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修行対象者の動揺や考えなどを機械音声が知る由もなく、淡々と内容を伝えた。
『ダイヤル錠の解除を行ってください。既に四文字中、一つあるいは二つは固定されております。残りを当ててください。数字を合わせて錠を引き上げる行為を一回とカウントします。
十回以内に開けてください。十回外しますと、それが引き金となって拘束者に落雷魔法が発動します。スタートから二時間経過しても同じです。身体中の血液と気の流れを感知し、瞳と指に流し込むことが重要です。それでは、スタート』
あっという間に、修行という名の実験が開始された。逃れられない運命に、何人もの啜り泣く声が聞こえてくる。
それもそうだ。見たところ、ダイヤル錠の数字は0から9。
100通りの組み合わせの中から、正解の一つを十回以内に当てなければならない。制限時間を超えても失敗となる為、自力で10%を当てるしかない。
自分の命を強制的に賭けさせられているのに、分が悪すぎる。
為す術なく、嘆くしかできないだろう。10-07は改めてダイヤル錠を手に取り、それに気づいて目を見開いた。
固定されているダイヤルがない。四つ全てを動かすようになっている。
反射的に舌打ちしようとして、なんとか押し留めた。視線を動かし、水槽の外にいるサングラスを見つける。
遠くだからはっきりと映らないが、ニヤニヤと不敵に笑っている雰囲気を出している。
10-07は溜め息をこぼした。妨害工作する程に、自分を嫌っているようだ。そして、サングラスも直感修行の真実を知らないらしい。
アナウンスが言っていた、血液と気の流れを感じる。
そこを意識すると、身体中を巡る不思議な力を感じ取れるのだ。
恐らく、魔力。
転移魔法の際、宝玉から漂う魔力に似ているからだ。
最初の直感修行を運良く乗り越えた後、暇さえあれば愚直にアナウンスの指示に従った。それしか、縋るものが無かった。
しばらく続け、ある日ふと気づいたこの力は、直感修行の答えを示してくれる。
魔力を指先と目に集中させる。ダイヤル錠に流れていく自分の魔力を眺めていると、四つの数字へ集まっていった。
4、9、8、9。
何となく、良くない並びだと口をへの字に曲げる。本能で嫌な予感は忌避するもの。
今回の修行は、失敗者が多そうだ。
数回ほどわざと失敗し、正しい並びにして錠を上げた。
軽い金属音と共に鉄輪が外れ、自由の身となった10-07は上へと泳ぐ。
わざわざ、嗚咽や断末魔が飛び交う場所にいたくない。
水上に顔を出すと、顎や耳から雫が垂れる。命の危機が終わったと、やっと実感した。
「ちょっ! なんでアレで生きてんの!? やっぱり不正じゃない!」
「アレ? まさか、アタシが必ず死ぬ様な細工があると、確信でもしてたか?」
水槽の縁に設置された板に乗ろうとした所、05-19が噛み付いてきた。
丁度いいと軽く揺さぶってやれば、口ごもって黙っている。その反応が自白に近いというのに、周りはこちらへ敵意を向けている。
05-19のカリスマ性は、賞賛に値するものだ。
「あと、いの一番に成功したアンタにとやかく言われたくないな」
「どういう意味よ!? っざけんじゃないわよ!」
事実を口にしただけで、05-19は過剰に食いかかってきた。甲高い罵倒も敵意も無視し、10-07は水中を見下ろす。
今、水中にいる内の半数が失敗者のようだ。長い髪は逆立ち、力をなくした身体が水に合わせて揺れている。
鉄球が重石となって、その場に留まっていた。
焼け焦げた皮膚が痛々しく、時たま上を向く顔は苦痛の形相で固まっている。
焼けて白く濁った眼球が、成功者を虚ろに眺めた。
まるで、こちらを呪い祟ろうとしているみたいだ。
実際、そう考えていただろう。10-07が同じ立場ならそうしていた。初回でこれなら、尚更だ。
濁った瞳をした10-68に少しだけ同情を示し、10-07は顔を上げて端の方に座り終わりを待った。
デスゲーム感出したかった。
わりかし好きです、デスゲーム系