5.オリーブ視点
過去編続き
「ねっ、オリーブ! あたい、頑張ったでしょ!」
弾んだ声でいつも勝手に腕を組んでくる、黒髪を肩で揃えた整った美少女。リーダーである勇者、ファナン。
「オリーブ。今日こそオレと寝ようぜ、な?」
健康的な肉体を見せつけて迫ってくる、赤髪を乱雑に短くした凛々しい美少女。格闘家のビリィ。
「えへへ。オリーブさんみたいなカッコイイ人、ララ大好きなの」
にこにこと幼い笑顔で抱きついてくる、桃色の髪をツインテールにし美少女。魔法使いのララ。
「オリーブ様ぁ。お怪我はぁ、ありませんのぉ? よろしければぁ、そこでぇ、見させていただいてもぉ?」
間延びした口調と妖艶な笑みで服を脱がせようとしてくる、銀髪を腰まで伸ばした美女。修道女のミズリーナ。
全員がオリーブを手に入れようと積極的に動く。
その度にヘレナの事を告げるのだが、都合よく聞き流してアタックしてくるのだから迷惑でしかない。
パーティーメンバーとだけあって、四人がオリーブを巡って本気で争うことは無い。
その分、オリーブが四人共有の異性というような扱いだ。
魔王級に備えるべき修行の旅なのに、浮かれきった四人は戦闘よりもオリーブを連れて街に繰り出す方に精を出す。
本当に迷惑だ。
方向性の違う美人四人を連れていると、他の男性達の嫉妬に満ちた目が突き刺さる。
代われるものならそうして欲しいと、本気で思った。
いつしか、オリーブには『氷の貴公子』という渾名がついていた。
それが仲間達の猛アタックに微動だにしないことが由来と聞いて、鼻で笑ったものだ。
『勇者パーティー』結成から一年。旅は予定よりも大幅に遅れ、オリーブには苛立ちが募っていた。
まだ魔王級は誕生していないが、今のパーティーでは勝てないだろう。最適な方法での戦いより、自分の活躍をオリーブに魅せる戦いになっているのだ。
苦言しても、四人は聞く耳持たない。魔王級よりもオリーブが目的になってる四人に、不快感しかなかった。
一年もよく持ったと自分では思う。パーティーからの逃走という考えが頭から離れない。その時だった。
貿易が盛んな街で、居並ぶ行商人達の中に仲間の姿があった。もちろん、最愛のヘレナもそこにいた。
「ヘレナ!」
「え、オリーブ!?」
顔を輝かせて、ヘレナの元に駆け寄り華奢な体を抱きしめた。久しぶりの最愛は愛らしさが増しており、会えなかった一年間が勿体なさすぎる。
「ああ、相変わらず愛らしいです……いや、むしろ前よりも愛らし過ぎて、悪い虫がついていないか心配になります!」
「オリーブったら、そんな事ないよ? でも、元気そうで良かったわ」
「私も嬉しいです、ヘレナ……!」
仲間達が囃し立てる声を聞きながら、頬や髪に手を滑らせ唇を落とす。他の人々はざわめいているようだが、関係ない。
ヘレナとの至福の時間は、金切り声によって切り裂かれた。
「オリーブ! その女は何!?」
ファナンの叫び声。ヘレナを目にしてから、完全に忘れていた。
表情を消して振り返れば、四人が目尻を吊り上げて睨んでいる。
「あたい達がいるのに! 他の女に微笑まないでよ!」
「ファナンの言う通りだ。オレ達にそんな笑顔、見せたことないってのに」
「そんな地味女より、ララ達の方が可愛いの。美人さんなの」
「そうですわぁぁ。オリーブ様はぁ、騙されてぇ、いますのねぇ? アタクシがぁ、すぐにぃ、治して差し上げますわぁ」
悪意を突きつけられ、ヘレナの顔が曇る。限界までか細くなっていた我慢の糸が、プツンと切れる音がした。
「私の最愛への暴言は止めていただけませんか? ヘレナは素晴らしい女性です。私に媚びて、まともに戦闘もしない貴方達の足元にも及びません」
「なっ……!? あたい達よりも、そっちがいい訳ないじゃない!」
「あります。いい機会なのではっきり言いますが、私はヘレナしか興味ありません。なので、今後一切、そういった行動は止めてください」
「そんなのおかしいの!」
「おかしくありません。そもそも、魔王級を倒す為の力をつける旅だというのに、仲間に色目を使う方がおかしいです。相手がいないならまだしも、婚約者がいると何度も伝えている相手に無理強いするのが勇者パーティーですか? このままで、魔王級を倒せると思いますか? ヘレナとの結婚を控えていたのに、女神に無理やり仲間に入れられただけでも嫌だったのですよ? もう、私は早く旅を終わらせてヘレナと幸せに暮らしたいのです。貴方達が私への色事でまともに戦わないのなら、この場でパーティーを離脱させてください。前から考えていました。答えは?」
口が止まらなかった。
想像以上に溜まった鬱憤に、ヘレナを傷つけられた怒りが加わって、自分でも止めようがない程だ。
早口で畳み掛けたからか、四人は顔色を悪くして小さく否定だけする。
普段は向こうから反論されれば、そこで折れて話は強制的に終わった。それはオリーブが説得も無駄だと諦めていたからだ。
しかし、話が終わったところで、抱いた感情は消えないと思わなかったのか。
オリーブなら全て受け止めると、よく分からない妄想を信じていたのか。
どちらにせよ、限界は超えた。
勇者達に背を向けるオリーブを、ヘレナが優しく手を繋いでくれた。伝わる体温が、とても心地よかった。
だが、終わらせた話に第三者が無理やり割り込んでくる。
「栄誉ある『勇者パーティー』を私欲で離脱など、女神様への不敬」
「唆したとして、行商人達も同罪に当たります」
「女神教を敵に回して、行商が滞りなくできるとお思いですか?」
「他の四人は泣いておりました。許す優しさはないのですか?」
「そもそも、エルフが女神様に選ばれた事を誇りに思っていただきたいですが」
宿で離脱の準備をしていたところに押し寄せ、好き勝手に告げる神官達。四人の姿が見えないと思ったら、上に嘯いて泣きついたようだ。
女神教は人間を中心に広がっている。
その為、亜人を不信心者と嫌う神官居もいると聞いたが、それが露骨に出ている。更に、信者の多いこちらを敵に回したらどうなるかと脅しも含めていた。
あまりの言い分に、オリーブは自分の思うままに言葉を発した。
「女神が何を持ってして選んだのかは知りませんが、恋人と引き離されてこちらはいい迷惑です。挙句に脅しとは、平和的では無いですね。無理やり好意を押し付けてきて、魔王級を倒す為の旅ではなく遊び気分の旅をしたのはその四人です。それについては、教会へ何度も相談しましたよね? 私の訴えは突き放して、限界が来た私を諭すなど教会はおかしいのでは?」
事実だけを淡々と述べただけだが、神官達は真っ赤な顔で反論する。
話にならないので追い返した。
ハーレムって男女問わず、中心の人が望んでいないと地獄みたいだよねと