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本当の復讐者はだぁれ?

 

 橙色の光は沈みきり、黒が空に広がりきった。


 この世界には月がなくらしく、灯りがなければ人間は近くの仲間でさえも明確に区別出来ない程だ。

 逆に、夜目が効く魔物達にとっては絶好の時間帯といえる。

 わざわざ森の外に基地を置く理由としては十分だ。

 最も、一神であるイオとジャピタの五感は、通常の生物よりも優れている。なので、暗闇だろうと関係ない。



 人間達の基地を出てから、一時間は過ぎただろうか。イオとジャピタの相手までの距離はまだある。

 木々の間をすり抜け、奥へ奥へと進む。その間に、ジャピタにはゴブリン以外にいる魔物について探知させた。


 まず、動物が元となった低位の魔物が六、七種類ほど。

 それらは食料として狩られたり、危険が迫れば反撃したりする程度の魔物だ。

 色々と根回しされた今回の騒動に関係あるはずがない。



 消去法で黒だと判断した種族の名前に、イオは引っかかりを覚えた。知能としては問題ないが、一般的な知識との相違点が多い。




「ジャピタ。最後のヤツらに鑑定」

「ハーイ」


 手掴みから首の定位置に移動させたジャピタは、気の抜けた返事をしながらも魔法を発動させる。

 通常、鑑定は対象を視認して発動する魔法だ。だが、邪神であるジャピタの力はデメリットを完全無視できる。

 そうして得た調査内容を、ジャピタは理解せずとも読み上げた。それを聞き、ますます黒だと確証づける。





 やがて、国境と言っていた谷川が目の前に現れた。橋がかかっていない為、関所らしき建物もない。

 邪神に魔物避けなど効かないが、範囲内だと肌がピリピリと違和感を覚え続けるのだ。それはそれで不快なので、近くになくて幸いだ。


 悠々と川を越え、さらに進む。そこからは一分も経たないうちに、目的地へと辿り着いた。


 山腹の急な斜面に、土台がズレた所為で斜めに木が生えている。その中でも、大木の根同士が絡み合った奥。

 根がゲート代わりになっている洞穴があった。

 複雑に結ばれた木の根の隙間は小さく、大人だと引っかかる可能性が高い。

 イオは見つけたルートに水流を作り、流れに乗ってするりと中へと入った。



 洞穴の中は暗闇が深まっていたが、足元に発光するキノコが点々と存在していた。流石に、魔物でも暗すぎるようだ。

 灯りに通りに先を急ぐ。キノコが照らす壁は岩であり、天然の洞窟だとわかる。今は関係ない為、それ以上は気にしない。

 



