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3

更新3日目

 


 ジャピタ先導の元、オリーブの体力と歩みに合わせて山を下ること数十分程。


 ようやく木々が少なくなり、人通りがありそうな道へ辿り着いた。今までの獣道とは違い、人の手が入って整備された痕跡がある。

 どうやら、山を迂回する為に造られた通路のようだ。広く取られた幅は、大荷物の馬車も余裕で通れるだろう。

 ご丁寧に、イオ達が降りた道との合流地点には、看板があった。


 流し見て要約すると、山は上級魔物が多く生息しているから、余程の自信が無いなら時間はかかるが迂回路を選べとの事だ。


 山を挟んでほぼ真反対に、町があるようだ。随分と交流しにくい場所で発展させたものだ。


「見覚えは?」


 イオの問いに、首を横に振るオリーブ。記憶の手がかりにならないなら、いつまでも突っ立っているつもりはない。


「なら、とっとと行くか」

「は、はい」

「イオー。マチー? ムラー?」

「町だろな。近くに魔物の山があるなら、冒険者ギルドを中心にそこそこ賑わってる筈だ」

「しかし、こちらの町でいいのでしょうか?」

「それでいい。アンタのバッグには、食料は残ってた。なら、山に入った直後にあの熊と出会ったと考える方が自然だ。そうだと考えれば、記憶の手がかりは近くの方ってなる」

「なるほど」 


 イオの返答に納得するオリーブ。随分と歩いているが、疲れているようには見えない。見た目以上に体力、気力があるようだ。





 平坦な立地は山よりも歩みを加速させ、五分少々で町が見えてきた。





 石造りの門は酷く簡素で、入り口と思われる場所に格子戸、その隣に少し高い見張り台があるだけだ。

 クリーム色の石壁は遠目から見ても老朽化しており、所々にひび割れや穴があった。

 門の前に堂々と立っていれば、見張り台から人が駆け下りてくる気配を感じた。

 遅すぎる反応は、逆にこの辺りの治安がいい事を証明している。


「オ.オリーブ殿!? 何故、またこちらに!?」

「何かあったのですか!?」

「他のメンバーは!?」

「愛用の竪琴は!?」


 ドタバタと愉快な慌てぶりを見せながら、複数人の男がオリーブに詰め寄った。

 私兵なのか、質の悪い胸当てをして手に剣や斧を持っている。

 一方、矢継ぎ早に質問されたオリーブは焦って返答が思いつかない。ここで時間を食うには勿体ないので、救い船を出す。


「ソイツ、山の中で倒れていて、記憶の大部分を失っている」


 事実を直球で伝えれば、男達が一斉にイオの方を向いた。そのまま、じろじろと全身を眺めてくる。

 厭らしい目ではなく、心の底から驚いてる目だ。


「魚? 魚の獣人? それと……海のペットか何か?」

「初めて見たわ、オレ……」

「わかる。その上、勝気なスレンダー美女だと? あり寄りのありだわ」

「巨乳美脚派のワシは絶対ナシ」

「それよりも今、記憶喪失と言わなかったか!?」

「オリッ、オリーブ殿が記憶喪失!?」

「一大事だ! おい、ギルド長に報告!」

「任せろ!」


 返事をした一人が町に駆け出そうとして、門の存在を思い出して見張り台へ戻っていく。そこから中に入るのだろう。

 残り三人も色々と喚きながら、門を開ける為に戻って行った。


 姦しい兵士達が消えて少しすると、格子戸が上へと動き始めた。それから十秒程で上がりきり、ようやく町に入れるようになった。


 クリーム色の建物に赤レンガの道。統一された外観は美しいが、全体的に廃れた印象も受ける。

 人気が少ないのも、建物自体少ないのも、そう感じる一因だろう。小規模の町だ。

 そうなると、反対側の方が賑わっているかもしれない。


 分析も束の間、町の奥から一人の男性がこちらへ駆け寄ってきた。深い皺と共に刻まれた傷痕が、歴戦の猛者だったと告げている。




「オリーブ殿が記憶を失ったとは、誠ですかな……?」




 どうやら、ギルド長のようだ。

 余程慌てていたのか、息は切れ気味で靴紐も解けかけている。それを引け目に感じて俯くオリーブに変わり、イオが簡単に説明する。


 全て聞き終えたギルド長は青ざめ、天を仰いだ。


「なんという事だ……」

「あの、お願いがありまして……私がここにいた時の事を、教えていただけないでしょうか?」

「そ、そうですな。では、ギルドの方まで案内いたそう」


 二人のやり取りを黙って聞いていたイオ。注意していたおかげで、ギルド長の不自然な戸惑いにすぐ気づいた。

 ギルドへ案内するべく、先に歩き出したギルド長の横につく。



 そのまま、小声で囁いた。






「アンタ、ああなった原因について心当たりあるのか?」






 イオの問いに、ギルド長は目を見開く。動揺しているようだが、オリーブに悟られない為に歩く速度は変わらない。さすがの猛者と言った所だ。

 並行しながら、小声で言葉を交わし合う。


「何故わかった?」

「戸惑いつつも納得してただろ。見てたらわかる」

「オレもまだまだだな……ならば正直に言おう。記憶を戻さない方が、彼にとってはいいと思うのだ」

「アタシが困る。それに、アイツも記憶を戻そうとしてる。それを邪魔するのか?」


 イオがそう言うと、ギルド長は項垂れて口を閉じてしまった。オリーブに嘘はつきたくないが、言いたくない。ギルド長の葛藤がヒシヒシと伝わってくる。



 だが、事態というのは思いもしないところで急変した。



「オリーブ!?」


 後ろから誰かが駆ける音とジャピタの慌てた声がした。

 振り返ってジャピタと同じ方を見れば、脇目も振らず走るオリーブの後ろ姿が映る。


「いかん!」


 思い当たりがあるらしく、ギルド長がその後を追い始めた。イオも追いつくべく、ジャピタを掴んで泳ぎ出す。

 二人共、同じ位の速さで差が縮まらない。やがて、一つの建物の前でオリーブが止まった。


 他の建物から少し離れており、物置代わりの小さな小屋だ。

 それを前に、オリーブが震えていた。ギルド長は何も言えず、下を向くしか出来ていない。


 一歩、一歩。小屋に近づくオリーブだが、その場に崩れ落ちるように膝を着いた。小屋を見上げ、両腕を伸ばす。








「ヘ、レナ……? ヘレナ、ヘレナ、ヘレナヘレナヘレナ! あっ、あ゛ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!」






 全て思い出したのだろう。心の奥底からの叫びが木霊する。




 怒り、悲しみ、憎しみ、怨み。


 空虚、罪悪感、憎悪、絶望、殺意。





 その全てを飲み込み、湧き上がる復讐心。


「やっと、餌にありつけそうだな」


 悲痛な絶叫を前に、イオは小さく呟いて不敵に笑った。


次からはオリーブ視点になります


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