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7

違和感を指摘する回

 

「まず、アタシらは餌を求めてここに来た。でも、実際は笑顔が目的の娯楽施設だった。ここまではいいな?」

「ウン」

「アンタが感知したからには餌、つまりは負の感情がどこかにあるはず。その気配が、このパークの動力源である魔力から感じられた。その魔力の持ち主が総支配人。なら、総支配人が取引相手と考えられるだろ?」

「ウ、ウン」

「本当にわかってるか? まぁ、いい。そう考えると、矛盾点が出てくる。みんなを笑顔にする動力源が負の感情、結びつかないだろ?」

「タシカニ」


 首を縦に振りながら、ジャピタは腑に落ちた顔をする。

 コンセプトと動力源から感じる気配のズレ。むず痒い違和感だった。

 それは解消された。ちゃちな人形芝居に答えは出ていた。


「このパークは、冤罪で居場所を失ったイルティの願いを叶える為に造られた場所だ。犠牲が必要だと分かった時、イルティを陥れた奴らなら()()()()()使()()()だろ?」

「ソッカ! パーク、ネガイ、フクシュウ、オナジ!」


 理解出来たからか、ジャピタは尾を嬉しそう揺らした。

 イルティを傷つけた連中が、苦しんだ上でイルティの夢の礎となる。一石二鳥だろう。

 ふと、ジャピタが何かに気づいたらしい。総支配人をジト目で眺め始めた。


「おやおや? それ程熱く見られたら、ワタクシ穴が開いてしまいそうです!」

「フクシュウ、ネガイ…………イルティ?」

「いや、総支配人はイルティじゃない」


 人形劇が全て真実だとは限らないが、ある程度はそのまま認識しても問題ないだろう。

 その中でイルティは冤罪で暴行、追放を受けたにも関わらず、相手を憎む様子はなかった。

 根っからの善人で、人を疑う事を知らないという典型例。

 イオ達を呼び寄せる程の負の感情を抱えた、総支配人であるとは考えられない。



 総支配人は最もイルティを想い、最もカイロスサーカス団員へ憎悪を表していた人物。




()()()()()()。劇中で一番、恨みを抱えた女だ。それがアンタだろ?」




 確信を持って尋ねる。総支配人は前屈みに腹を抱え、再び笑い始めた。

 だが、明らかに先程とは違う。




「ホホッ、ホーッホッホッホッ! ホァッ、アハハッ、アハハハハハハハハハハハハハハハハハハハフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフ!」




 途中から、声質が変わった。中年男性の声から、うら若き女の声へ。同時に滲み出てくる狂気。狂って高らかに笑う。

 そのまま、ふくよかな体から考えつかない跳躍をし、空中でその身を翻す。

 そうして着地したのは、一人の女性だ。身長や顔の造形から、およそ二十代。

 総支配人が着ていた道化師衣装は、丸みのある腹や足ではなく女性的な曲線を強調している。


 マリーゴールドの艶やかな髪が、鈴と共に揺れ動く。人形劇に出ていたロクーラの、成長しきった姿がそこにあった。


「お見事ですわ、邪神様。レドライン国、()()()の王女であった、ロクーラと言いますの。短い間ですが、よしなに」

「五代前……このパーク、開園から何年目になる?」

「百周年イベントが数年前だから、そこまで長くはありませんわ。十年も治世できず、代替わりが早かった王がいましたもの」


 さらりと告げられた事実に、口を開けてジャピタは唖然とした。外れそうな顎を元に戻してやり、イオは小さく息をつく。

 可能性の一つとして考えていた事だ。


()()()()()()()ようだな。それほどの力を持つ者が、わざわざアンタの前に現れたのか?」

「話してしまっても構いませんけど、それだと面白くはないでしょう? そこも含めて、謎を解くゲームですわ」


 両手を合わせてロクーラは笑う。仕草一つ一つが上品ではあるが、隠しきれない狂気が混じって恐ろしげに見える。

 手を頭上に掲げ、大きく指を鳴らす。刹那、ロクーラの背後に四人のピエロが現れた。


 背丈も性別も違う四人。喜怒哀楽を表したメイクが、個性的でありながら共通点となっている。


「ルールは簡単。四人のピエロがクイズを出すので、その場所を解いて向かってくださいな。その場所に謎を解くアイテムがありますわ。四つ集めて、中央の『ハッピーキャッスル』までお越しくださいませ」

「子供の遊びみたいだな」

「そうですわ。今度、行う予定ですの」

「邪神にテストプレイさせるとは、大したものだ」

「褒め言葉として受けとましょう。そちらの邪神様は喜んでいらっしゃるから、おあいこでしょう?」


 蠱惑的に口へ弧を描きながら、ロクーラが目線より少しズレた地点を指す。そちらへ視線を移動させれば、目を輝かせて体を弾ませるジャピタが映った。

 ジャピタは好きそうだと予想していたので、特に何も反応せず、ロクーラへ意識を向き直す。


「時間制限は?」

「特に決めていませんわ。どの位の難易度なのか、今回で見極めようと思いますの。とりあえずは……日没まで、凡そ三時間程度でいかがでしょう」

「構わない」


 イオの返答に、ロクーラは満足そうに頷く。そのまま、スライドするように横にズレた。

 後ろの四人のピエロが前に出て、順に口を開いていく。



「ボクはピエロ! ゆっくりジャグリングが得意!」


 喜びのピエロが言う。


「私はピエロ! 人手が増えたけど、私と同じことしかしてくれないの」


 哀しみのピエロが呟く。


「俺様はピエロ! せっかく珍しい馬が逃げやがった! 脚速い奴だくそ!」


 怒りのピエロが叫ぶ。


「あたいはピエロ! 炎の演出、用意も面白い!」


 楽しさのピエロが笑う。



「簡単すぎだろ」


 イオは冷淡に吐き捨てる。


 子供向けでも、もう少し難易度があってもいい。そう思ったが、隣から上がる唸り声で考えを止めた。

 ジャピタには難しいようだ。それがこのゲームの醍醐味だから、少し様子を見ていよう。 

 方針を決めてロクーラを見れば、目が合って微笑まれた。そして、再び腕を頭上に掲げる。


「では、開始しますわ。準備はよろしくて?」

「準備……あ! 少し待ってくれ!」


 言うや否や、先程解いた変装道具を取り出して身につけた。すでに考え込むジャピタの頭を小突き、人間の身体にとりつかせる。

 こちらが落ち着いた様子に、ロクーラが再び声を上げた。




「今度こそ、ゲーム開始ですの」




 鳴り響く指を弾く音。

 瞬く間もなく、イオ達は入園門に転移していた。


リアル脱出ゲーム的な謎解きです

愛嬌ピエロ-2に答えがあります

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