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8

 

 今回の修行は体力だった。


 決められた時間をずっと一定速度で泳ぎ続けなければならず、速度を落とせば鉄のスクリューにその身を刻まれる。

 犠牲者は一人だけだったが、尾から削られる音と凄まじい断末魔はしばらく忘れられないだろう。


「イオ〜」


 部屋に戻ると、壁からジャピタが現れた。イオが修行で居ない時、ジャピタはどこかに行っている。

 それでも、帰還を察知して部屋に戻り、イオを出迎えてくれるのだ。その姿と声に、やっと一息つく。


 帰りを待つ者の存在に、心の負担がかなり和らいでいる。周りに人魚達がいる為、声は出せないが笑みを返した。


 定位置である部屋の隅に座り、周りの人魚が寝静まるまで待つ。最近、人魚達の鋭い視線が強くなった。イオの変化を快く思っていないようだ。

 悪い方ならともかく、良い方への変化は敵視している身としては面白くないらしい。

 それでも、体力修行で疲れた身体はすぐに夢の中へ向かった。全員が寝静まったと確信してから、イオは改めてジャピタへ返答した。


「イオ、ツカレタ?」

「ああ。言葉通り、体力をごっそり持っていかれるからな」

「カイフク〜」

「いや、いい。不正だなんだと騒がれる原因になる」


 好意は有難いが、下手に隙を見せられない。

 前回の直感修行以降、イオのグループが修行する際には必ずサングラスがいるのだ。

 不正を暴こうとしているのか、細工でイオが失敗する様を待ち望んでいるのか。どちらかと言えば、後者がメインだろう。


 あれから、陰湿な細工は続いている。どれもが周りからは分からないが、成功の難易度を上げるものばかりだ。


 隠蔽に重点を置いている分、なんとかクリアできている状況である。体感的にだが、今回の体力修行では水流が他の人魚よりも速かった気がした。

 何とかしようにも、良い策が思いつかない。終わりの見えない防戦一方。しょぼくれたジャピタを撫でつつ、イオは大きくため息をついた。




 ここから出たい。

 ジャピタにそう願えば、叶えてくれるだろう。だが、外の世界の事を何も知らない。

 その状態で外に出た所で、身の安全は保証できない。何かしらの情報が欲しくとも、その術もない。

 この場に居続ける事が、今取れる選択肢で一番まとも。





 自由の無さに落ち込むイオに、ジャピタはにっこりと笑顔を向ける。


「ダイジョウブ! ダイジョウブ! ()()()()()()()()()()()()

「え、それはどういう」


 ジャピタが軽く告げた内容は流せるものでは無い。詳しく聞こうとしたが、問いかけは最後まで紡げなかった。






 部屋の床が急に光り出した。それが転移の魔法陣だとわかった時には、景色が変わった。






 見慣れた修行場所。目の前には、横に居並ぶ人間達。周りには、困惑する人魚達と魔法を使った人間数人。

 その中で数人の人魚は事態を飲み込み、顔を青ざめていた。

 もちろん、イオにも心当たりがある。




 ()()()()だ。




 人間達の中央にいる、一段と威厳のある男が口を開いた。








「これより、『特殊修行』を行う。対象者、1()0()-()0()7()







 突然の指名に、身体が硬直した。周りの視線が一斉に突き刺さる。

 ようやくかという雰囲気を隠さず、イオを見下している。人間が二人、イオを運ぶ為に近づいてきた。

 そこで我に返り、声を荒らげて叫ぶ。


「どういう事だ!? アタシは何もしていない!」

「今朝方、とある職員が辞表を置いて()()()()()()のう。一緒にあった手記に、お前に情報を流していたと綴られておったわ。お前の評価は高く、期待していたがなぁ……軍神様の復活を待つ今、不穏な要素を残しておくにはいかない」

「人間に情報をもらった!? いつ、どこで、どうやって!? そもそも、アンタ達と内通する隙もなかっただろ!?」


 イオの叫びも虚しく、両腕を人間二人に捕られた。そのまま持ち上げられ、移動させられる。

 その先には、確実な死。無抵抗で死を迎え入れる訳もなく、拘束を解こうと暴れる。

 その際に、こちらを見て口元を緩めているサングラスと05-19の姿が見え、陥れられたと察した。


 くたばらないイオに痺れを切らしたようだ。権力を使って、イオの排除する方向にしたらしい。冗談ではない。


「ふざけるな! 体力知力は愚直に! 直感は()()()()と知っている! 不正する必要はない!」

「ほう、あの修行の真の意味に気がついておるかかなりの逸材じゃが…………もう一人おるから問題なかろう。そちらの方が、優れているという報告もある」


 男の目線が05-19に向く。それに気づき、誇らしげに胸を張る05-19。

 若干、顔が強ばっているのは魔力について知らないからだろう。そう推測する間にも、イオは引きずられていく。



 05-19が不正をしていると騒いでも、無駄だろう。物的証拠がない以上、何を言っても悪足掻きだ。



 惨めに死にたくない。死が逃れられないならいっその事、自分でこの生を終わらせようか。

 自死を考え始めた、まさにその時だった。





『ああ〜ん!』





 場違いな嬌声に、その場にいた誰もが固まった。

 瞬きする間にも、硬直する全員の視線が通る所に大きな四角の光が現れた。その中に、現実感溢れる映像が流れている。








 サングラスと05-19の生々しい性交場面だった。






 

19のナンバリングがすんなり決まった理由です(笑)

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