 そして、最深部と思われる広い空間に出た。

 同時に、()()()()()()()()が侵入者にようやく気づく。




「オまえ!」

「あな、ナイ、めす!」

「よお、ゴブリン共」


 広い空間をイマイチ使いこなせず、奥の方でゴブリン達は固まっていた。昼間に襲ってきたゴブリンもいるようだが、驚きつつ指示を待った。

 全部で二十匹前後のゴブリンだ。ぱっと見て、上位種は見当たらない。

 随分と数が減らされたものだ。だからか、通常個体に紛れて大物が鎮座している。

 他の個体が立っている中で粗末な椅子に唯一座っている、一回り大きなゴブリン。

 藍色の宝玉が煌めく杖を持ち、赤黒い布をマントのように羽織っている。その姿には、威厳が感じ取れた。





 この中で唯一の上位種。この辺りのゴブリン達を配下に持つ、ゴブリンキングだ。





 キングはイオを見据え、ゆっくりと嗄れた声を発した。


「てきいハナイヨウダガ、なにシ二きタノダ。マーメイド……いや、ソンナなまやさシイいきものデハナイナ。もっとモやみ二ちかイそんざいトみル」

「理解が速くて助かるよ。話は簡単、アンタらの利になる取引だ」


 イオは愉しそう、口角を上げる。

 この緊張感が堪らなく面白い。


「アタシは邪神イオレイナ。()()()()()()()()()()()()()()? 対価と引き換えに、その恨み辛みを晴らしてやるよ」


 途端、ゴブリン達がざわつき始めた。騒がしく仲間達を見ながら、キングは僅かに瞼が動いただけだ。流石、頂点なだけある。


「わカルノカ!」

「ヤット、しんジルやつガイタ!」

「ソウダ! われわれハむじつダ!」


 やいのやいのと言葉を上げていく。溜まっていた鬱憤を放出するように、声量もどんどん上がる。

 話が進まないと思った直後、キングが足を上げて地面を踏み鳴らした。

 固い岩肌にびりっとし振動が伝わる。一瞬で、ゴブリン達は静まり返った。

 キングの鋭い眼光が全個体を一瞥する。それを受けたゴブリン達は慌てて壁の方へ下がり、イオとキングの周りに空間が生まれた。


「なぜ、ソウダトおもっタ? にんげんどもトあっタノナラ、ソチラヲしんジテモおかシクナイはずダ」

「確かに、アイツらの憎悪は本物だな。だけど、()()()()()()()()()()()()()()。おかげで人間の復讐心(あのエサ)はスッカスカだ」




 イオ達は餌を選りすぐって取引する。イオの趣味が理由の大半を占めているが、きちんと味の方も関わっている。

 邪神にとって負の感情は食事。その為、質や量が全く異なるのだ。

 自分勝手な逆恨みなどは、量が多いが質は最悪。

 それに加えてろくでもない人物の割合が高く、ジャピタにそういった餌は選ばないように言い聞かせてある。




 しかし、今回は別の珍しい例になる。

 極まれにだが、()()()()()()()()()()()場合があるのだ。




 抱く憎悪が本物であろうと、対象が違えば意味はなさない。結果として、中身の伴わない張りぼてのような餌になってしまう。

 ジャピタはきちんとゴブリン達が正しい復讐者、取引相手と判断してこの世界を選んだ。

 よくできたと、首元に巻き付くジャピタの頭を軽く撫でる。

 うっとりとするジャピタからすぐにキングへ視線を戻せば、続け様に問いが飛んできた。


「ソレガわカッテイルナラバ、コノそうどうノしんじつハりかいシテイルノダナ?」

「情報のすり合わせか? 大まかでいいなら構わない」


 力の差を感じているはずだが、恐れる様子はおくびにも出さない。キングとして、配下を護る為に必死なのだろう。

 その意気込みは見ていて悪くない。望み通り、こちらが把握している情報を吐き出す。





 クロット国の王女、ルピナスが輿入れの列を成して国を出る。

 そこから国境までの間に、何者かに襲われた。王女の輿入れの人数を考えると、複数人はいたはずだ。

 魔物避けがあったにも関わらず、ルピナス王女含めた全てを何処かへ隠した。恐らく、生存の可能性は低い。


 そうして全てを隠したそいつらの一匹が、()()()()()()()()()()()()


 仲間達の手を借りて自身の服や肌を汚し、そのまま国境の関所に走り込み、王子に嘯く。


 自分達はゴブリンに襲われた。それで、事は終わる。



 元よりゴブリンは、人に害なす醜い魔物で忌み嫌われている。そこに加えて、嫁いでくる王女と従者が被害を受けた。

 人間の怒りの矛先はすぐにゴブリンへ向き、この森の範囲内ではあるが全滅の危機に瀕している。




 この騒動の黒幕である偽物王女とその仲間。この森に住む魔物の一種であり、ゴブリンと同様に多くの世界に存在する。

 だが、人間達からの認識は真逆であり、妖精として分類されることが多い。






「ピクシー。人間を騙して、アンタらを殺させてるのはソイツらだろ?」







 確信をつく言葉に、周りのゴブリンから感嘆の息が漏れた。


 ピクシーは下級の亜人で、約二十センチの小さな背丈に尖った耳をした小人だ。

 トンガリ帽子と緑色の服を着て、虫の羽で飛び回る。

 幻術を得意としており、見た目の良さとその光景から、妖精と聞くと多くの者がこの姿を連想するだろう。

 正しく供養されなかった子供の魂が妖精になると、御伽噺として伝えられている世界もある。

 人間に関わる事もあるが、軽い悪戯から可愛い手伝いなど、比較的に害はない。




 しかし、この世界のピクシーは特殊な点が幾つかある。




 背丈は子供と同じ位。その上、全員が雌だ。

 単色の素朴なワンピースに身を包む、可憐な少女。よく観察すれば、薄らと透明な二対の羽が確認できるらしい。

 人間には友好的にも敵対的にも接する。それは感情の起伏に依存するようで、友好的なら様々な贈り物を、敵対的なら苛烈な悪戯を施す。

 どちらも場合も相手の都合は含まれず、ピクシーの自己満足とも言えるようだ。


 それでも魔物ではなく妖精に分類されているのは、過去の人間が麗しい見目に騙されたのだろうか。

 だから、魔物避けに引っかからずに王女一行に近づけた。


「ただ、ピクシーがそんな事する理由が全く想像つかない。アンタらを巻き込む理由もだ」

「ぴくしーハにんげんヨリじょうぶデ、めすシカイナイ。なかまヲふヤス二さいてきデ、ヨクおそっタ。ソレト、われわれノみタメヲひどクきらっテイタ」

「なるほど? 向こう的には、醜いゴブリンは消えて当然といったところか」

「ダカラトいっテ、コノようナし二かたハうケいレラレヌ!」


 キングが叫ぶ同時に肘置き殴りつけた。今までを思い出しているらしいキングは歯を剥き出しに唸り、はっきりとした敵意を目に宿す。

 それを見つつ、イオは邪神の力を解放した。姿も変わったイオを見るキングは驚愕しつつ、椅子から立ち上がって数歩前へ出た。

 そのまま、崩れ落ちるように膝をつき、歓喜の涙を流してイオを拝んだ。


「オオ……オオ…………! ナントまがまがシキすがた……! まさ二、われわれノすくイノかみ!」

「かみさま!? かみさま!」

「ぶれい、ゆるシテクダサイ! たすケテクダサイ!」


 キングに倣い、他のゴブリンも膝を着いて懇願する。

 それを見渡してから、イオはキングに改めて声をかけた。


「勘違いはするな。アタシらとアンタらは、復讐心を介した一時的な協力関係なだけだ。今回、アンタらの強い怨みを対価と引き換えに叶えてやる。だが、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。いいな? それを忘れるなよ?」

「わカリマシタ!」


 キング達が顔を上げてはっきりと述べる。

 それが最期まで持てばいいが、難しいだろう。



 イオは冷静に分析をしながらも、それを諭されないように取引内容を決めるべく話を切り出した。



ゴブリン達の話し方、読みにくいと思いますが亜人ということで何卒……。


次回より、ざまぁ編です

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