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「イオ、タエタ! スゴーイ!」


 ジャピタが声も身体も弾ませて言う。

 膨大な情報量を受け止めたイオに、心から喜んでいるようだ。 目を細めて眺めつつ、整理した記憶から得た現実を突きつける。


「ジャピタ…………アンタ、力の制御が下手すぎないか?」

「ソウ?」

「嘘だろアンタ……」


 優しく核心をつけば、ジャピタは不思議そうな顔を返す。どうやら、自覚がないらしい。厄介この上ない。




 記憶から把握したジャピタの行動パターンは、全て同じだ。




 腹を満たしそうな負の感情を持った相手に近づき、囁き誘惑する。切羽詰まった相手は欲望のまま、ジャピタの名を呼び力を得た。


 だが、ここで問題が起きる。


 ジャピタの持つ力が強すぎるのだ。これは、同調によりはっきりと伝わってきた。

 恐らく、神ではない生物など赤子の手をひねるより簡単に仕留められる。にも関わらず、受け渡す力を調()()()()()()()

 神の力など、ほんの一欠片でも強大なものだ。それが、とめどなく自身に注がれる。


 身体の変異、理性の崩壊は当たり前としかいえない。


 記憶の中で、誰もが復讐を超えて破壊のみ繰り返す災害の獣と化していた。復讐の相手どころか、破壊の限りを尽くす。


 簡単に世界を壊せる程のバケモノ。強大すぎるが為に、あっという間に命を消耗させて身体を崩壊させる。

 どんな兵器でも倒せない強さだが、その時間だけ耐えれば命だけは助かるというわけだ。

 最も、その辺はジャピタには関係ない事だ。それよりも、力を渡した相手の死亡が重要である。


 まだまだ余力があっても、注ぐ器が壊れては意味が無い。そこまでいってやっと、ジャピタは力の讓渡を止める。


 哀れな末路を見届けた感想は、また壊れてしまったと邪神らしい簡素なものだ。

 そう思う割には、力加減を学ばない。正確には、そうしようと考えるが忘れてしまう。




 何せ、百年単位の睡眠を取るからだ。




 理由は単純明快。得た物よりも与えた物の方が多すぎる。

 力加減を知らない所為で、腹を満たす為の行動が逆に腹を空かせるのだ。それを補うべく、ジャピタは眠りにつく。

 そうして数百年を過ごし、起きたら空腹を感じ、餌を求めてまた世界を渡る。




 なんとも、無駄が多い行動パターンだ。

 その中にある一番新しい記憶が、イオが疑っていた軍神神話だ。


『貴様! 国王たる余を追放するとは何事だ!?』

『兄上……各国と和平を結んだ今でも、必要のない戦争を起こそうと模索していますよね? そのような危険な人物を、国のトップに置いていられません』

『臆病風に吹かれおって! おい、我が妻よ! なぜ軟弱者の横にいる!?』

『私はこの国の王に嫁ぎに参りました。その際、先代様には兄弟を見極め、王として相応しい方に嫁げと言われております。兄君である貴方様の横暴さは、あまりにも目に余るもの。故に、弟君を選ばせていただきました』

『この、裏切り者がっ! 離せっ! 離せっ! 戦の何が悪い!? 更なる欲を求めて何が悪いっ!? 絶対に許さぬ! 許さぬからな!?』


 美しい人魚と弟が見守る中、兵士に連れられていく兄。

 野性味溢れた顔を怒りで赤に染め、唾液を飛ばして叫ぶ。ギラついた瞳には、強欲さと傲慢さが滲み出ていた。

 外に投げ出された兄にジャピタが話しかけると、歪んだ笑みと共に高らかに邪神の名を叫んだ。


 兄は過剰な力で暴れつつ、変形していく。それを見た人魚と弟は、民から魔力を集い封印魔法を発動させた。

 兄は防御の魔法を放ったが均衡の末に負け、眩い光に包まれた後に石像と化した。人間の姿であるのは、共に過ごして来た日々がある故の情けだろう。



 しかし、ジャピタには細かい事情などうでもよく、ひたすらに眠かった。

 だから後先考えず、()()()()()()()()()()()()()



 つまり、封印と何も関係ない。時が経つにつれて、正しい記述が消えて考察が入り交じった結果だろう。


 軍神神話の真実は、今までの日々を否定するものだった。

 元より信じてはいなかったが、事実はイオの予想以上に残酷だ。

 それが酷く虚しい。




「イオ~?」


 心細い呼び声に、イオは我に返った。思考が沈んでしまっていた。隣のジャピタが心配そうに見上げている。

 金の瞳を潤ませる姿につい笑みが浮かび、頭を撫でた。


「悪い。もう大丈夫だ」

「イオ、ミカタ! アンシン!」

「そうか。その気持ちが嬉しいよ」

「ウン!」

「そうそう、力加減の話だったな。アンタは貰う感情より与える力が多すぎる。それを補う為に寝るみたいだな」

「エー!?」


 大口を開けてジャピタは驚いた。全く気がついていなかったようだ。素直な反応に手を頭に置いたまま、考えを伝える。


「だから、力加減が重要だな。出来そうか?」

「ウーン…………イオ、イッショ、デキル。イッショ」

「アタシが? 一人魚が邪神の手伝いとか、出来ないだろ」


 苦笑いしながらイオは返す。ジャピタなりにイオを元気づけようと、冗談を言ったようだ。

 励ます気持ちだけでも嬉しいものだ。止まっていた撫でる手を再開させる。


 自分の手でジャピタの顔は隠れていて、どんな表情をしていたかをイオは知る由はなかった。


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