11.ゴブリンキング視点
復讐は上手くいったが
ゴブリンキングは満足していた。
禍々しい邪神様の言う通りに行動した結果、仲間達への大きな敵意は無くなった。以前と同じ位の平和な日々。
いや、それ以上に充実した毎日だ。
激しい音と大勢のピクシーの喘ぎ声が部屋に響き渡る。ここは簡易な繁殖施設だ。
天井には邪神様から授けられた青い宝玉がはめ込まれ、広い室内では見渡す限りに繁殖活動が行われている。
固定したピクシーに種を植え付け、仲間を産ませる。雄は魔力の強いゴブリンとなり、雌は愛らしいピクシーになる。
前者は戦力、後者は新しい苗床として使える。無駄がない、素晴らしい流れだ。
この状況も、キングが作り上げたものだ。邪神様より授けられた知恵により、人間達と交渉をしてこの小屋を手に入れた。
人間達は騒動の元凶であるピクシーを罪人として捕え、ここに連れてくる。おかげで、仲間の数もどんどん増えていく。
つい先程、キングも数人のピクシーを味わったばかりだ。
嬉しい事に、ピクシーが産んだゴブリンはシャーマンやウィザードといった魔力特化の上位種になりやすい。
魔法は、孕んだピクシーに僅かな休息と引き換えとして教えさせた。また、応用の魔法を考えさせ、それも習得させる。
その中で一番使える魔法が転移だ。
対象を指定した場所に一瞬で移動させる。魔力を大量に使うが、何かあった時に増援を呼び寄せたり自分達が逃げたりできるのだ。
そこで、ピクシーの知識とゴブリン達の魔力を集めて、人が入らない場所に転移装置を作らせた。
場所は別の国に住む、同族達の住処だ。これで、より安全に過ごせる。
「…………たリナイ」
ピクシーに群がる仲間達の気配に、キングは小さく呟いた。
少し前から、仲間が減っている。別にそれはいい。だが、一匹ずつという事がおかしい。
人間達と戦って減ったなら、もっと多く減る。変な減り方だ。
それも、最大の危機を共に乗り越えた仲間ばかりだ。気がつけば、あの時にいたゴブリンはキングだけになっている。
少し気になるが、聞こえる艶やかな声にかき消された。
あっという間に、雌を貪る意欲が湧いてくる。それに加え、抵抗する雌を屈服させたい欲も出てきた。
側近に声をかけ、転送装置で別の場所に向かった。自分の縄張りでは、ピクシー狩りの影響で雌がいないからだ。
出会った同族と挨拶を交し、外に出た。
ここの同族は岩ばかりの山を縄張りとしており、少し歩いた所に湧き水が溜まっている。旅をする人間が無防備で休んでいることが多く、狙いやすい。
キングが隠れながら近づくと、運良く馬車が止まっていた。
「遠くに行ってはダメよ、坊や」
「はーい!」
馬車の傍にいる雄が数人。そこから雄のガキが走って離れていき、その後を雌が追う。
程よく熟した、いい雌だ。ピクシーの瑞々しい肌とは違う、吸いつく肌を想像して喉を鳴らした。
ウィザードが作った煙玉を雄達の近くに放り投げる。
地面に落ちた衝撃で、球体から白い煙が吹き上がった。これ で、存分に雌を嬲れる。
「え、きゃあぁぁぁぁぁ!」
「おとなシクシロ!」
「母様!?」
驚いて止まっている雌に飛びかかり、押し倒した。
邪魔な布を引き裂くと、青ざめて弱々しい抵抗をする雌。その様が更に興奮させる。
「坊や逃げて!」
「嫌だ! 母様を離せ! この! この!」
「うるさイ!」
せっかくの楽しみだというのに、ガキが喚く。
苛ついて腕で振り払えば、簡単に吹き飛んだ。それを見て、雌の抵抗が激しくなる。
大きく振りかぶった指が、キングの目を引っ掻いた。流石に痛みが走り、その事実に苛立ちが増す。
邪神様が現れてから、何もかもが上手くいっていた。だから、思っていたよりも強い抵抗に苛立ちが止まらない。
そうだ。自分と仲間は邪神様に認められている。仲間達の為に知恵を授けてくれた。
ただの雌が、逆らう事が烏滸がましい。その昂りのまま、キングは叫んだ。
「われわれニハ、じゃしんさまガおラレルノダ! じゃしんさま二、さかラウきカ!?」
刹那、景色が一変した。
「ごっ、ぼ……!?」
驚くキングの口に、液体が潜り込む。何の味もない、ただの水。だが、問題はそこではない。
どこもかしこも水、水、水。僅かな明かりが上と思われる場所から照らし、下は暗闇だ。
水中にいる。
おかしい。今から熟した雌を堪能するはずだったのに。
よく見れば、周りを仲間の遺体が漂っている。消えた仲間達だ。
『いいか? 力を貸すのは、アンタ達の復讐心と引き換えでこれっきりだ。決して、アンタ達の為ではない。それを忘れるなよ? これは、神との約束だ。破ったら、相応の罰が待ってるからな』
暗くなる意識の中で、邪神様の言葉を思い出した。
神との約束は破ることなかれ