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謎解きゲーム後半戦
「ワカッタ! ワカッタ!」
「解けて嬉しいからって揺らすな!」
「ゴメン。ホノオ、ミタ! ライオン!」
興奮を抑えずに伝えてくる場所は、『正解』の場所だ。
楽しみのピエロが言っていた、炎の演出が関わる場所。火の輪くぐりのライオンに乗る回転木馬だ。
笑みを浮かべて当たりだと伝えれば、更に喜び浮き足立った。
善は急げとばかりに、ジャピタが椅子を動かす。それでも先程の忠告は覚えていたようで、速さは丁度良かった。
今まで同様に、入口付近かつ人の目がない所にまた紙が置いてあった。
「マタ、オナジ?」
「飽きたか?」
「ナゾ、タノシイ。カミ、カナシイ」
「向こうが用意した謎だからな。嫌なら、終わってから文句を言うぞ」
「オー」
「それと、あまり見ない形の記事だ。よく読み込むから、そこの出店で好きな物を買っていいよ」
「ヤタァァァァ!」
気分の変動がいつも以上に激しいと思いつつ、ジャピタの手に硬貨を置いた。すぐそこにある飲食店で二、三つ買える程度の金額だ。
手の中の硬貨をしっかりと握りしめ、スキップしそうな勢いで店へと向かう。完全に子供と同じである。
呆れつつも静かになったところで、イオは手に入れた紙へ目を通す。
手書き新聞の一種に思えるが、珍しい内容だ。
何せ、見出しに堂々と『亡骸情報』と書かれているのだ。
一面の紙面に、十数人の推定年齢や服装、特徴や見つけた地点などが書かれている。
どうやらこの記事は、身元がわからない死者の情報を出し、遺族を見つけ出す為に執筆されているようだ。
基本的に、野垂れ死んだ遺体は一定期間後、まとめて共同墓地に埋められる世界が多い。わざわざ紙面で遺族へ報せるとは、知っている中では初めてである。
物珍しいと無言で読み進める中、イオは一人の死者情報に目を止めた。
赤と黄色の服を着た、二十歳未満と思われる遺体。
発見場所は川の下流。腐敗が早く、それ以上の情報不明。
「これ、イルティか。追放された後だろが、何時かは分からないな…………」
手を口に当てて、小さく呟く。新聞記事なら日付があるはずだが、ゴシップ記事もこちらの記事も書いてなかった。
上部や下部に千切った形跡があるから、ロクーラが設置の際に切り取ったのかもしれない。
「人形劇に謝罪シーンがなかったから、行方知らずのままか死亡かは予想していたが……身元不明者を救済するような記事があるとは思わなかっ」
「イオォォォォォ!」
「だぁ!?」
背後から思いっきり抱きしめられ、口から出た声が悲鳴に変わった。同時に、黄色い声が遠くから上がる。
ジャピタが抱きついたとすぐに理解し、首を絞める勢いの腕を引き剥がす。
「絞殺する気か!?」
「ゴメン! マネッコ、ミツケタ! コーフン!」
そう言って、イオの前に持っていた物を掲げた。カカオを使ったドーナツだが、入れ物価格を合わせた特別品である。
ドーナツの箱に絵があり、一回り大きなケースの内側につけられた鏡で反射している。中の箱を回すと、絵も一緒になって動く仕掛けだ。
その鏡を見て、答えを思いついたようだ。歓喜が抑えきれていない。
まさか、難易度が低いとはいえ、四つ全てを自力で解くとは思わなかった。
胸を張るジャピタを軽い拍手で賞賛する。
「よくわかったな。偉いぞ」
「ナデテ!」
「じゃあ、頭下げてくれ。立っていると届かない」
そう言えば、ジャピタはイオの前で腰を屈めた。期待に満ちた顔に苦笑しつつ、イオは頭を撫でる。
いつもの滑らかな感触とは違い、髪の毛が動かす度に位置がズレて擽ったい。
ジャピタがどう感じているかは分からないが、心地よいらしく満足そうに目を細めている。そのまま撫で続けて、一分程で満足しきったジャピタが立ち上がる。
