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11※

同性愛表現がでます。ご注意ください

 

 悪魔が糧とする人の欲望というのは、基本的にはイオ達の餌でもある負の感情が元だ。

 しかし、望まれた事は真逆の人々の笑顔。それも世界中と規模が広い。悪魔という種でこの望みが叶えられる方が珍しい。


 そうして否定する悪魔に、一つ目の願いが効力を発揮した。


 力を得たロクーラはカイロスサーカス団員を次々と集め、ここに設置し、イルティパークを開園した。

 涼しい顔でなんとも恐ろしい策を巡らせたのだろう。そこで、どこか悲しげな瘤の目玉と視線が合った。

 嫌な予感がする。


「……もしかして、この樹が悪魔か?」

「ええ、元悪魔ですわね」


 恐ろしい事実をさらりと口にする。そこに罪悪感など微塵もない。相手が悪かったと、心で見知らぬ悪魔に合掌する。





「な……んで……」





 不意に、上から声がした。見上げれば、銀髪の男が虚ろながらも必死にこちらを睨んでいる。

 その瞳には、身勝手な憎悪が見えた。







「な、んで、あの愚図を信じ……ん、だ、あ゛あああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!」







 煩わしいとロクーラが腕を振るうと、男の声高な主張は悲鳴へ変わった。絶叫を背景に、ロクーラは肩を竦める。


「これ、私の話を聞く耳持っていませんの。イルティの悪口ばっかりでうんざりですわ」

「アンタにとっては憂鬱だろな」

「そう! そもそもあの嘘、イルティを知る人が信じるわけありませんわ」

「うそだうそだうそだぁあああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!」

「サーカス団員が口ごもってたから、気づいていないだろ」

「ナニー? オシエテ」


 興味を持ったジャピタが問いかけてくる。丁度、見つけた手がかりにも関わる事だ。

 上にも聞こえる声量で、ジャピタに返答する。


「わかりやすいよう、四つのポイントを先に話すぞ」

「ハーイ」

「一つ。アンタ、このパークでイルティが他の呼び方されているところを見たか?」

「ナイ。ナマエ、ピエロ」

「二つ。ロードコースターで見つけた文章だ。アレ、一人称の事だろ?」


 ロクーラに問いかければ、にこやかな笑みで頷いた。合っているようだ。


「イチ、ニン……」

「『私』や『俺』みたいに、自分を指す言葉だよ。男女どちらかが使う事が多いだけで、どちらかだけしか使えない言葉はない。だから、赤色と青色を併せて紫色。ジャピタ、イルティの一人称は覚えているか?」

「『オイラ』!」

「それも、明確に男女分けられているものではない。三つ。冤罪をかけられたイルティと擁護したロクーラ。二人揃って、『してない』ではなく『出来ない』と言っている」

「チガウ?」

「ニュアンスが少し違うな」


 今回の場合、自分の意思で行っていない前者と、理由があって行っていない後者。

 まだ頭を抱えるジャピタに、最後の手がかりを示す。


「四つ。ロクーラの新聞記事だ。大人の異性に暴行され、夢に出るまで恐れていた状態だ。そのロクーラと護衛騎士が、楽しませる目的とは言え、見知らぬ異性を近づけるか? 懐くか?」

「アッ!」


 ようやく、ジャピタも合点がいったようだ。上からも息を飲む音が聞こえる。

 それを確認してから、結論をはっきりと告げた。






()()()()()()()()。だから、ロクーラも警戒せず懐き、シェールに暴行していないという証明になる」

「お見事ですわ」






 ロクーラの小さな拍手が部屋に鳴り響く。静かになった上を見れば、目を限界まで見開いて口だけを動かしていた。


 本当に気づいていなかったらしい。


 少年らしい少女など珍しくなく、そもそも団員達は知っていたのだから言えばよかったのだ。

 その思考を読まれたか、賞品の蝶ネクタイを渡しながらロクーラが告げる。


「あの人達、わざと黙っていましたのよ。団長の指示で、イルティを追い出したいバジルの手伝いをしろと」

「事件自体が嘘か」

「ええ。流石に、暴行未遂を装うなんて知らなかったようですわ。クラウンに憧れる視線を、女への欲情と勘違いするなんて穢らわしい」


 最後の言葉は、今まで以上に冷ややかで怒りが詰め込まれていた。もしかしたら、クラウンへの憧れではなく、バジルへの無意識の恋心だったのかもしれない。

 だが、性別関係なくイルティを愛するロクーラはその事実を受け入れられず、憧れだったと自分に言い聞かせている。

 そこを追求するほど、野暮ではない。それよりも気になる点について尋ねた。


「そもそも、団長が容認した理由が分からない」

「簡単ですわ。愛する妻が死に際に放った言葉で浮気と托卵を知り、捨てるには惜しい道化師の才能。孤児として育てたものの、日に日に妻に似ていく娘の姿に、やるせない憎しみを抱え続ける。追い出せるのなら、この本にでも手を伸ばしたでしょうね」

「なるほどな」


 死んだ妻を憎みきれず、愛した女と知らない男の子供を見続ける。その苦悩が蝶ネクタイに染み付いたようだ。

 サーカスの繁栄を願って捨てない選択をしたが、自分の感情をコントロールしきれず、結果としてサーカス団を潰した。


「欲張りすぎたな」


 どこかに吊り下がっている団長にそう告げてから、帰る準備を始めた。


このどんでん返しの為に同性愛タグのつけ所に迷いました

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