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あけましたおめでとうございます!

連載再開します!

 



 入り口を抜けると、そこは修羅場の真っ只中だった。





「さ、魚の獣人が落ちてきたぞ!?」

「新手か!?」

「慌てんじゃないよ! 敵が増えてもやるこたぁ変わりない!」


 狼狽える人々に檄を飛ばす中年女性。十人前後の人は家の前で、武器を構え立ちはだかっている。

 だが、普通の衣服に獲物は鍬や鎌という農具。ただの村人と一目でわかる。


「タハハハハ! やはり天運我にあり!」

「流石です殿下」

「おい! 早くこっちについて奴らを蹴散らせ!」


 対して余裕綽々な男三人。独特な笑い方をする男が中心に立ち、殿下と呼ばれていたから王族だろう。

 眼鏡を掛けた青髪の知的な男は殿下を称え、刈り上げた赤髪の野性的な男が命令する。役割分担のできた従者達だ。


 その二人を従える殿下とやらは、一言で言えば金色だ。


 髪も目も、豪華な服も鎧も、全てが金色で太陽光を反射する。正直、視界に入れる程に目が痛い。

 その三人共に、形は違えど角や尾がある。



 イオを仲間だと勘違いしている事から、三人は獣人。それも、龍種と見れる。



 獣人はその名の通り、人間と他の動物の特徴を合わせ持つ種族だ。何処の世界でも見かける、かなり普遍的な種族。

 人狼のように、決められた獣と人の特徴を持つ種だけを指す言葉も生まれるくらいだ。

 イオの種である人魚も、広義で言えば獣人だ。魚類ではあるが、細かく区別されることは無い。


 大抵は人型で生活し、自分の意思で力を解放できる者から特別な条件下で勝手に解放する者と、世界によって様々な差が出る。


 イオは魚の力が日常の一部となっており、固定されている。どんな状況でも、魚の力はコントロールできない。尾を足に変えられる人魚もいるが、イオがいた世界ではなかった。

 この辺りが、人魚が獣人から区別された理由でもあるだろう。




 数多の獣人の中で、龍の力を持つ龍人は頂点に君臨している事が多い。それ程、龍の力が強いのだ。




「何をしておる! 早う、我らに加勢し、脆弱な奴らを屠れ!」


 力の強さの現れで、プライドが高い龍人は多い。今まで何人も見てきたが、目の前の男が一番態度がでかい。

 改めて周りを確認すると、龍人が魔法を使った形跡がありありと残っている。

 木々が倒れ、えぐれた地面。

 森の中のこじんまりとした家という、御伽噺に出てきそうな風景がめちゃくちゃだ。おまけに、村人達は怪我や泥汚れで満身創痍である。


 ろくに対策していない一般人に、容赦なく魔法を放つ態度が大きい龍人。


 個人的には前者を応援したいが、 餌の居所でイオの立ち位置は決まる。

 ジャピタに餌の方向を聞こうと目を逸らしたら、また怒声が聞こえた。


「我から目を背けるとは、なんという愚か者だ! 天運龍ナルヒェントと分かっての狼藉か!?」

「いや、誰?」


 反射的に返せば、ナルヒェントと従者二人が固まった。代わりに、村人側から思いっきり吹き出し笑い飛ばす者がいる。

 最初に喝を入れていた中年女性だ。白髪混じりの茶髪に恰幅のいい体型。村人達の中心人物だろう女性は清々しく笑った後、真剣な顔でイオへ叫んだ。


「ちょいとあんた! そこのスカポンタン、番を理由に人攫いしかけてんだ! 獣人至上主義で番探しなきゃあ、こっちに味方してくんないか!?」

「何を言う老害! 番は獣人の側にいてこそのモノだろう!」

 



 この世界では、番が存在するらしい。かなり重要な情報だ。





 獣人の本能が求める存在。それが番だ。

 同じ獣人の時もあれば、別の種族の場合もある。

 見つけられる可能性は低く、まだ見ぬ番を求めて彷徨い続ける獣人もいるが、多くは恋をした相手と家庭を築く。

 だが、どれほど配偶者を愛していても、番と出会ってしまえば本能が番を求める。

 激しい渇望に襲われ、番しか考えられない。その所為で暴力的になり、幸せな家庭は崩壊する。


 また、番が別種族だとさらに厄介だ。


 こちらと違い、向こうは番という概念がない。重すぎる愛に逃げたり、他の人と恋に落ちたりと、獣人と同じ位に愛情を返すかは不明。



 番は獣人にかけられた呪い。そう自虐する獣人も少なくない。



 だが、このナルヒェントは逆。獣人は番の物で、側にいて当たり前という獣人至上主義だという。

 それは先程の反論でも物語っている。状況と話から、家の中に一つだけいる気配が、ナルヒェントの番なのだろう。

 出入口はもちろん、窓も固く閉じてカーテンで覆われている。それだけ怯えているようだが、それがナルヒェントだからか獣人だからかはまだ分からない。

 兎にも角にも、餌側につかなければ意味が無い。



「ジャピタ。アタシらの()()、相手はどこだ?」



 大勢の前で復讐者、取引相手など言えない。それでも、イオ達の目的を考えれば、これだけでも伝わる。

 三秒程の時間をかけて意味を理解したジャピタは、頭を一方向へ伸ばした。


「アッチ。()()()()()

「へぇ。すぐに会えるとは、有難いな」

「ラッキー」


 ジャピタの言う通り、かなり運がいい。イオ個人としても味方をしたくない方を避けられ、復讐者の事情に詳しそうな人々が集まっている。

 ここで協力すれば、急な来訪者への警戒も薄れるだろう。

 良いことばかりで、つい口角が上がる。


天運:天から授かった運命。天命。

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