬く間に腕からよじ登って首に巻きついた。

 震えるジャピタの肌を撫で、イオは冷静に笑い続けるクリスタを眺める。響く笑い声の意味を、理解している。


 負の感情が渦巻き合い、抑えられる容量を超えてしまった。

 だが、ぐちゃぐちゃに混ざった感情を表す方法が見つからず、狂気を含んだ笑い声を上げるしか出来ないのだ。

 どこも映さない瞳がより一層哀れである。


「やっぱり! やっぱり! あの人、自分勝手! 嫌い! 嫌い! 私の人生! 返してよ! 許さない!」


 高笑いの合間に、憎悪の言葉が混ざる。下手に刺激したくない為、ただ落ち着くまで眺めるだけだ。


 その時はすぐに訪れた。


 仰け反っていたクリスタが急に動きを止める。糸が切れた操り人形の様に物静かになり、逆に不気味である。

 上体を俊敏に起こし、狂気に満ちた笑みを浮かべた。

 小さく悲鳴を上げるオーフェントを他所に、クリスタはイオの手を掴んで近づいてきた。ギリギリまで近づき、耳元で話しかけてくる。


 親友同士が行うような内緒話の体で、クリスタが紡ぐ話は復讐方法とその対価かについてだ。


 全てを伝え終えたクリスタがイオから離れる。足取りは軽やかで、どこか楽しそうで、()()()と思わざるを得ない。


「ねぇ、今の、お願い、できる?」

「……()()()も、対価でお釣りがでる程だから問題ない。だが……アンタは本当にそれでいいか?」

「はい! 邪神様、早く、取引、ふふっ」


 虚ろに目を輝かせるクリスタ。意思は固いようだ。

 邪神という単語で凝視してくるオーフェントの前で、イオは力を解放した。元の姿に戻ったイオに、クリスタは食いつくように叫んだ。


「お願い! ジャンス:ピール:カブター様!」


 歌う様に復讐を願うクリスタがあまりにも不安定で、イオは取引成立だと微笑みその頭を撫でた。


獣人は嫌い

あの人はもっと嫌い



絶対に、許さない

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