それを合図に、最後の場所へと向かう事にした。
増えた人手が真似しかしない。なぜなら、鏡に映った自分自身だから。
即ち、鏡だらけの迷路を抜けるアトラクション、ミラーハウスが正解だ。
前三件と同じ様に探せば、目当ての物はすぐに見つかる。
だが、今回の品は一味違った。
「本?」
「ソレ、コッチ。オナジ」
「そうだな。ご丁寧に、人皮で作られた物だ。かなりわかりやすい」
やたらと分厚い本からは、邪神側の気配が感じられる。それも、人皮が材料だ。中身も危険な代物だと伝えてくる。
適当な所を開けば、想像通りの中身に思わず笑った。
「やっぱり、悪魔召喚の手順書だ」
「アクマー」
悪魔はどの世界においても、多かれ少なかれ人々に影響を与えている。支配、共存、迫害、妄想。異なる世界において、様々な立場に置かれている種族だ。
人の寿命を遥かに超えているにも関わらず、若いままのロクーラ。人ならざる存在の関与は明白で、悪魔である可能性が一番高いと考えていた。
その推測は当たったようだ。
ページを捲って読み込めば、この世界では悪魔は別次元の生き物らしい。
関わらずに生涯を終える人が多数の中、強い欲を持つ物の前にこの本が現れる。
多数の悪魔が載っているが、自分が望みを叶えてくれる悪魔のページが開かれているらしい。
そして、儀式を行えば悪魔が現れる。願いの叶え方、対価は各々で異なるようだ。
読み物としてはなかなか興味深い。そう思いながら読み進めれば、空白部分を見つけた。
どう記載したか不明だが、各ページには悪魔それぞれの大まかな外見が描かれている。その内の一つが、輪郭だけ残して真っ白である。
その悪魔に注目すると、名前や召喚方法が文字化けしていて解読不能となっていた。
「……ジャピタ。こういう場合、どういう事態が考えられる?」
「ショーカンチュー」
「ああ、なるほどな」
先約がいるから、召喚できないようになっている。そういった事情は、やはりジャピタの方が詳しい。返答に納得しつつ、残された情報だけを読み込む。
召喚者の願いを三つ叶える代わりに、魂を頂く。よくあるタイプの契約だ。
そういう場合は大抵、悲惨な方法で願いが叶えられることが多い。しかし、この悪魔は違うようだ。
プライドが高く、自分に自信を持ったエリート思考。
一つ目と二つ目は正しく叶え、契約者が調子に乗った所で三つ目を曲解させて叶える。
そうして絶望に陥った表情と魂を味わうと記載がある。
ならば、二つ目で止めればいい。そう思っても、欲望が制御出来るならそもそも悪魔など召喚しない。まして、願いが叶っている有頂天時に、止められないだろう。
仮に上手く止めたとしても、悪魔がわざと三つ目を叶えさせる方向へ持っていくという。
いい趣味をしている。最も、悪魔に良いも悪いもないかと、イオは本を閉じた。
兎にも角にも、これでピエロの問題は終わりだ。本を収納魔法で収め、小さく息をつく。後は集合場所へ向かうだけだ。
時間はまだあるから、ジャピタのご褒美と共にシゲキトロンの果実水を飲もう。
そう思っていると、ジャピタが遠慮がちに肩に触れる。
「どうした?」
「ショーカンチュー、ナマエ、ヘン」
「名前が書いていない所か?」
「ソウ」
言いながらこくりと頷く。その様子に、改めてイオは考え直した。言われてみれば、召喚できないからと名前まで分からなくする理由がない。
気づいてしまった不自然さは解決したいが、情報が圧倒的に足りない。
「まぁ、その辺は本人に聞けばいいだろ。『ハッピーキャッスル』に行こう。途中で欲しい物があったら言いな」
「ゼンブ、トケタ! エライ?」
「偉い、偉い」
「ワァイ!」
イオに褒められ、ジャピタは満面の笑みを浮かべる。
そのまま、ニコニコ顔でイオの椅子を押し始めた。
年内で愛嬌ピエロはエピローグまで行きそうです
その後、年始休みと別の短編挟んで再開しようかと思っています