4.オリーブ視点
更新四日目。
過去編です。
音楽の申し子。それが、周りが下したオリーブの評価だった。
物心ついた頃から音楽を愛し、その手で作り上げては美しい旋律を奏でる。誰もがその音色に聞き惚れ、賞賛した。
音楽こそがオリーブの全て。
その為か、他の事に一切の興味を持たなかった。
必要最低限の生活や付き合いはするが、それ以外は音楽のみ。
音色や人柄に惚れたと多くの女性が近づいてきたが、オリーブは全く食指が動かなかった。
音楽以上に心揺さぶられる事がなかったのだ。だからこそ、ヘレナと出会った時の衝撃は忘れられない。
「は、初めまして! 見習いの、ヘレナと言います! こん、今後とも! よろしくお願いします!」
馴染みの商人から紹介された少女は、美男美女だらけの前で緊張しながらも挨拶をしてお辞儀をする。
エルフの村々と外の世界を繋ぐ行商人のリーダーが、未来を見越して雇った弟子らしい。
赤茶色の少しカサついた髪に、茶色の大きな目。
まだ十歳と聞いたが、状況判断が上手いようでニコリと笑みを浮かべている。垢抜けないながらも、真面目そうな印象を受ける。
その姿を見かけた瞬間、オリーブは雷に打たれたかのように心臓が飛び跳ねた。
ヘレナだけが、輝いて見える。
ほんのちょっとした動作でも目を奪われ、高鳴りが止まらない。
この感情を定義付けるよりも先に、体が動いた。
人波をかき分けて、ヘレナの前で跪き、恭しく空いている手を取る。
「貴方は私の最愛です……! 貴方の傍に居続けることを許してください」
「ふぇ!?」
硬直するヘレナと口を開けて唖然とする行商人達。代わりに、エルフの皆は大いに湧き上がった。
今まで浮いた話が何も無かったオリーブが、一目惚れで公開告白。盛り上がらないわけが無い。
事情を説明し、当事者と互いのトップが話し合う。結果、オリーブは森を出て行商に加わることになった。
ヘレナにとって、初対面のオリーブをどう思うかは分からない。だからこそ、一緒に過ごす時間が必要ということだ。
人間が結婚できるのは十五歳から。あと五年は先だ。
その間は行商を手伝いつつ、ヘレナ口説けというリーダーたちの判断である。
仲間達、特にファンの女性に惜しまれつつ、オリーブは生まれ故郷を出た。
慣れない行商は大変だったが、エルフという見た目と音楽の腕が役立ったおかげで売上は順調に伸びていた。
同時にオリーブの熱意は日に日に増していき、その度にヘレナへ愛を伝える。
ヘレナが好意を抱くまでに、そう時間はかからなかった。
想いが通じあってからも、オリーブの溺愛は止まらない。
むしろ、ヘレナを通して見る世界は全て美しく、芸術性を高めた。
熱情的な小夜曲の数々は、行商の売りになるほどだった。
十五歳になったヘレナと結婚しても、子が産まれても、仲間達と行商人として生きていく。
オリーブのささやかな幸せは、運命によって狂わされた。
『女神の信託で、オリーブが勇者パーティーに選ばれた』。
あと数ヶ月でヘレナが十五歳を迎える時だった。
大きめの街に着くなり、自分達を神官達が囲んでそう告げたのだ。
そう言われた所で、オリーブは行商人だ。冒険者ではない。
それに、もうすぐで最愛のヘレナと結ばれる。だというのに、魔王級を倒すまでは解放されないなど冗談ではない。
「オリーブ。魔王級を放っておくと、たくさんの人が不幸になってしまうわ。貴方しかできないのなら、それを優先して欲しいの。大丈夫。私、いつまでも待ってるから」
断固として拒絶するオリーブを説得したのもヘレナだ。ヘレナや仲間達の安全の為と言われれば、致し方ない。
後ろ髪引かれる思いでヘレナ達と離れ、他のメンバーがいるという王都へ向かった。
王都の冒険者ギルドで分析してもらうと、音楽を奏でる事で支援魔法使えるとの事だ。
オリーブの音色を聴くと、気力が溢れるようだ。よく言われていた感想だが、それが原因だったのだろうか。
実感がわかないまま、神官長直々に案内されて城、国王のいる間に行く。
その間に他のメンバーについて教えてもらった。必要最低限の情報は必要だからだ。
聞けば、オリーブ以外は同じパーティーを組んでいた冒険者だったらしい。すでに連携などが出来ているメンバーに、自分が加わる意味はあるのだろうか。
疑念を抱えながらも、国王の面前で他のメンバーと出会う。同時に、今すぐ帰りたくなった。
冒険者だと思われる女性が四人、頬を染めて初対面のオリーブに見惚れている。
嫌な予感しかしなかった。そして、それは正解だった。
あと数話、過去編になります。
何故か過去編を書くと長くなってしまう性分でして